日本向け原油タンカー運航隻数は4月以降安定的に推移しており、国内備蓄依存度は38%程度と推計されます。日本政府は現状を踏まえて2028年3月末まで安定供給可能という見解を示しています。
ペルシャ湾内に足止めされていた原油タンカーは全て脱出
2月末に始まったイラン戦争は、6月中旬に米・イラン間の暫定合意(60日間の無料通過枠設定)によっていったん停戦に向かいかけましたが、停戦条件が折り合わず、再び不透明感が高まっています。そのような状況下、日本向け原油タンカーの現在の動静をまとめました。
まず、ペルシャ湾内に足止めされていた原油タンカーは60日間の無料通過枠設定を受けて、7月初旬までに全てペルシャ湾外に脱出しました。既に日本に到着したタンカーは複数存在し、現在日本に向けて航行中のタンカーは6隻確認できました。
<日本に向けて航行中の、ペルシャ湾内で足止めされていた原油タンカー> 船名 積み地 仕向け地 載貨重量
(千DWT) オーナー 航行状況 Mayasan サウジアラビア 苫小牧 312 商船三井 中国付近 Gulf Sunrise サウジアラビア 千葉 302 SPDB 沖縄付近 Towada サウジアラビア 四日市 306 日本郵船 中国付近 Yakumosan サウジアラビア 四日市 302 Phoenix 中国付近 Miracle Hope サウジアラビア 大分 319 CIDO 九州付近 Daisen アラブ首長国連邦 日本 312 商船三井 中国付近 ※オーナーは実質オーナーを含む
出所:MarineTraffic、Oceanookなどより楽天証券経済研究所が可能な限り集計して作成(推定含む)
マレーシア沖合での積み替え原油タンカーは4隻から10隻に増加
マレーシアの沖合で別のタンカーから積み替えた(STS:Ship-to-Ship転送)原油を搭載しているタンカーについては、このオペレーションが始まったとみられる4月時点では4隻、7月初めの時点でも4隻確認できましたが、現在は10隻と大きく増加しています。
軽質原油主体の米国からの原油タンカー比率が高まる中、日本が必要とする中重質原油を少しでも多く確保するため、ホルムズ海峡を通過してきた他国のタンカー、もしくはペルシャ湾内外で中東原油を積んだ他国のタンカーが積載する原油を受け取る働きかけが奏功した結果と思われます。
<マレーシア沖合で積み替えた原油を運ぶタンカー> 船名 積み地 仕向け地 載貨重量
(千DWT) オーナー Apollo Dream マレーシアSTS 苫小牧 312 出光 Eneos Glory マレーシアSTS 東京 312 みずほリース Kyo-Ei マレーシアSTS 千葉 314 日本郵船 Apollo Energy マレーシアSTS 四日市 312 出光 Nave Tempo マレーシアSTS 四日市 313 丸亀汽船 Ryuohsan マレーシアSTS 四日市 312 Libera Setagawa マレーシアSTS 四日市 300 川崎汽船 Bright Horizon マレーシアSTS 喜入 312 日泉海運 Eneos Spirit マレーシアSTS 喜入 312 ENEOS Kazusa マレーシアSTS 喜入 310 商船三井 ※オーナーは実質オーナーを含む
出所:MarineTraffic、Oceanookなどより楽天証券経済研究所が可能な限り集計して作成(推定含む)
ペルシャ湾外積みは2隻に減少
ペルシャ湾外では紅海にあるヤンブー、アラブ首長国連邦のフジャイラ、オマーンのミナ・アル・ファハルなどが原油の積み地となっています。これらの積み地から日本に向かう原油タンカーは4月時点で4隻、7月初めの時点では7隻確認できましたが、現在確認できるのは2隻のみとなっています。
紅海にあるバブ・エル・マンデブ海峡でイランを支持するフーシ派がサウジアラビアのタンカーに攻撃をするようになった影響で隻数が減少した可能性があります。
ただ、最初は仕向け地を日本としていたタンカーがマレーシアでSTSを行ってそこから中東に引き返すケースも存在しているため、ペルシャ湾外積み隻数の減少分はマレーシアSTS隻数の増加分の内数になっている可能性もあります。
