中国上海市で開催された「世界人工知能大会2026」にて、習近平国家主席が談話を発表しました。習近平氏は、中国がAI市場・秩序で世界をけん引し、米国との競争に臨み、勝利するという政治的意志を打ち出しています。

ムーンショットAI、ディープシークといった企業の活躍も目立つ中国のAI事情について解説します。


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習近平氏が「主導権を握り、米国に勝つ」と示唆した中国のAI戦略とは?
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国家戦略の見地からAIを定義・重視する中国共産党指導部

 社会主義市場経済という人類史上まれに見る政治体制&発展モデルを採用する中国。そんな国風で展開される経済動向と企業行動を観察する上で、私が非常に重要だと考えているのが、党員の数が1億人を超える世界最大の政党・中国共産党の指導部が、経済を構成するどの産業、企業、分野を戦略レベルで重視しているか、という点です。


 1949年に建国した中華人民共和国は、建国の父・毛沢東を筆頭に、当初はソ連に倣い、社会主義計画経済を採用していました。


 その後、1966~1976年の10年間、毛氏自身が発動した「文化大革命」によって国土は荒廃し、毛氏が1976年に死去し、「第二世代」のリーダーであるトウ小平氏が政治の表舞台に復権する中で、1970年代末~1980年代初頭にかけて、ようやく国家建設の重点を「階級闘争」から「経済成長」へと歴史的にシフトさせ、政治は社会主義を堅持しつつも、経済には市場原理を運用することで、財や富を蓄積し、国民の生活を豊かにすべくかじを切りました。


「新中国」は経済の分野では正真正銘の後発国、すなわち、欧米や日本、そして日本に続いてアジアで新興したNIES(シンガポール、韓国、香港、台湾)を後ろから追いかける立場として長らく活動してきたということです。


 係る状況下、例えば、半導体の分野では、中国は米国や欧州、日本、台湾や韓国と比べて、明確に遅れを取っているという自覚を持っているように見受けられます。


 一方、中国が市場経済体制に移行し、かつ世界第二の経済大国に成り上がる中で、新たに台頭してきた産業分野に関しては、そもそも「スタートラインが一緒」という認識を持っている。故に、スタートダッシュをかけるべく、政府が巨額の補助金を出すなどして盛り上げようとしています。


 その代表格が、新エネルギー車(NEV)でしょう。2025年末の時点で、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド(PHEV)を含むNEVの割合は、約60%に達しています。中国は世界最大のEV市場であり、それに付随する形で、電池産業も世界の4分の3のシェアを誇るといわれます。


 EVや蓄電システムに使われるリチウムイオン電池はその代表格であり、CATLやBYDといった中国企業がけん引しています。


 その意味で、AIも中国共産党指導部が、EVや電池に続いて、世界レベルの産業秩序の中で「覇権的地位」を追求したいと考えている分野だと思われます。中国では近年、「人工知能+」が国家戦略として、省庁をまたぐ形で大々的に展開されています。AIを、半導体やEV、そして軍事を含めたあらゆる分野に応用していこうという国家意志が感じられます。


 そして2025年12月31日、習近平氏による毎年恒例の新年のあいさつで、AIに具体的に言及している事実は特筆に値するでしょう。


「私たちはイノベーションをもとに質の高い発展を後押ししてきました。科学技術と産業は深く融合し、イノベーションの成果が次々と現れました。人工知能の大規模言語モデルは互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、チップの自主開発には新たなブレイクスルーがあり、中国はイノベーション力の向上が最も早い経済体の一つとなっています」


習近平氏は上海で開催された「世界AI大会」で何を語ったか?

 そしてついに、AIで世界的主導権を握ろうという中国共産党指導部の野心を如実に感じさせる一幕が展開されました。


 7月17~20日、中国を代表する国際経済都市・上海市で「2026世界人工知能(AI)大会・AIグローバルガバナンスハイレベル会議」が開催され、初日に行われた開幕式に習近平氏が出席し、談話を発表しました。


 私から見て、(1)中国が「世界AI大会」という「世界」を主語にした大会を自国で主催したこと、(2)習近平氏自らが北京から上海へ赴き、大会に出席し、談話を発表したこと、この二つの事実をもってして、以下の示唆を導き出せると捉えています。


 中国は習近平氏という最高指導者の明確な政治的意志の下、AIという分野で世界トップに躍り出るべく、企業や技術、サービスや商品だけでなく、秩序形成やルールメイキングというより深く、大きな分野で世界をリードしようとしている。


