前回に続き、IPO企業の株価騰落要因を探ります。今回の考察対象は、IPO数こそ減少傾向にあるものの、新規上場数の3分の2以上を占める「東証グロース市場」です。

具体的には、2024~2026年(7/15まで)にグロース市場に上場した企業116社から、上場廃止となった3社を除外した113社を検討対象とします。


IPO投資の落とし穴…上場直後に「後乗りしてはいけない銘柄」...の画像はこちら >>
▼あわせて読みたい

IPO投資は「ゴールデンチケット」のはずが…実は7割超が負けている!?いまIPO市場で起きている“異変”の正体


株価騰落の現状と分析の視点

 さて、今回も上場初値と現値(7月15日時点)の比較から見ていきましょう。


 まず、現値が初値を上回っている企業数は、113社中わずか22社(19.5%)でした。


 この「上昇22社」と、初値を下回った(または同じ)「下落91社」との違いについて考察します。


 なお、前回と同様、市場の全体的な傾向を探ることを目的としており、個々の企業の事業内容・ビジネスモデル・成長可能性などのファンダメンタルズは考慮していません。


公開価格と初値~初値が公開価格を大幅に上回った企業は厳しい~

 前回のレポートでも指摘しましたが、期待先行で人気化し、初値が公開価格を大幅に上回った企業の苦戦が目立ちます。上昇22社の初値平均上昇率は+22.1%であるのに対し、下落91社の平均は+42.2%と大きく上回っていました。


 なお、初値上昇率が100%超(2倍超)となった企業は15社ありましたが、その15社全てで現値が初値を下回っている状況です。


 現値が初値を上回っている22社の中で、初値上昇率が最も高かったのは、Synspective(290A)の53.3%でした。上昇率40%台が5社、30%台が5社、20%台が1社、10%台が2社、一桁%台が4社、マイナスが4社という分布でした。初値上昇率が低ければ良いということもありませんが、高過ぎるのは明らかに危険信号と言えそうです。


PERおよび業績見通しはあまり参考にならない

 113社の初値から現値の騰落率は、単純平均でマイナス10.0%の下落となっていました。その中で、初値の実績株価収益率(PER)(新規公開株[IPO]直前通期業績ベース)が20倍を下回っている低PER企業22社の平均騰落率は+15.4%の上昇でした。


 しかし、予想PER(新年度会社業績見通し)では、PER20倍未満の企業36社の平均はマイナス19.3%と、全体平均を下回っています。


 これは、業績見通しが上場前(=初値前)に示されるため、初値の株価形成において織り込まれる、あるいは過剰に株価に反映されてしまっている可能性が考えられるでしょう。


 さらに顕著な例が「業績変化率」です。


 利益予想値が実績値比100%(2倍)の増加、あるいは赤字から黒字転化が見込まれる企業32社の平均騰落率(初値⇒現値)は、なんとマイナス34.8%でした。一見して成長性が高そうな企業ほど実力以上に人気化する可能性があり、落とし穴が大きいと言えそうです。


「売上高規模」によって株価の騰落率が異なる

 ここまで見てきた通り、PER水準や業績変化率は、初値に過度に織り込まれる傾向があるようです。では、売上高規模に対してはどうでしょうか。


 売上高(実績)を「100億円以上」「50億円以上100億円未満」「20億円以上50億円未満」「20億円未満」と四つのカテゴリーに分けて平均騰落率(初値⇒現値)を求めたところ、図のような結果となりました。


IPO投資の落とし穴…上場直後に「後乗りしてはいけない銘柄」の共通点
単位:社、%出所:日本取引所グループおよび各社資料から作成

 売上高規模別に見てみると、最上位の売上100億円以上のグループが騰落率マイナスとなったのはやや意外ではありましたが、売上高規模が騰落率に大きく影響する傾向が見て取れます。感覚的には「売上高規模50億円」前後に分岐点がありそうです。


 50億円未満はマイナス23.5%と振るいませんが、その中でも20億円未満はマイナス29.9%と一段と厳しい状況が見て取れます。なお、売上高10億円未満(21社)の平均騰落率はマイナス44.8%と、かなり深刻です。


機関投資家の動静と時価総額の分岐点

 規模別ではもう一つ、時価総額レンジ別も見てみました。具体的には、初値時点の時価総額レンジを5段階に区分して平均騰落率を算出しています。すると、より特徴的な傾向が示されました。


