電力を爆食するAIデータセンターが建設ラッシュです。急激な電力需要増に電力会社は対応できなくなっています。


 イーロン・マスク氏は宇宙にデータセンターを造り、宇宙太陽光発電を利用することで問題を解決する計画ですが、実現不可能との批判もあります。私は、将来、建設は実現するだろうと考えていますが、その時期は全く分かりません。


イーロン・マスク氏の夢、宇宙データセンターは実現するか?(窪...の画像はこちら >>

データセンター建設ラッシュで深刻な電力不足が起こるリスクも

 生成AIの活用が世界中で急拡大しています。これに必要な計算をこなすAIデータセンターへの需要も急拡大しています。現在世界中で、消費電力が1GW(ギガワット)を超えるAIデータセンターの開発プロジェクトが進行中です。


 1GWというと、原子力発電所1基分くらいの発電力に相当します。米国では既存の電力会社は、その需要に対応できなくなっています。発電能力だけでなく、送配電に必要なネットワークも足りません。そこで、新たにGW級のAIデータセンターを建設する際、隣接して発電所も建設する必要が生じています。電力無しには、データセンターが稼働できません。


 東京電力ホールディングス(9501)中部電力(9502)の合弁企業であるJERAは、米国でアマゾン・ドット・コム(AMZN)が新設するAIデータセンター(AWS)などに、電力を供給する発電所を建設する計画を進めています。米国で拡大する電力需要を取り込んで、新たな成長を目指しています。


ニューヨーク州はデータセンター新規建設を1年停止

 2026年7月、ニューヨーク州は電力を爆食する大型データセンターの新設を1年間停止すると発表しました。データセンターは既存の電力網(グリッド)への接続が許可されないと、稼働しません。


 接続するための条件を非常に厳しくし、かつバックアップ電源にディーゼル発電機を使うことを原則禁止としました。これにより、新規建設は事実上禁止となりました。


 背景として、以下3点あります。


【1】電力網の限界

 ニューヨーク州では、暖房の電化や電気自動車(EV)の普及が進み、電力需要が増大しています。そこに、従来のデータセンターの数倍から数十倍の電力を消費するAIデータセンターの建設ラッシュが重なりました。ニューヨーク州電力公社は、このままでは冬期や夏期のピーク時に一般家庭への供給が滞る「電力危機」が起こるリスクを警告しています。


【2】ニューヨーク州法の制約

 ニューヨーク州は2019年に制定された気候法(CLCPA)により「2030年までに電力の70%を再生可能エネルギーで賄う」という目標を掲げています。AIデータセンターは24時間大量の安定した電力を必要とするため、現状は天然ガス火力に頼らざるを得ません。データセンターの新規建設をこのまま放置すると、州の法律違反に直結するとの懸念がありました。


【3】水資源への負荷と地域住民の反発

 AIサーバーの冷却には膨大な水が必要です。五大湖周辺や州北部の河川から大量の取水を行う計画に対し、生態系への影響や地域住民の生活用水不足を懸念する声が強まり、反対運動が激化したことも州政府を動かす要因となりました。


 そもそも巨大なデータセンターは建設時には雇用を生みますが、稼働後は無人化が進むため、消費する膨大なエネルギーに見合う雇用や経済波及効果を生まないという批判も根強くあります。


宇宙データセンターが救世主となる期待も

 スペースX(SPCX)創業者およびテスラ(TSLA)共同創業者であるイーロン・マスク氏は、AIデータセンターを宇宙に設置する構想を2027年にも始動すると述べています。


 1~3月に次世代大型ロケット「スターシップ」の試験飛行を始めるのに合わせ、数機の軌道上に投入します。ここで宇宙空間での排熱効率や宇宙線に対するチップの耐久性テストを行い、問題をクリアした上で10~12月には実用化させるという野心的な構想です。実現すれば、地上で問題となっているデータセンター問題への解決策となります。


 宇宙にデータセンターを造るメリットとして、以下六つがあります(あくまでも筆者見解です。イーロン・マスク氏の主張と一致しない部分もあります)。


【1】土地を確保する必要がない

 大規模な土地が不要な分、コストが少なく済みます。ただし、「軌道スロット」と「周波数」の奪い合いという別の問題はあります。


【2】既存の電力会社から電力を買う必要がない

 宇宙太陽光発電を使う予定です。地上の太陽光発電は「天候の影響」で出力が不安定となりますが、宇宙では天候の影響はなく、安定電源となる見込みです。ただし、低軌道(地上400~2,000キロ上空)に造る予定の宇宙データセンターは、数十分ごとに地球の影に入る時間帯があります。


