東京都が2026年2月に実施した、「空き家リノベーションコンテスト2025」。優れた空き家の改修・活用事例を表彰するこのコンテストで、評価された活用事例を詳しく紹介していきたい。

最優秀賞の「はなももハッピー石神井台」の事例に続き、今回は優秀賞を受賞した「まどゐ荘」を取材した。

優秀賞受賞の「多世代共生コミュニティカフェまどゐ荘」

東京都の「空き家リノベーションコンテスト 2025」は、空き家の改修・活用事例を集め、優れた取り組みを表彰することで空き家活用の機運を醸成していくことが目的だ。このコンテストで、すでに実現した空き家のリノベーション事例を対象とする「ベストプラクティス部門」において、優秀賞を受賞したのが株式会社シーキューブによる「多世代共生コミュニティカフェまどゐ荘」だ。

空き家を学生がDIYで再生! ワンコイン弁当で多世代が集うコミュニティカフェ「まどゐ荘」荒川区西尾久|空き家リノベコンテストで優秀賞

「まどゐ荘」1階カフェの外観(撮影:内海明啓)

ITから介護事業に舵を切り、多世代共生コミュニティの場づくりへ

最優秀賞を受賞したNPO法人ハッピーひろばの場合もそうだったが、空き家活用にたどり着くまでには、それぞれがさまざまな活動を経ている。シーキューブ代表取締役の三ツ木直樹(みつぎ・なおき)さんに話を聞くと、同社はもともとITシステム開発事業を行っていたが、「モノからヒトへ」をコンセプトに、2010年に介護事業へと軸足を移したという。

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2018年からは、荒川区が実施する「銭湯みまもり隊(見守り支援員銭湯派遣事業)」を受託し、荒川区内の提携銭湯に見守り支援員を配置している。こうした銭湯での高齢者を見守る活動を通して、「銭湯を起点に、居食住をテーマとしたコミュニティの場をつくる」という構想を持つようになった。

そこで、荒川区が隔年で実施する2021年の「荒川区ビジネスプランコンテスト」に、「多世代交流の場である銭湯に近接した場所に、多世代の交流を活性化させるサロンをつくる」というビジネスプランを提案し、「奨励賞」を受賞した。そのプランには「食=高齢者向けお弁当」や「住=テーマを共有したシェアハウス」などの構想があり、それを実現させたのが「まどゐ荘」だ。

空き家を学生がDIYで再生! ワンコイン弁当で多世代が集うコミュニティカフェ「まどゐ荘」荒川区西尾久|空き家リノベコンテストで優秀賞

右からシーキューブの三ツ木直樹さん、原恵理(はら・えり)さん、運営スタッフの秀島知永子(ひでじま・ちえこ)さん(撮影:内海明啓)

荒川区の空き家利活用事業で出会った物件を学生たちがプランニング&DIYで改修

「まどゐ荘」の物件については、荒川区の空き家利活用事業の一環として建物の活用をサポートする、株式会社スピークの協力を通じて出会った。使われていなかったせんべい屋だった物件は、商店街や公園、銭湯(見守り支援をしていた銭湯「梅の湯」)といった多世代が日常で行き交う場所近くにあり、かつ同社が地域活動を行ってきたエリアでもあった。

3階建てというのも、決め手の一つになった。1階をカフェ(居・食)、2階をシェアオフィス(働)(当初オフィスとしての構想があったが、現時点ではカフェのバックオフィスなどで利用中)、3階をシェアハウス(住)にしようと考えた。

1階のカフェは、地域に開かれた「多世代が出会う拠点」になる。その仕掛けとして「日常的に立ち寄る理由」を用意することを考え、目玉となる「ワンコイン=500円」弁当を提供することにした。

500円なら、一人暮らしの高齢者も、子育てに余裕のない人も、学生も、気兼ねなく立ち寄れるからだ。ほかにも、ここに来る理由として、子どもや大人が参加しやすい多彩なイベントを開催することにした。