 まず、時価総額200億円以上500億円未満のレンジでは、対象17社中7社が上昇し、平均騰落率+76.3%という極めて高いパフォーマンスを示しています。


 反対に、200億円未満では平均騰落率はマイナス30.4%となっており、特に50億円未満の騰落率はマイナス42.2%と厳しい状況です。また、時価総額50億円未満の企業24社のうち、上昇したのはわずか1社でした。


 こうした規模の優劣が表れる背景には、機関投資家の影響があると推察します。


 具体的には、一定の規模がないと株式流動性を確保しづらく、まとまった金額を投資することが難しいからです。


 今後、個人投資家の資金流入によってファンドの運用資産残高が増加すると見込まれることから、規模の小さな企業への投資を敬遠する傾向は、より一層強まるものと考えられます。


IPO投資の落とし穴…上場直後に「後乗りしてはいけない銘柄」の共通点
単位:社、%出所:日本取引所グループおよび各社資料から作成

「グロース市場しか選べない」企業の苦悩

 2030年より、グロース市場の上場維持基準が上場10年後の時価総額40億円から5年後100億円へと大幅に引き上げられます。


 これにより、今後グロース市場への上場を目指す企業においては、時価総額100億円超の達成に自信を持っている企業の上場が増える可能性も考えられるでしょう。


 他方、東証においては「グロース市場しか選択できない企業」があるのも事実です。


IPO投資の落とし穴…上場直後に「後乗りしてはいけない銘柄」の共通点
出所:日本取引所グループ ホームページを参照

 東証スタンダード市場とグロース市場では、上場審査基準で幾つかの違いが存在します。最大の違いは、スタンダード市場の「最近1年間の利益が1億円以上」という利益基準が、グロース市場には存在しないことです。


 利益基準がないことで、グロース市場ではバイオベンチャーをはじめとした研究開発型の赤字企業の上場が多くなっています。


 利益基準にフォーカスして見ていくと、グロース市場しか選択肢がない(プライムはもちろん、スタンダードも基準をクリアできない)という企業は、113社中41社と、3分の1以上を占めていました。


 ちなみに、その41社の平均騰落率(初値⇒現値)はマイナス9.14%と、113社全体の平均騰落率(マイナス10.0%)を上回ってはいます。

しかし、プラスとなったのはわずか5社(12.2%)であり、当たり外れが全体(22社/113社:19.5%)よりも大きいです。


IPO企業の「選別」が進んだ結果…投資家にもたらされるメリット

 最後に、ここまでの内容をまとめます。


  • グロース市場に限らないが初値が公開価格を大幅に上回った企業は株価が停滞する傾向が強い。特に初値上昇率が100%を超える企業は要警戒
  • PER(実績・予想)はあまり参考にならない。また、実績値から予想値で大幅な飛躍を見込んでいる企業は、初値の段階で過度に織り込まれやすく、その後株価が停滞する傾向
  • 売上高の規模は重要なポイント。実績売上高で50億円前後が分かれ目か。実績売上高が20億円を下回っている企業の株価パフォーマンスは厳しい
  • 時価総額はさらに重要なポイント。機関投資家の投資対象となる可能性を考慮する場合、初値時価総額は200億円以上が求められる。初値時価総額が50億円を下回る企業の株価はかなり厳しい傾向に
  • 例外も少なくはないが、グロース市場しか選択肢のない会社(スタンダードの上場審査基準において利益基準に抵触する企業)も多く存在する。よって、規模への注意が必要

 今後のグロース市場のIPOに関しては、規模がより重視される傾向が強まるでしょう。


 その理由は、主に次の3点です。


  • 2030年より、上場維持基準が上場5年後の時価総額100億円に引き上げられること
  • 投資信託への資金流入が続きファンドの規模が大きくなることで、規模の小さい企業への投資が敬遠される可能性が考えられること
  • 12月から米国株の23時間取引が始まることで、日本株に対する選別が強まること
  •  ただし、選別が進むことによって、全体の上場企業数の減少に加えて、IPO社数が一段と絞られる可能性も考えられます。


     よって、IPO企業の質的向上が進む可能性も期待されるでしょう。引き続き、国内のIPO市場から目が離せません。


    【参考】今回取り上げた113社のデータ
    IPO投資の落とし穴…上場直後に「後乗りしてはいけない銘柄」の共通点
    グロース市場銘柄の株価パフォーマンス

    (藤根 靖晃)

    編集部おすすめ