日銀の利上げ観測が続く中、日本は長く続いた「金利のない世界」から、少しずつ「金利のある世界」へと足を踏み入れつつある。金利の上昇は不動産、リース、住宅ローン保証、信託銀行など、幅広い業種に影響が及ぶ。
日銀会合で利上げ決定!トクするのはどの業界?
昨年までの日本株市場では、「日本銀行(日銀)はいつ利上げするのか」が大きなテーマでした。しかし、投資家にとって本当に重要なのは、利上げそのものではなく、その先で何が起きるのかです。
2024年3月、マイナス金利の解除を決定して以来、日銀は金融政策の正常化を進めています。6月15~16日に開催された日銀金融政策決定会合では、市場の予想通り金利の引き上げが決定し、日本の政策金利は31年ぶりに1.0%台に乗せました。
日本では1990年代後半から超低金利の時代が続いてきました。20~40代の投資家の中には、預金金利が1%を超える環境を実感として知らない人も少なくないでしょう。普通預金にお金を置いていても、利息はほとんど付きません。それが当たり前の時代でした。
この環境で有利だったのは、基本的に「お金を借りる側」です。住宅ローン金利は低く抑えられ、企業も借り入れを活用しながら設備投資や事業拡大を進めやすい状況にありました。一方で、お金を預ける側にとっては厳しい時代でもありました。預金だけで資産を増やすのは難しく、多くの個人が株式や投資信託へと運用先を広げてきました。
ただ、金利が上がれば、この前提は少しずつ変わっていきます。住宅ローン金利は上昇し、企業の借り入れコストも重くなります。これまで当然のように続いてきた超低金利が揺らげば、企業の経営判断にも、個人の資産運用にもじわじわ影響が及ぶはずです。
もちろん、金利が上がれば誰もが得をするわけではありません。
借入金の多い企業にとっては負担が増えますし、資金調達への依存度が高い企業にも逆風となります。利益率の低い企業ほど、その影響を受けやすくなるでしょう。
その半面、金利上昇をプラスに変えやすい業種もあります。代表格は銀行ですが、それだけではありません。住宅ローン保証会社、リース会社、信託銀行、不動産会社なども、金利正常化の局面で改めて注目されやすい存在です。
例えば住宅ローン市場では、金利が上がることで、固定金利と変動金利のどちらを選ぶかがこれまで以上に重みを持ちます。住宅を購入する人にとって、金利差はそのまま返済額の差になるからです。こうした環境の変化は、住宅ローン保証を手がける企業にとって事業機会につながる可能性があります。
不動産業界も一くくりでは語れません。一般に金利上昇は不動産に逆風とされますが、都心の優良物件を持つ企業であれば話は別です。賃料の上昇余地があり、インフレと金利上昇が同時に進む局面では、保有資産の価値が見直されることもあります。
リース会社も見逃せません。人手不足や設備の老朽化、DX投資(単にITツールを導入するのではなく、競争力を高めるためにデジタル技術を活用するための投資)の広がりを背景に、日本企業の設備投資需要は今後も続くとみられます。設備を自前で買わず、リースを活用する流れも根強く、そうした意味でリース会社の事業環境は比較的安定しています。
近年は工場や物流施設の更新需要も強まっています。製造業だけでなく、小売業や運輸業でも設備投資の必要性は高まっています。企業が資金効率を重視する中で、リースの活用余地はなお大きいといえます。
信託銀行にも追い風があります。新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の普及で「貯蓄から投資へ」の流れが続く一方、相続や資産承継への関心も高まっています。資産管理や承継の機能を持つ信託銀行の役割は、以前よりもはっきりと増しています。
個人投資家の投資先がグロースからバリューへ、期待値高いバリュー5銘柄を解説
現在日本では、個人金融資産の多くが高齢者層に偏っています。今後は資産承継や相続対策へのニーズがさらに強まる可能性が高いです。そうした分野に強みを持つ信託銀行には、中長期での成長余地もあります。
投資家の目線も変わってくるかもしれません。超低金利の時代は、将来の成長期待が大きいグロース株に資金が集まりやすい環境でした。ですが、金利が上がる局面では、安定して利益を稼ぎ、着実に配当を出せる企業が見直されやすくなります。
実際、米国でも利上げ局面では高配当株やバリュー株への資金シフトが見られました。日本でも似たような動きが起きても不思議ではありません。配当収入を重視する投資家にとっては、業績の伸びだけでなく、株主還元への姿勢もこれまで以上に重要になります。
