コロナ禍を経て、さまざまなサービスで「非接触」「非対面化」が進みました。そしてそれは、金融取引も例外ではありません。

銀行や証券のオンライン取引サービスは便利な面も多い一方、さまざまな「トラブルの種」をはらんでいます。弁護士が紹介する具体的な事例を基に、親の財産管理における注意点を見ていきましょう。


血のつながった妹と裁判沙汰になるところでした…80歳父の資産...の画像はこちら >>

善意で父の証券口座の管理をはじめた長男

 自営業のケンイチさん(仮名・55歳)は数年前、母の逝去を機に、80歳にして一人暮らしとなった父カズオさん(仮名)の面倒を見るため地元に帰省しました。


 当初は実家で暮らしていたものの、父との二人暮らしに疲れたケンイチさんは、実家すぐ近くのアパートに引っ越し、以来近居しています。


 ある日、最寄りの銀行が「無料相続相談会」を開催すると知ったケンイチさんは、父カズオさんと参加することに。そこで、父に3,000万円の預金と2,000万円の株式・投資信託があると知りました。


 ケンイチさんは、父が蓄えていたまさかの資産額に驚くと同時に、「高齢の父がこんなに大きなお金を持っていると、詐欺などに遭うのではないか」と心配になったそうです。そこで、カズオさんの同意を得て、銀行口座と証券口座のログイン情報を預かり、父に代わって資産の管理を行うようになりました。


 もちろん、利益や配当は父カズオさんの口座に入るため、家族の間で特に問題になることもなかったと言います。


父が逝去…妹が抱いた「兄への疑念」

 ところが数年後、カズオさんが認知症を発症。自分の保有銘柄や取引内容を説明できなくなってしまいました。


 その後、カズオさんが亡くなり、相続が発生。ケンイチさんの妹であるユミさん(50歳)が取引履歴を確認すると、ケンイチさんが操作していた期間に複数回の売買や出金があり、100万円超の評価損が判明しました。


「父は本当に了承していたのか」「認知症が進んだ後も、兄が勝手に取引していたのではないか」と疑念を抱いたユミさんは、兄であるケンイチさんに詰め寄ります。


 ケンイチさんは、取引の経緯や資金の流れをできる限り説明し、自分のために使った金銭がないことを必死に説明しました。加えて、遺産分割ではユミさんに一定の譲歩をすると約束。


 その結果、なんとか訴訟などの深刻な紛争には発展しなかったそうですが、ケンイチさんは「善意のつもりが、危うく血のつながった妹と裁判沙汰になるところでした……本当に後悔しています」と反省しきりでした。


親の了承があっても、自由に取引できるわけではない

 近年、高齢の親がインターネット取引に不慣れであるため、子どもに証券口座の操作を任せるという話をよく聞きます。


 ケンイチさんも、父親の資産を増やそうという善意から取引を始めており、評価損が生じたという結果だけで、直ちに使い込みや損害賠償責任が認められるわけではありません。


 しかし、「父に頼まれた」という口頭の了承があっても、どの商品を、いくらまで、いつまで取引してよいのか、明確に決めている家庭は多くないでしょう。


 こうした中、権限の範囲を超えて取引し、損失を生じさせた場合には、不法行為に基づく損害賠償などを求められる可能性があるため注意が必要です。


また、子どもが金融商品の売却代金や配当金を、自身のために取得していた場合、不当利得返還請求や、遺産の使い込みを巡る争いにも発展しかねません。


 特に問題となるのは、親の認知判断能力が低下した後の取引です。本人が取引内容を理解して新たな指示を出せない状態となった場合、以前の口頭の了承が、その後の売買まで含むのかを確認できないため、疑念が生まれトラブルに発展する可能性が高くなります。


証券口座を子が管理しても「もめない」ためのポイント

 一方、取引代金が全て親名義の口座内で管理され、親の生活や資産形成のために使われていたことを記録で説明できれば、結論は変わり得ます。


 今回、ケンイチさんは取引履歴と資金の流れを開示し、遺産分割でも一定の譲歩をしたことで訴訟を避けられました。ただし、正式な権限と記録がなければ、善意だったことを後から証明するのは決して簡単ではないでしょう。


 また、こうした争いを避けるための対策として、日本証券業協会の「家族サポート証券口座」があります。


 家族サポート証券口座は、本人と家族代理人があらかじめ任意代理契約を結び、証券会社への届出、代理人の本人確認、権限範囲の確認を経て取引する仕組みです。


 こうした仕組みが確立されていることからも分かるとおり、「家族だから」「本人の同意を得ているから」と、自分以外の証券口座を自由に操作するのは危険です。本人が元気なうちに権限を明確にする必要があるでしょう。


親の死後、相続でもめないための最もシンプルな対策

 最も簡単な対策は、親のIDやパスワードを家族が預かり、本人になり代わって取引する方法をやめることです。


 今回紹介したケースでは、まずは証券会社へ相談した上で、家族が取引内容を確認する方法や、正式な代理人として届け出る制度があるかを確認します。口頭で了承を得るだけでなく、運用の目的、対象商品、投資上限、売却条件、出金先などを書面に残し、取引履歴や資金の流れも保存しておくべきです。


 また、より広く「財産管理」という観点で考える場合には、財産管理委任契約と任意後見契約を組み合わせる方法があります。


 具体的には、本人が元気な間は委任契約に基づいて支援し、判断能力が低下した後は、家庭裁判所による任意後見監督人の選任を経て、任意後見人が契約で定めた範囲の財産管理を行う、という流れです。なお、任意後見契約は公正証書で締結する必要があります。


 そのほか、家族信託を利用し、親を受益者、子を受託者として、財産の管理・処分・承継を設計する方法もあります。


 ただし、契約上は有価証券を信託財産に含められても、実際にどの証券会社で、どの商品を、どのような口座で運用できるかは別に確認が必要です。契約を結ぶ前に、利用予定の金融機関が対応できるかを確認しましょう。


財産管理の最重要事項

 ここまでいくつかの財産管理方法を紹介してきましたが、どの方法を選ぶ場合でも「他の相続人への説明を怠らないこと」がなにより重要です。

例えば、少なくとも年に1度は残高や売買内容、出金の有無などを家族で共有し、子自身の口座には資金を移さないというルールを設けます。


 家族による財産管理では、利益を出すこと以上に、後から見た第三者が「親のための取引だった」と説明できる状態を残すこと、これを意識しておきましょう。


※本稿の事例は実際の事件を基にしていますが、守秘義務およびプライバシー保護のため、登場人物は全て仮名とし、人物関係、年齢、財産額その他の事情を一部変更しています。


(山村 暢彦)

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