 習近平氏が発表した談話の中で、私が着目した文言は以下。少し長くなりますが、中国のAIを巡る野心やスタンスを理解する上で重要だと考えるため引用します。


●AIは全人類の共通の知恵の結晶、貴重な財産である。

真の多国間主義を実践し、国際連合の重要な役割を確実に発揮させ、人工知能の開発戦略、ガバナンスのルール、技術基準の連携を強化し、早期に広範な合意に基づくグローバル・ガバナンスの枠組みを構築することで、この最先端技術が人類社会により一層の恩恵をもたらすようにすべきである。


●中国は近年、AIの発展を積極的に推進し、効率的な市場と積極的な政府の役割を組み合わせる方針を堅持するとともに、AI分野における科学技術イノベーションを強化し、「AI+」イニシアチブを積極的に推進し、あらゆる主体が共生・共栄する健全なエコシステムを育成してきた。その結果、スマート経済の中核産業の規模はすでに1兆元を超えている。さまざまなスマート端末が一般家庭に普及し、人々の生活に確かな恩恵をもたらしており、「中国スマート製造」は、中国式現代化の新たな輝かしいシンボルとなっている。


●責任ある大国として、中国はAI分野において、国際公共財の提供者となることに尽力してきた。私が『グローバルAIガバナンス・イニシアチブ』を提唱して以来、中国は国連総会においてAI能力構築に関する国際協力決議の合意採択を推進し、『AI能力構築インクルーシブ計画』および『「AI+」国際協力イニシアチブ』を発表するとともに、世界AI協力機構の設立を提唱するなど、絶え間なく「中国の解決策」を提案し続けている。


●AIの発展をさらに支援するため、今後5年間、中国は開発途上国に対し、AIに関する専門研修の受講枠を5,000名分提供することをここに発表する。ASEAN、アラブ連盟、アフリカ連合、ラテンアメリカ・カリブ海共同体、上海協力機構、BRICS諸国を対象に、国際AI応用協力センターを設立する。また、気象スマート警報システム「媽祖」の30カ国での導入・運用を推進し、各家庭の灯火を見守り、世界の海上の安全を守り抜く。


 AIという最先端の技術であり、人類の労働・生活スタイルを根本から変えてしまう威力と魔力を持つ分野において、「中国」として何を考え、動いていくのかというビジョンやプランが、具体的かつ壮大に描かれている。それを習近平氏の言葉として語った(言い換えれば、トップが口にしただけに、もう後戻りできないということ)という事実の重みを、私は痛感しました。


気になる中国AI企業の動向

 アンソロピックやオープンAIといった先端AIスタートアップが市場をけん引し、グーグル、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズといったテック大手も参画する中、米国は、AIの技術、商品、サービスにおいて「数カ月」リードしているといわれています。


 中国としては、習近平氏率いる共産党指導部が政治的に支援する形で、官民一体、挙国一致体制で「米国を追随しよう」としているのは間違いありません。


 それで言うと、中国AI新興「月之暗面(ムーンショットAI)」が、上海で行われた世界AI大会での習近平氏の談話発表にタイミングを合わせる形で、新型モデル「Kimi K3」を発表したのは象徴的でした。


 アンソロピックやオープンAIが1カ月ほど前に提供を始めた最新モデルに次ぐ性能といい、テック株比率の高いナスダック総合株価指数などを押し下げる要因にもなったほどです。米国マーケットが中国AIを「脅威」だと感じている一つの証左だといえるでしょう。


 米ブルームバーグは7月19日、同社が早ければ半年以内に香港証券取引所に上場する計画があり、企業評価額は300億ドル(約4兆9,000億円)を超す可能性があると伝えています。


「元祖AI新興」ディープシークの動向にも注目が集まっています。同社は年内の上場申請を念頭に資金調達を進め、上海のハイテク新興企業向け市場「科創板」を目指しているという情報もあります。


 他の中国AI新興では今年1月、北京智譜華章科技(智譜AI)やミニマックスグループが香港市場に上場しており、2026年は、「中国新興企業×AI×上場ラッシュ」という意味で、注目度の高い1年になりそうですし、これらの動向が、低迷する中国経済にとって追い風となるのか否かにも注目しています。


 また、米国同様、中国のテック大手もAI市場参画という意味で、黙っているわけではありません。


 アリババ、テンセント、百度、そしてファーウェイなど、これまで中国「民間経済」の成長をけん引してきた重鎮たちが、中国が「覇権」を狙うAI産業をどう盛り上げ、習近平氏率いる共産党指導部が奏でる国家意志をどう体現し、その過程で、米国との市場競争に臨んでいくのか。短期ではなく、中期的な視点で動向を注視していきたいと思います。


(加藤 嘉一)

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