金市場を短中期と中長期の二つの視点から考察します。短中期では、有事であるにもかかわらず「株高・金安」が生じる「逆・逆相関」に注目し、複数の材料がもたらす上下の圧力の相殺という観点からその背景を探ります。

中長期では、通貨供給量の増加や社会の多様化がもたらす「光と影」に着目し、株と金が同時に上昇する構造を考察します。


株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続の画像はこちら >>
株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続
この記事をYouTubeで視聴する

株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」

 図1は、S&P500種指数(以下S&P500)と、NY金(ゴールド)先物の価格推移です。大まかに言えば、株と金(ゴールド)の短中期視点の価格推移です。2026年2月のイラン戦争勃発後、株は大きく上昇し、金(ゴールド)は大きく下落しています。


図1:S&P500とNY金(ゴールド)先物の価格推移
株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続
出所:ブルームバーグおよびInvesting.comのデータより筆者作成

「株高・金(ゴールド)安」だから教科書通りだ、という考えもあろうかと思います。ただしこの期間、イラン戦争が継続しているさなかだったことを振り返れば、株が下がって、金(ゴールド)が上昇しているはず、という考えも浮上するのではないでしょうか。


 まずはこの戦争時の「株高・金(ゴールド)安」について、逆相関の逆の値動きであることから「逆・逆相関」と呼ぶことにします。教科書の逆、とも言えます。一体何が起きているのでしょうか。なぜ、教科書と逆のことが起きてしまうのでしょうか。


 この問いの説明は、図2でできます。教科書と逆のことが起きているのは、短中期視点の複数のテーマがもたらす複数の上下の圧力が相殺されているから、です。この場合の具体的なテーマ・圧力について、述べます。


 まずは、「伝統的な有事」に分類されるイラン戦争勃発をきっかけとした不安拡大(戦争、インフレ、景気後退など)起因の上昇圧力です。そして、「代替資産」に分類される空前のAI・半導体ブーム、巨大新規公開株(IPO)などがもたらす主要国の株価指数の高騰起因の下落圧力です。


 それに加えて、「代替通貨」に分類されるインフレ懸念がもたらす米国の利下げの頓挫や、しばしば目立つ行き過ぎた有事「有事のドル買い」をきっかけとした下落圧力、そして同テーマがもたらす相対的な通貨安をきっかけとした上昇圧力です。


図2:足元の金(ゴールド)市場を取り巻く環境
株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続
出所:筆者作成

 こうした上下の圧力が相殺され、金(ゴールド)価格が形成されていると、考えられます。金(ゴールド)価格が下落していると有事は解消されたと認識する方もおられるようですが、実際はそうではなく、その有事をきっかけとした上昇圧力が、別途発生している下落圧力に打ち消されている、というイメージです。


 特に短中期の金(ゴールド)相場の動きについては、「複数同時」「圧力相殺」が、分析する際の必須キーワードだと言えます。一つの材料で動いていない、同時に上下の圧力がかかっており、勝った方に価格が動く、というイメージです。


 このように考えることで、「逆・逆相関」を説明することができるようになります。6月15日(月)のアジア時間に、米国とイランが覚書に署名することが公表され、中東情勢の緊張が緩和する期待が浮上したときに、金(ゴールド)価格が急反発したことも、この考え方に基づけば、説明することができます。


逆相関から株・金(ゴールド)同時上昇へ

 ここまで、近年の短期視点の金(ゴールド)市場の傾向を確認しました。ここからは、長期視点の金(ゴールド)市場の傾向を確認します。図3は、S&P500と、NY金(ゴールド)先物の長期視点の価格推移です。


 1980年代は、大まかに言えば、相関係数(マイナス0.6)が示す通り、株と金(ゴールド)は逆に動く傾向がありました。

2010年ごろ以降は、相関係数(+0.82)が示す通り、株と金(ゴールド)は同じように動く傾向があります。


図3:S&P500、金(ゴールド)の価格推移
株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続
出所:ブルームバーグのデータを基に筆者作成

 教科書に書かれている「株と金(ゴールド)は逆相関」の傾向があった1980年代は、株をメインとしたポートフォリオの中に、金(ゴールド)をどのように入れるか、という議論が盛んでした。


 具体的にはメインの株が不安定化している、あるいはしそうな時、資金の逃避先と目される傾向がある金(ゴールド)を多く持つ、メインの株が好調である時は、資金の逃避先は重要視されず金(ゴールド)をあまり持たない、という傾向です。


 こうした傾向の結果、「株と金(ゴールド)は逆相関」ができ上がったと言えます。株と金(ゴールド)が、横でつながっていた、時代です。


 2010年ごろ以降は、相関係数が示す通り、同じように上がったり、同じように下がったり、しています。こうした動きは、同一の大きなテーマがもたらす影響を、株と金(ゴールド)、それぞれが受け、その結果として株高・金(ゴールド)高が起きていると考えるのが自然です。


 横のつながりではない、ということです。もし仮に横のつながりなのであれば、株高の中、金(ゴールド)の価格は大暴落しているはずです。大暴落が起きていないということは、同一の大きなテーマが株価を押し上げ、同時に同じテーマが「別の文脈で」金(ゴールド)の価格を押し上げていると言えます。