利上げがあるかどうかだけを追っていても、投資のヒントにはなりにくいです。金利が動くことで、どの企業の収益構造が変わるのかに、目を向けて銘柄を探していきたいところです。
今回は、「金利のある世界」で注目の5銘柄をご紹介します。いずれも予想配当利回りが3%超と配当利回りも高めですので、中長期投資向けと言えます。
銘柄名 証券コード 株価(円)
(6月16日終値) 特色 ヒューリック 3003 1,704.5 都心不動産に強みを持つ高配当銘柄 全国保証 7164 2,858.5 住宅ローン市場を支える保証会社 三井住友トラストグループ 8309 5,979 資産運用時代を支える信託銀行大手 東京センチュリー 8439 2,439.5 設備投資回復の恩恵を受けるリース大手 オリックス 8591 6,305 金融と事業投資を併せ持つ総合金融企業
ヒューリック(3003)
東京都に本社を置く不動産会社です。金利上昇局面では、不動産株に逆風という見方が先に立ちやすいですが、同社はその中でも少し毛色が違います。東京都23区中心部のオフィスビルを数多く保有し、立地の強さを背景に安定した賃料収入を積み上げてきた会社だからです。インフレ局面では賃料改定が進みやすく、収益改善にもつながりやすいとみられます。
足元ではオフィスだけでなく、ホテルや高齢者施設への投資も進めています。東京への人口流入が続いていることから、不動産需要そのものが急に細るとは考えにくいです。加えて、連続増配を続けるなど株主還元にも前向きですので、高配当銘柄としても注目です。
全国保証(7164)
住宅ローンを中心にローン保証サービスを提供する信用保証会社です。住宅ローンを借りる人でも、保証会社の存在を強く意識する場面はそれほど多くないかもしれません。ですが、同社は住宅ローン保証事業で国内トップクラスのポジションを持つ企業で、全国の金融機関と提携し、住宅ローン利用者の保証を担っています。
同社の強みは、住宅ローン残高が積み上がるほど保証料収入も安定しやすい点にあります。景気変動の影響を受ける場面はあっても、業績が急にぶれにくいです。利益率が高く、キャッシュ創出力にも優れ、株主還元にも積極的です。住宅ローン金利が話題になる局面では、同社のような事業モデルも改めて評価されやすいでしょう。
三井住友トラストグループ(8309)
三井住友信託銀行を中核に、信託銀行、カード事業などを擁する金融持株会社です。信託銀行の仕事は、預金や融資だけにはとどまらず、資産運用、相続、年金運用など、金融機関の中でも業務の幅が広いです。その中で同社は、国内最大級の信託銀行グループとして確かな存在感を持っています。
金利上昇によって運用環境の改善が見込まれる上、新NISAの普及や相続対策への関心の高まりも追い風になります。資産形成から資産承継までを一貫して支えられる信託銀行の役割は、これからさらに重みを増していくはずです。安定した収益基盤を持ちながら、株主還元もしっかり打ち出しており、高配当株としても目を引く銘柄です。
東京センチュリー(8439)
航空機や物流設備、再生可能エネルギーなど幅広い分野で事業を展開するリース大手です。単なるリース会社というより、投資や事業運営まで手がける総合力の高さに特徴があります。
人手不足や設備の老朽化は、多くの企業にとって先送りしにくい課題になっています。工場設備や物流設備の更新需要は、今後も途切れにくいでしょう。そうした中で、設備を購入する代わりにリースを活用する選択肢は引き続き有力です。海外事業の比率が高く、収益源の分散が進んでいる点も強みで、利益成長と株主還元の両立を続けてきた実績も評価しやすいです。
オリックス(8591)
同社はリース会社として出発しましたが、今では不動産、空港運営、再生可能エネルギー、事業投資など、多角的な事業を展開する企業へと姿を変えています。もはや「リース会社」という一言では説明できない業態です。
金利正常化による金融収益の改善に加え、国内の設備投資やインフラ投資の広がりも追い風になりえます。事業の幅が広いため、景気変動に対する耐性も比較的高いと言えます。配当や自社株買いにも積極的ですので、投資家からの人気が高い高配当銘柄の一つです。
(田代 昌之)

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