2024年1月から始まった「新NISA」によって、投資が身近になったと感じている人も多いでしょう。SNSなどでは、なるべく早く投資枠を埋めるべきだという主張も見かけますが、それは本当に正しいのでしょうか。
世帯年収1,200万円・30代共働き夫婦の悩み
みなさんは「NISA貧乏」という言葉をご存じですか?
NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)貧乏とは、NISAの活用を優先するあまり、趣味や娯楽の費用どころか生活費まで切り詰め、日々の生活が苦しくなってしまう状態を指します。2026年3月には、国会(衆議院財務金融委員会)でも取り上げられたことで話題となりました。
本来、家計の味方であるはずの「NISA」について、なぜそんな言葉が生まれてしまったのでしょうか。
筆者の知人にも、世帯年収が約1,200万円あるにもかかわらず「将来への不安が大きい」と話す人がいます(本人には今回記事で紹介する許可をもらいました)。
知人の世帯年収の内訳は、夫(38歳)の年収が額面約900万円、妻(35歳)が額面約300万円(時短勤務)で、毎月の手取りは夫婦で約64万円だそうです。現在保育園に通う子供(4歳)が一人おり、現在二人目を検討しているものの、経済的な不安から迷っているそうです(以下、A家)。
家計の内訳
A家の住まいは23区内で賃貸が約20万円、食費や日用品、通信、保険などで約18万円、子供の習い事に約2万円、夫のお小遣い5万円、妻のお小遣い3万円、帰省用の積み立てが1万円。ここまでで合計約49万円、きちんと貯蓄もできていそうですが、「毎月カツカツ」だそうです。
よくよく聞いてみると、毎月NISAへ15万円も投資しているとのこと。
夫は、「住宅、教育、老後と不安が大きいので、なるべく投資に回したい」と考え、投資が最優先。一方妻は、夫の方針に不満があるようでした。
3万円のお小遣いは、ランチやちょっとした買い物でなくなってしまいます。いつも「お金がない」と考えている気がするそうです。
妻「自分だってそのうちフルタイムに戻る予定なのに、こんなに自由になるお金がないなんて……。子供はもう一人欲しいし、本当は家族で海外旅行にも行きたい。『将来に備えないと』という夫の考えが正しいことは理解しています。ただ……そのために二人目の子供を諦めたり、毎日の生活が苦しかったりするのは違うと思うんです」
一般的に、家計における貯蓄・投資の目安は、手取りの20~30%とされています。夫婦の手取りは約64万円、毎月15万円の投資は約23%です。一見すると適正範囲に見えますが、なぜ「余裕がない」と感じてしまうのでしょうか。
世帯年収1,200万円でも「生活が苦しい」と感じるワケ
毎月15万円を投資に回す――
金額だけ見ると、将来に向けて堅実に資産形成しているように見えます。実際、長期・分散・積立の投資は、資産形成の王道といえる方法です。
例えば、年利5%で20年間運用した場合、毎月5万円なら元本1,200万円に対して約2,029万円、毎月10万円なら元本2,400万円に対して約4,058万円になると試算(※)されます。
(※)年利5%の複利運用を想定しています。あくまでもシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではありません。
こうしたシミュレーションを見ると「できるだけ多く投資した方がいい」と感じるのも無理はありません。
しかし、ここで見落とされがちなのが、「その投資額は本当に余剰資金なのか」という視点です。
夫婦の場合、家計のほとんどが固定化された支出になっています。つまり、割合としては問題がなくても、使えるお金が残らない設計であることが、生活の圧迫感につながっているのです。
また、教育費や住宅資金など、10~15年以内に使う可能性のあるお金まで運用に回してしまうと、必要なタイミングで十分な資産が確保できない可能性もあります。市場環境によっては、取り崩すタイミングで元本割れしていることもあり得るからです。
本来、こうした支出は安全性の高い資産で準備し、投資に回すのは「使う時期が当面決まっていない資金」が望ましいでしょう。夫婦の場合、比較的近い将来の支出についての資金設計と投資の切り分けが十分になされていないといえます。
このような状態だと、将来のために備えているはずなのに、なぜか日々の暮らしに余裕がなくなり、お金の不安が増してしまうという本末転倒な状態になりかねません。
「資産形成」はなんのため?
投資に回して増やしたそのお金を「いつ、何のために使うのか」ということについて、立ち止まって考えておきたいところです。
そこを明確にしておかないと、将来のために積み上げたはずのお金が効果的に使えなくなってしまう可能性があります。
そもそも、ためること、増やすことは、手段であって目的ではありません。お金の本来の役割は「使うこと」にあります。
だからこそ重要なのは、資産の最大化を目指すことではなく、「自分たちにとって必要な金額」を知ることです。
二人目の子供や、子供たちの進路についてどう考えていくのか。教育費はどの程度を想定しておくのか。住宅は購入するのか、賃貸に住み続けるのか。老後の生活はどのようにイメージしているのか……。
こういったことを夫婦で可視化して共有し、その上で、無理なく継続できる投資額を決めていく。投資は、「長く続けられるバランス」で考えることが大切です。
また、投資額はいつでも変えることができます。わが子の成長や働き方など、ライフステージの変化に応じて柔軟に見直していきましょう。
日々の満足度が下がるとお金の不安が増す
資産は増えているのに、なぜか生活が苦しい――
それは、「将来のため」に偏りすぎて、「今」を置き去りにしているからかもしれません。
NISA枠を埋めることが目的化すると、日々の満足度が下がり、お金の不安はむしろ強くなってしまいます。
将来の安心も大切ですが、今の生活や家族との時間も同じくらい価値があるものです。
お金は、増やすためだけにあるのではありません。
注:個人の特定を避けるため、今回紹介した登場人物の情報は一部変更しています。
(石川 亜希子)

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