 同一の大きなテーマは、図4で示している「非伝統的な有事」の一つである、「通貨価値希薄化懸念」に関わる事象です。通貨の価値が希薄化する懸念は、通貨の供給量の急増がもたらしています。

この通貨の供給量の急増が同一の大きなテーマの一つです。


図4:長期視点の金(ゴールド)市場を取り巻く環境
株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続
出所:筆者作成

 通貨の供給量が急増することで、景気回復期待が高まり株価指数が大きく上昇することがあります。通貨の供給量が急増することで、社会で広く、資金の融通が行われ、景気回復が進むことを期待させるためです。


 同時に、通貨の供給量が急増することで、その通貨の価値が薄まってしまう懸念を大きくします。このことは代替通貨として、金(ゴールド)の存在感を大きくします。


 2010年ごろ以降、こうした経緯が一因で、株と金(ゴールド)の価格が大きく上昇したのです。同年ごろ以降の株と金(ゴールド)の長期上昇トレンドは、横のつながりによってもたらされたのではなく、同一の大きなテーマが目立ったことをきっかけに、結果的に起きたと言えるでしょう。


光と影が生む「株高・金(ゴールド)高」

 同一のテーマが株と金(ゴールド)、それぞれに別の文脈で影響を与え、その結果として、株と金(ゴールド)の長期上昇トレンドが生じていると述べました。先ほどは、同一のテーマに「通貨の供給量が急増すること」を挙げました。ここからは同一の別のテーマ「光が強く、影が濃くなること」について述べます。


 図5は、いくつかの主要なテーマにおける1970年代と2020年代の意味の推移を示しています。例えば、宇宙開発、通貨供給、情報認識、人口動態について、1970年代は国威発揚、経済成長、実態重視、成長源泉などの意味がありました。


図5:主要テーマ(一例)の1970年代と2020年代
株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続
出所:筆者作成

 その半世紀後の2020年代に、国威発揚、経済成長、実態重視、成長源泉に加え、宇宙開発では投資主題、通貨供給では景気刺激、情報認識では思惑優先、人口動態では問題温床などの意味が浮き出てきました。


 1970年代の意味は「光」だとすれば、2020年代の意味は、ある意味で「影」だと言えます。この半世紀で、世界には光と影が存在していること、が明確になったと言えます。しばしば耳にする「光あるところに、影がある」という言葉のとおりです。


 図6は、「数が増えること」の意味の変遷を示しています。このこともまた、この半世紀で、世の中の光が強く、影が濃くなったことを示す例です。例えば1970年代、通貨の供給量や情報の流通量、世界の人口が増えることは、権威が大きくなったり、成長が促されたりするため、良いことだと考えられていました。


図6:数が増えることの意味
株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続
出所:筆者作成

 しかし、2020年代は、これらの数が増えることで、権威増・成長促進だけでなく、希薄化したり(薄まってしまったり)、実態が見えにくくなったりするケースが散見されるようになりました。


 このことから、この半世紀で光はより強くなり、同時に影はより濃くなったと言えます。こうした社会的な大きな変革によって、強くなった光が期待をさらに増幅させて株高を、濃くなった影が懸念をさらに増幅させて金(ゴールド)高をもたらした可能性があります。


長期「株高・金(ゴールド)高」支える力

 通貨の供給量が急増すること、光が強く・影が濃くなることなどが、長期視点の株高・金(ゴールド)高の一因になっていると述べました。今後、経済成長が、通貨の供給量の増加を加速させたり、多様化の流れが、光が強く・影が濃くなることを後押ししたりする可能性があります。


 こうした同一のテーマが、今後も長期視点の「株高・金(ゴールド)高」のトレンドを支え続けると、筆者はみています。経済成長も多様化の流れも、ほとんどの場合、否定されないためです。


図7:S&P500、金(ゴールド)の価格推移
株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続
出所:ブルームバーグのデータを基に筆者作成

 図8は、本レポートで述べた、短中期と中長期の視点で金(ゴールド)相場を分析する際の留意点をまとめたものです。この図があれば、短中期視点で逆・逆相関が起きていることや、中・長期視点で株高・金(ゴールド)高が続いていることを、簡単に説明することができます。


図8:ドル建て金(ゴールド)価格の変動イメージ
株と金(ゴールド)の「逆・逆相関」、長期上昇は継続
出所:筆者作成

 短中期の分析の際の必須キーワードは「複数同時」「圧力相殺」、中・長期の分析の際の必須キーワードは「非伝統的材料」でした。非伝統的材料の影響を注視しているとみられる中央銀行の金(ゴールド)の買いが活発になっていることを踏まえれば、この「中央銀行」もまた、中・長期の分析の際の必須キーワードであると言えます。


 投資家を含む、金(ゴールド)に関わる関係者は、過去の常識から離れ、2020年代にふさわしい手法で分析を進めていかなければならないと、筆者は考えています。


[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

純金積立

純金積立・スポット購入


投資信託

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
楽天・ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)
楽天・プラチナ・ファンド(為替ヘッジなし)


中期:関連ETF

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GX ゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:商品先物

国内商品先物
海外商品先物


CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

編集部おすすめ