<ペルシャ湾外積み原油タンカー> 船名 積み地 仕向け地 載貨重量
(千DWT) オーナー Ascona サウジアラビア(紅海) 名古屋 300 Neda Maritime Maharah サウジアラビア(紅海) 四日市 299 Bahri(Saudi Arabia) ※オーナーは実質オーナーを含む
出所:MarineTraffic、Oceanookなどより楽天証券経済研究所が可能な限り集計して作成(推定含む)
一点留意しておきたいのは、新たに中東原油を積むためにペルシャ湾内もしくは紅海内の主要原油積み出し港に向かっている原油タンカーが、日本向けだけでなく全世界分で10隻(2,000万バレル、中東原油生産量の1日分、世界の消費量の0.2日分、日本の消費量の7日分)しか確認できないことです。
※積み地に向かっている段階では仕向け地情報は不明。
現在の、紅海通過もままならない状況が続けば、今後マレーシアSTSの隻数が減少していく可能性もあります。
<ペルシャ湾および紅海内の主要港に向かう原油タンカー(全世界分)> 船名 積み地 海域 載貨重量
(千DWT) オーナー Kidan サウジアラビア ペルシャ湾 320 Bahri Plata Singapore サウジアラビア ペルシャ湾 307 Korea Asset Spain B サウジアラビア ペルシャ湾 299 SAS Shipping Nissos Kythnos カタール ペルシャ湾 319 Okeanis Eco Torkel カタール ペルシャ湾 297 Torkel Suriname Prosperity イラク ペルシャ湾 298 Haut Brion Bahrain Prosperity イラン ペルシャ湾 300 SAS Shipping Kahla サウジアラビア 紅海 318 Bahri Sophia サウジアラビア 紅海 319 Angelicoussis Xin Tong Yang サウジアラビア 紅海 297 China Shipping ※オーナーは実質オーナーを含む
出所:MarineTraffic、Oceanookなどより楽天証券経済研究所が可能な限り集計して作成(推定含む)
北米からの原油タンカーは16隻と二桁を維持
中東原油の調達が困難となる中、代替調達先の大本命である北米からは、4月時点で13隻、7月初めで17隻、そして現在16隻の原油タンカーが航行中であることが確認できました。継続的に3,000万バレル(日本の消費量の10日分)程度の原油が北米から日本に向かっている状況となっており、重要な原油調達源となっています。
<北米から航行中の原油タンカー> 船名 積み地 仕向け地 経由 載貨重量
(千DWT) オーナー Eagle Trader メキシコ湾岸 千葉 喜望峰 312 商船三井 KHK Empress メキシコ湾岸 千葉 喜望峰 314 Tai Chong Aslaf メキシコ湾岸 千葉 喜望峰 299 Bahri Hou-Ei メキシコ湾岸 千葉 喜望峰 312 日本郵船 New Valor メキシコ湾岸 川崎 喜望峰 307 China VLCC Kassabu メキシコ湾岸 名古屋 喜望峰 299 Bahri Front Orkla メキシコ湾岸 名古屋 喜望峰 300 Frontline New Triumph メキシコ湾岸 名古屋 喜望峰 318 China VLCC Suzukasan メキシコ湾岸 名古屋 喜望峰 312 商船三井 Tsugaru メキシコ湾岸 名古屋 喜望峰 301 日本郵船 Rimthan メキシコ湾岸 四日市 喜望峰 299 - London Voyager メキシコ湾岸 四日市 喜望峰 319 Angelicoussis Tenma メキシコ湾岸 四日市 喜望峰 314 Meiji Tanzawa メキシコ湾岸 喜入 喜望峰 311 日本郵船 Bayraq メキシコ湾岸 喜入 喜望峰 320 Bahri Freedom Glory カナダ西岸 喜入 太平洋 114 Sinokor ※オーナーは実質オーナーを含む
出所:MarineTraffic、Oceanookなどより楽天証券経済研究所が可能な限り集計して作成(推定含む)
