◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 いま歌舞伎界で「時の人」といえば、スーパー歌舞伎「もののけ姫」(8月23日まで東京・新橋演舞場)に主演中で、NHK「豊臣兄弟!」にも森乱役で登場した市川團子(22)。父は市川中車(香川照之)で2代目市川猿翁、女優・浜木綿子を祖父母に持つ。

 6月に團子と会った。浜からだいぶ前に聞き、記憶に残っている話をした。初舞台を踏んだ8歳。車に乗っていた團子はおもちゃのロボットのネジを落とした。浜が「後で探そうね」と言うと、團子はこう返した。「探さないで。ネジが残っているのは、僕がここにいたという意味だから」

 幼かろうと関係ない。浜は孫に哲学的な思考性の片りんと、精神の神聖な域を見る思いがしたという。あれから14年。「祖母がそんな話をしていたのですか…」。團子は驚いた様子で少し目を見開き、視線を遠くに向けた。その時の表情、間。

風が吹くような不思議な感じがした。

 似た体験を他の記者からも聞いたことがある。相手の心の芯を温めるカタルシス(精神の浄化)。意識した振る舞いでなく天性だろう。先輩にかわいがられる理由が分かる気がした。会った後の余韻を通して、その人物の本質の一端に気づかされることがある。

 「いま」への研ぎ澄まし方でスーパー歌舞伎は変わる。社会現象にもなった映画「もののけ姫」(宮﨑駿監督)のヒットは97年。04年生まれの團子はもちろん当時を知らない。しかし、逆にそれが萎縮(いしゅく)を遠ざけ、武器にもなる。團子にはこの他にも伝えたいことがあったが、また機会があるだろう。今はどこまでも伸びやかに。

役の深えんを求め、歩み続けてほしい。(芸能担当・内野 小百美)

 ◆内野 小百美(うちの・さゆみ) 91年入社。演劇・映画中心に芸能一筋。編集委員。

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