 その間、発電できないため、24時間安定稼働させるためには、その時間帯の電力をまかなうための蓄電池を備える必要があります。あるいは、常に日が当たる太陽同期軌道を使う、衛星間で電力を融通する必要があります。


 まだ、AIデータセンターを賄うほどの大規模発電を宇宙で行った実績はありません。それでも宇宙空間には土地の制約がなく地上より強い太陽光を得られることを勘案すると、先に述べた制約をクリアすれば安定的な大規模電源となる可能性があります。


【3】通信網の確保

 地球とのデータのやり取りには宇宙通信を利用する予定です。スペースXは、すでに「スターリンク」を世界展開しているので、その応用となります。


 ただし、それだけでは十分ではありません。複数の衛星を一つの巨大な計算機として動かすには、衛星間レーザー通信の帯域を地上の光ファイバー並みにすることも必要です。この問題を解決すれば、通信網の問題もクリアされます。


【4】環境規制への対応が必要ない

 現在、地上のデータセンターが使う電力のほとんどが、ガス火力発電によって賄われていることに批判があります。ニューヨーク州は、再生可能エネルギーによる電源を自前で確保しない限り、電力網への接続を許可しない方針を打ち出しつつあります。宇宙データセンターは宇宙太陽光発電を利用する予定なので、その批判は受けません。


 ただし、将来は、宇宙特有の環境規制がさらに強まる(デブリ処理など)可能性もあります。


【5】冷却用の「水」を確保する必要がない

 宇宙データセンターは、冷却用に水を使う予定はありません。

ただし、水も空気もない宇宙空間で大量の放熱をするのは、非常に困難です。排熱のための巨大な構造物が別途必要になる可能性があります。


【6】地元住民の同意を得る必要がない

 宇宙空間に住民はいないので、住民との交渉は必要ありません。ただし、近い将来、国際的な規制が増える可能性はあります。


宇宙データセンター構想を非現実的と批判するアルトマン氏

 イーロン・マスク氏の宇宙データセンター計画に対して、オープンAI創業者のサム・アルトマン氏は実現不可能でないかと批判しています。その理由として、以下4点を挙げています。


【1】排熱問題(サーマル・ボトルネック)

 AIの学習には膨大な電力が必要ですが、その電力のほとんどは熱に変わります。地球上では水冷や空冷で処理できますが、真空の宇宙では「熱伝導」や「対流」が使えず、効率の悪い「赤外線放射」に頼るしかありません。


 アルトマン氏は「1GW級の計算機から出る熱を宇宙へ逃がすには、データセンター本体よりも巨大な放熱板が必要になり、物理法則的に効率が悪すぎる」と批判しています。


 分かりやすい例え話でいうと、宇宙データセンターは「魔法瓶に入れられた電熱器」の状態です。水や空気に包まれていれば、水や空気を伝導して熱を放出できますが、真空に包まれているので熱の放出が困難となります。放射熱だけに頼るならば、巨大なラジエーターが必要になり、現実的でないというのが、アルトマン氏の批判です。


【2】インターコネクトの遅延

 宇宙データセンターは宇宙通信を使いますが、それでは生成AIの計算に必要な高速リンクが使えず、学習効率が低下する可能性があると、アルトマン氏は技術的な問題を指摘しています。


【3】メンテナンスとアップグレードの困難さ

 AIハードウエアの進化は非常に速く、1~2年でチップの世代交代が起こります。アルトマン氏は「地上なら数時間で済むチップの交換や故障対応が、宇宙では不可能か、あるいは多大なコストがかかる」と批判しています。


【4】経済的メリットの不在

 アルトマン氏は、自身が提唱する地上での「数兆ドル規模のAIインフラ構想」の方が、宇宙データセンター構想よりもコストは圧倒的に安いと主張しています。


宇宙データセンター、コストを下げるための課題

 私は、宇宙データセンターは近い将来、あるいは遠い将来に実現すると考えています。ただし、その実現は簡単ではありません。技術的にクリアしなければならない問題も残っています。コストを低下させるためのハードルもあります。


 宇宙には、宇宙線という宇宙空間から地球に降り注ぐ高エネルギー粒子があります。それで半導体が誤作動を起こさないよう、宇宙でも使える高性能の半導体を開発し、「宇宙仕様の対放射線設計」を施す必要があります。


 宇宙データセンターでは、地上に比べてメンテナンスが大変です。コストを下げるには、


【1】人工衛星の寿命を延ばす


【2】ロケット打ち上げコストをさらに下げる


 という2点の実現が必要です。電気系統などで、宇宙での耐久性が高いハードウエアの開発が必要となります。


 現時点で分かることをいろいろ書き並べてきましたが、結論として宇宙データセンターがいつ実現するかは、まったく予想できません。

今後の展開を、慎重にウオッチしていく方針です。


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