ただし、日本を含め中東からの原油調達量が減少した各国が米国からの原油調達量を増やした結果、米国の原油在庫が減少していることには留意が必要です。EIAの7月17日時点のデータでは、米国原油在庫全体は7億2,300万バレル(米国消費量の36日分)と、1年前の8億1,100万バレル(米国消費量40日分)から11%減少しています。
米国の原油在庫は石油会社が原油調達から石油製品販売までの流通過程で一定程度の在庫を維持する「商業在庫」と非常時に備える「戦略備蓄在庫」で構成されますが、商業在庫についても全体の在庫減少と連動する形で、4億1,200万バレルと、1年前の4億3,700万バレルから6%減少しており、過去5年の在庫水準幅を割り込んでいます。
原油先物市場では直近の商業在庫と過去5年の在庫水準の位置関係が非常に強く材料視されるため、この状況が継続もしくは悪化すれば、原油価格の大幅上昇につながる可能性があります。また、米国内ではすでに原油輸出量を削減すべきとの議論も起きており、米国からの原油調達量が維持できなくなるリスクもあります。
<米国原油在庫(商業在庫)>
現在の原油調達体制を踏まえて日本政府は2028年3月まで安定供給可能と表明
今回確認できた日本に向けて航行中の原油タンカーは合計34隻で、ペルシャ湾内に閉じ込められていた6隻を除くと28隻でした。
4月時点では21隻、7月初め時点では28隻でしたので、ある程度安定的に代替調達が実現できているといえます。この状況が継続できれば、日本政府が言うとおり、「原油備蓄を使えば、2028年3月末まで石油の安定供給が可能」ということになるでしょう。
9月以降米国からの調達量ゼロで2027年6月末まで安定供給可能との試算結果
ただし先述したように、現在の原油調達の二本柱である、マレーシアSTSと米国からの原油調達量が減少するリスクも存在するので、そのリスクの影響度を試算します。
今回確認できた28隻(約5,600万バレル)の積み地内訳は、中東(ペルシャ湾外)が2隻、マレーシアSTSが10隻、米国(喜望峰経由)が15隻、カナダ西岸が1隻でした。
また、各積み地から日本までの航海日数はおおよそ、中東(ペルシャ湾外)が23日、マレーシアSTSが10日、米国(喜望峰経由)が45日、カナダ西岸が11日です。
各積み地からの航海日数をタンカー隻数の積み地の内訳で加重平均すると、約30日となります。
つまり、現時点の、米国を中心とした原油調達先構成比が継続すると仮定した場合、合計で9,000万バレルの原油を積載したタンカーが常に日本に向かって航海している状態になって初めて供給量が需要量と見合った形となり、日本国内の在庫が変動しない状態となります。
実際は上記の通り28隻(約5,600万バレル、9,000万バレルの62%)が日本に向かって航海中という状況であるため、残りの38%は国内の石油備蓄を取り崩すことによって補うことになり、この構成比を前提として政府は「2028年3月末まで石油の安定供給が可能」としていると考えられます。
仮に9月以降、米国からの原油調達量がゼロとなったとすると、米国からの15隻(約3,000万バレル、9,000万バレルの33%)が失われるため、減少分も含めて71%を国内の石油備蓄を取り崩すことによって補うことになります。
38%を石油備蓄に依存する場合には9月以降19カ月間維持できる計算でしたが、71%に依存度が高まると、その期間は10カ月(2027年6月末まで)となります。
仮に9月以降、米国に加えてマレーシアSTSからの原油調達量もゼロとなったとすると、米国とマレーシアからの25隻(約5,000万バレル、9,000万バレルの56%)が失われるため、その穴も含めて93%を国内の石油備蓄を取り崩すことによって補うことになります。93%に依存度が高まると、維持できる期間は8カ月(2027年4月末まで)となります。
そのような事態が生じるのを防ぐため、中東以外からの原油(とりわけ中重質原油)の調達、すなわちアンゴラのジラソル原油、ロシアのウラル原油などの調達が検討されるべきと考えます。
(西 勇太郎)

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