さらに、三ツ木さんたちは「運用は若者に託す」ことに決めた。若者が「自分たちでゼロから考えて何かを生み出す」経験を重ねることは貴重だ。そこで、弁当事業の立ち上げの際に、学生を集めた。学生のなかには、建築を学んでいる学生もいて、カフェに改修するための設計図も描いた。

そのときの図面やパースが記録に残っている。カフェは「用途を固定せず使い手によって変化する」間取りがプランニングされた。4カ所に大きなテーブルやちゃぶ台を置き、土間側は縁台を巡らせて縁側のように見せている。この図面に基づいて、プロの指導を受けながら学生たちがDIYで改修を行った。出来上がったカフェは、施工の都合で変更した箇所もわずかにあるものの、おおむね図面通りにできていた。

空き家を学生がDIYで再生! ワンコイン弁当で多世代が集うコミュニティカフェ「まどゐ荘」荒川区西尾久|空き家リノベコンテストで優秀賞

立ち上げの際に学生が考えたカフェの図面(当時の資料より)(撮影:内海明啓)

空き家を学生がDIYで再生! ワンコイン弁当で多世代が集うコミュニティカフェ「まどゐ荘」荒川区西尾久|空き家リノベコンテストで優秀賞

カフェのパース(当時の資料より転載)

空き家を学生がDIYで再生! ワンコイン弁当で多世代が集うコミュニティカフェ「まどゐ荘」荒川区西尾久|空き家リノベコンテストで優秀賞

「まどゐ荘」1階のコミュニティカフェの様子(撮影:内海明啓)

「学生が自ら考えて自ら運営すること」が「まどゐ荘」の最大の特徴

さて、「まどゐ荘」に取材にうかがって、さっそく筆者もワンコイン弁当を注文して食べてみた。野菜たっぷりで栄養バランスもよく、美味しくてコスパ最高のお弁当だと思った。

空き家を学生がDIYで再生! ワンコイン弁当で多世代が集うコミュニティカフェ「まどゐ荘」荒川区西尾久|空き家リノベコンテストで優秀賞

取材当日の日替わり(魚のマヨポン)のワンコイン弁当(撮影:内海明啓)

シーキューブによると、メニューは全て学生たちがつくっているという。一部の食材で介護事業分とまとめることで単価を抑えるなどの支援はしているものの、ワンコインで提供するために安く仕入れる工夫、質を下げない工夫も学生たちがしている。また、調理スタッフは学生のほかに地元の高齢者2人を含む12~13人で、そのシフトや時給なども学生自身で決めている。

当日調理してくれた学生スタッフの秀島知永子さんに話を聞くと、料理アプリなどを参考に調理しているが、同じシフトのときに高齢者スタッフに教えてもらうこともあるという。常連さんと話をすることも大切だと考えていて、弁当を提供する際には、いつも食べる量に合わせてご飯を調整するといったこともしている。

なお、秀島さんは、将来政治家になりたいという頼もしい大学2年生だ。地域の交流が大切だと考えていたことから運営スタッフに参加した。自ら企画して、区議会議員を招いた交流会などのイベントを開催したことがあり、今は「子ども食堂」もやりたいと考えている。地域に何かしたいと思ったときに、こうした場所があるのがよいと思っているそうだ。

「まどゐ荘」の名前の由来を立ち上げ期の店長に聞いた

さて、事業の運用は学生たちで行っているが、学生たちが話し合って決めた「店長」がまとめ役を担っている。学生のときに立ち上げ期から参加し、初代店長となった永嶋勇也(ながしま・ゆうや)さんにも話を聞いた。卒業して今は26歳の社会人だ。

立ち上げ当初は4人の学生で空き店舗を見て、コンセプトを考えたり改修計画を立てたりしたという。

カフェは輪になって話せる配置にこだわった。ネーミングも自分たちで決めた。なかなか決まらなかったところ、オンライン会議で突然、「惑っているね」と誰かが言った『まどう』というキーワードが浮かび、さらに、輪になって・丸くなって話す「円居・団居=まどゐ」という言葉が重なって、「まどゐ荘」に決まったのだという。

