全長35mの輸送機で「マックループ」へ

 全長約35mの軍用輸送機が山々の間を飛び、機体を45度以上も傾けて旋回する――。外から見ればかなり大胆な飛行ですが、乗っているパイロットの感覚は少し違うようです。

KC-390「ミレニアム」でイギリスの「マックループ」を飛んだパイロットに、その感覚を聞きました。

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 イギリス・ウェールズ中部に、軍用機ファンの間で「マックループ」と呼ばれている場所があります。山々に囲まれた谷間を軍用機が低空飛行訓練することで知られ、周囲の山から機体を見下ろすように撮影できることから、軍用機撮影スポットとして世界的に有名です。

 2026年7月中旬、この場所をブラジルの航空機メーカー、エンブラエルが開発したKC-390「ミレニアム」が初めて飛行しました。

 KC-390は全長約35m、最大搭載量26トン級のジェット中型軍用輸送機です。人員や貨物の輸送に加え、空挺部隊の降下、物資の空中投下、空中給油などにも対応します。そんな中型輸送機が山々の間へ入り、機体を大きく傾けて旋回する姿はかなりの迫力で、筆者も実際に山の上からその姿を撮影していました。

 谷間を縫うように飛んでいるとき、実際に乗っているパイロットたちはどのように感じているのでしょうか。筆者は同月に開催されたファーンボロー国際航空ショーにおいて、この飛行に参加したエンブラエルのパイロット、ボテーリョ氏に話を聞くことができました。

「機体が大きくても、狭いとは感じない」

 ボテーリョ氏は元ブラジル空軍の戦闘機パイロットで、現在はエンブラエルでKC-390とA-29「スーパーツカノ」のフライトインストラクターを務めています。今回の飛行では2人のパイロットが操縦を担当し、ボテーリョ氏は3人目のセーフティパイロットとして乗り込み、周囲の状況を確認しながら2人を支援しました。

 この飛行は数か月前から準備されており、担当パイロットは地図や、実際にマックループを飛行した航空機のコックピット映像を使って地形を確認したそうです。

また、マックループを飛んだ経験を持つパイロットから話を聞くなど、情報収集も行いました。それだけ準備して挑んだ飛行ですが、実際に乗った感想は意外なものでした。

「通常、あのような環境で飛ぶこと自体は難しくありません。KC-390は優秀なフライトコントロールのおかげで、非常に操縦しやすいんです」(ボテーリョ氏)

 KC-390はパイロットの操縦操作を、コンピューターを介して機体へ伝える「フライ・バイ・ワイヤ」方式を採用しています。ボテーリョ氏によると、これは単に操縦しやすいだけでなく、機体重量が変化した際の扱いやすさにもつながっているといいます。

 輸送機は搭載する貨物や燃料の量によって機体重量が変化し、飛行特性にも影響します。しかしKC-390では、飛行制御システムによって、機体が軽い状態でも重い状態でも扱いやすくなっているといいます。ボテーリョ氏は「実際の任務で同じような地形を飛ぶ場合でも、今回のデモンストレーションフライトと同じように飛べるでしょう」と説明します。

45度以上傾けても意外と余裕?

 さらに興味深いのが、外から見た飛行と、実際に機内から感じた印象の違いです。

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エンブラエルのインストラクターパイロットであるボテーリョ氏。今回のマックループでの飛行では、セーフティーパイロットとして搭乗していた(布留川 司撮影)。

「見た目にはかなり低く飛んでいるように見えますが、周囲の山も高く、実際にはそれほど飛行高度が低いわけではありません。ただ、周囲に山々が見えるというあの景色は、本当に素晴らしかったですね」

 全長35m級の大きな機体で谷間を飛ぶことについても、「機体が大きくても、窮屈だとは感じません。“ここは狭すぎて飛べない”というような感覚にはならず、山の間でも望む方向へ機体を向けられました」と振り返ります。

 マックループを飛ぶKC-390の写真を見ると、山に沿って旋回する際には大きく機体を傾けています。そこで筆者がバンク角(機体を左右に傾ける角度)について尋ねてみました。

「基本的には45度くらいですかね。ただ、場合によっては45度を超えることもありましたが、それほど大きな角度ではありません。基準があるというよりも、必要に応じて機体を傾けていたという感じです」

 正確な最大バンク角は覚えていないそうですが、飛行中は基本的に外を見て、周囲の地形や飛ぶべきルートを確認していたといいます。軍用輸送機は、任務によっては低高度を飛行し、前線に近い場所へ人員や物資を送り込むことも想定されるため、低空でも正確に機体をコントロールできる能力が求められます。

 今回のマックループ飛行は実戦を再現したものではありませんが、KC-390がその操縦性を分かりやすく見せる機会となりました。外から見るとかなり大胆な飛行でも、パイロットの感想は「狭いとは感じない」というもので、「迫力ある光景」と「機内で感じる余裕」には、かなりのギャップがあるようです。

 しかし、その「余裕」こそKC-390の特徴なのかもしれません。マックループで見せた飛行は派手なデモンストレーションであると同時に、KC-390が軍用輸送機としてどのような能力を目指して設計されたのかを、分かりやすく示すものだったといえるでしょう。

【写真】えっ…これが「全長35mの輸送機による断崖絶壁“神飛行”」驚愕の様子です

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