キャリートレード入門2回目は「調達通貨」について解説します。キャリートレード界隈では日本の円はダントツの人気です。

しかし最近の為替介入や日銀の利上げでその地位が脅かされています。今回は、キャリートレードの収益の柱のひとつである調達通貨の条件とそのリスクを確認するとともに、円キャリーをいつ始めたらよいかについて考えます。


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 キャリートレードとは、円などの低金利通貨で調達した資金をドルや豪ドルやメキシコペソなどの高金利通貨で運用することによって、金利差収入(スワップポイント)を毎日受け取る投資戦略です。


 従って、キャリートレードで重要な要素は金利の開きがある通貨を選択することです。それだけではありません。キャリートレードの収益は、時間を味方につけてゆっくりと積み上げていく投資なので、通貨が安定していることも必要です。


 円とドルを使ってキャリートレードを行う場合、投資家は円を借り入れて(円を売って)、ドルを運用し(ドルを買い)ます。これは日本国債をショートにして、米国債をロングにすることと似ています。ドル円相場がもし円安に動くならば、金利差に加えて為替差益も得ることができます。


 逆に言えばキャリートレードでは、いずれかの部分が失敗すると取引は行き詰まり、両方が失敗すると取引が破綻するリスクがあります。つまり、金利差が縮小するか、相場が円高方向に急騰した場合です。


 中央銀行の政策転換(利上げや利下げ)や急激な為替変動に遭遇した場合、1年間コツコツと積み上げてきたキャリートレードの金利差収益がわずか1日で消えてしまうこともあるのです。


円キャリー」はオワコン?円安と低金利、いつまでもあると思うな キャリートレード入門 パート2  調達通貨のリスク
キャリートレードで円高の波が押し寄せるイメージイラスト

 キャリートレードは、調達通貨(Funding Currency)と運用通貨(Investment Currency)の金利差を利用します。しかし、調達通貨と運用通貨では、性質の異なるリスクが存在します。今回は、調達通貨サイドのリスクについて分析します。


1. 調達通貨の人気1位は「円」:低金利と安定性が生む構造的需要

 キャリートレードの調達通貨(ショート(売り持ち)にする通貨)で重要なことは、まず「低金利」であること、そして「値動きが安定」していることです。その条件にぴったり当てはまるのが、円とスイスフランです。


 円は主要通貨の中でも金利が低い通貨です。また、円が投機的に動けば政府・日本銀行がすぐさま介入を行うため、極端な円安や円高が長期化しにくい環境が保証されています。この特性が「円キャリー」を世界的に定着させてきたといえます。


 とはいえ、最近の円は、無条件に選ばれる調達通貨ではなくなりつつあります。その背景には、キャリートレードの収益に影響を与える「円金利の上昇期待」と「為替介入による急激な円高」があるからです。


2. 日銀利上げ:調達コスト上昇と円高圧力のダブル逆風

 日銀が利上げを行うと、円を借りる金利が高くなります。円を調達(ショート)するコストの上昇は、金利差を収益源とするキャリートレードのパフォーマンス悪化に直結します。運用通貨との金利差が縮小するほどキャリートレードのうまみはなくなり、金利差が逆転すれば戦略そのものが成立しなくなります。しかし利上げの影響はそれだけではありません。


2-1. 円ショートのコスト増が円高圧力を加速

 利上げは円ショートのコスト増だけでなく、「円ロングのリターン増」期待にもつながります。そのため、円金利が上昇すると円を保有する魅力が高まるだけではなく、円キャリーの魅力が薄れることで、ポジション解消に伴う円買いが進みやすくなるのです。


 この二重効果によって、キャリートレードの円ショート解消が進みやすくなることに加えて、円高圧力が強化されるのです。


2-2. 日銀のシグナルに過剰反応しやすい市場

 政府・日銀が金融引き締めに対して慎重な姿勢を続けているため、市場は円の低金利はこれから先も続くものだと安心しています。それだけに、日銀の政策転換のシグナルに対しては、過剰に反応しやすくなっています。


 日銀は、2022年にYCC(イールドカーブ・コントロール)を見直して長期金利(10年物国債利回り)の許容変動幅を拡大しました。この時は政策金利が実際に引き上げられたわけではないのに、「日銀が政策正常化に動く」という思惑だけで円が買われ、ドル円は1日で7円近くも円高が進みました。


 そして現在、キャリートレーダーが最も気にしているのは、日銀が9月に利上げするのかということです。国内物価上昇率や7月の日米協調介入で、市場はその可能性は十分にあると評価しています。そのためキャリートレードのポジションを軽くする方向に動きやすくなっています。


3. 為替介入:需給を無視した強制円高ショック

 外国為替市場介入は、相場の需給ではなく、政府の意志によって為替を強制的に動かすため、値動きは極端で急激になります。


 2026年7月末、ドル円が164円前後までドル高/円安となった局面で、日本政府は推計5兆円の大規模円買い介入を実施しました。さらに米国も1998年以来28年ぶりの協調介入に踏み切ったことで、ドル円は164円から157円台まで急落しました。


 為替介入の副作用は相場の流動性を奪い不安定化させることです。投機筋が一気にポジションの縮小を急ぎ、実需勢はヘッジを増やそうとするため、需給のバランスが崩れ一方向に大きく動きやすい相場になりやすくなります。


 実弾介入がなくても、臆測だけで数円以上も乱高下が発生することもあります。相場の安定が重要なキャリートレードにとって、この環境は極めて不利といえます。


円キャリー」はオワコン?円安と低金利、いつまでもあると思うな キャリートレード入門 パート2  調達通貨のリスク
2026年の介入と利上げは効き目が弱い?

4. 今が円キャリートレードを始めるチャンス?

 為替介入と日銀の政策変更のリスクが高まっている中、円は、これまでのように無条件で選ぶべき調達通貨ではなくなりつつあります。しかし、キャリートレードは「長期戦略」です。短期的なショックを乗り越えれば、中期的にはキャリートレードの好機と考えることもできます。


 政府・日銀としても、数十兆円規模といわれる円キャリーを一気に解消させるような政策は取れないと考えます。その結果急激でかつ大幅な円高が発生したならば、その影響は為替相場にとどまらず、世界の株式市場や債券市場にも及ぶ可能性があるからです。条件が整えば、円キャリーは段階的に拡大していくでしょう。


 為替介入直後に157円まで下落したドル円ですが、1週間程度で早くも160円近くまで円安に戻ってきています。この動きを見て「キャリートレードのチャンス!」と気がはやるかもしれません。でも円キャリーを再開するのは、日銀や米連邦準備制度理事会(FRB)の政策方向や、介入の影響が本当に消えたかを確認してからでも遅くはありません。


 調達通貨の選択肢は円だけではありません。

海外では円より金利の低いスイスフランを使った「スイスキャリー」が人気です。調達通貨のリスク分散を検討するのも良いでしょう。


(荒地 潤)

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