空き家を学生がDIYで再生! ワンコイン弁当で多世代が集うコミュニティカフェ「まどゐ荘」荒川区西尾久|空き家リノベコンテストで優秀賞

「まどゐ荘」のネーミングについて(当時の資料より転載)

DIYで改修を始めたころからスタッフの募集を始め、8人程度で事業をスタート。シーキューブに相談しながら、飲食店の申請からメニュー決め、仕入れ、弁当づくりと初めてのことばかり。「こんな経験をさせてもらえる大学生はいないから、自分たちでできたことで自信がついた」と永嶋さん。

ほかの学生にも普段できないことを経験してほしいと思っているが、立ち上げ期と立ち上げ後では、メンバーの温度差もあるので、その点が気になっているとも語っていた。

運営に参加した歴代店長たちにインタビュー

3代目店長の長江萌夏(ながえ・もえか)さんにも話を聞いた。今は23歳の社会人2年目だ。
「まどゐ荘」に参加したのは、就職活動が終わって時間に余裕ができ、ボランティア募集サイトで見つけたことがきっかけだった。はじめは公園のマルシェに出店するなどのイベント活動を担ってきたが、半年後に2代目店長が大学院に進学するため辞めることになり、店長を引き継いだ。2代目までの立ち上げ期を知る店長とは違い、すでに常連もいて弁当事業の仕組みもできつつあったこと、参加するメンバーのやりたいことがそれぞれ違うことなどで、同じ方向を見て同じことをするのが難しいと感じたという。

さて、現在の5代目店長は、社会福祉を学んでいる大学3年生の高橋えりなさんだ。

高橋さんも長江さんと同じような課題を感じている。

空き家を学生がDIYで再生! ワンコイン弁当で多世代が集うコミュニティカフェ「まどゐ荘」荒川区西尾久|空き家リノベコンテストで優秀賞

赤いエプロンをつけているのが現店長の高橋えりなさん(撮影:内海明啓)

高橋さんが参加したきっかけは、大学1年生のときにボランティア募集サイトで学生主体の「まどゐ荘」を見つけたこと。初めて来店したお客さんと話して、「弁当が美味しい」とか「また来るね」などと言ってもらったり、常連さんと毎日話したりするのは本当に楽しいという。

一方で、立ち上げ期のメンバーは仲間意識があったと思うが、現在は集まってみて初めて知り合う関係なので、関係構築から始めねばならず、その点を難しいと感じている。大学や住まいが異なるとなかなか会う機会が持てず、意思疎通や意見集約が進まないと感じながら、コミュニケーションを取り合っている状況だ。

3代目の長江さんは、「その代ごとにやりたいことができる場であってほしいと思うが、立ち上げ時の根幹の部分は継承していってほしい」と言っていた。学生主体のスタイルは、学生が入れ替わることを避けられないので、継承ということが大きな課題になりそうだ。

空き家活用には乗り越えるべき3つのハードルがある

さて、東京都の空き家リノベーションコンテストで最優秀賞・優秀賞の活用事例を取材したが、最後に、シーキューブの三ツ木さんに聞いた「空き家活用のハードル」について紹介しよう。三ツ木さんは、「大家さんの心理的ハードル」「改修費用」「用途と収益のバランス」の3点を挙げた。

たしかに、2つの事例ともに、大家側が空き家で行われる活動について共感し理解していた。また、「はなももハッピー石神井台」では改修費用を補助金でまかなうために大家が支給確定まで待っていたし、「まどゐ荘」ではDIYという手法で費用を抑える工夫をした。さらに、家賃や運営費をまかなえるだけの安定した収益がないと事業の継続は難しいだろう。

こうしたことがそろって、空き家の利活用は成功するわけだが、最も重要なことは、空き家を利用する側に「こうして活用したい」という熱い思いがあることだろう。熱い思いがなければ、空き家活用のハードルを乗り越えることは難しい。空き家の利活用を実現させた2事例には、大きな拍手を送りたい。

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●関連サイト
東京都「空き家リノベーションコンテスト2025 最終審査・表彰式」

●取材協力
まどゐ荘

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