米国では、長年にわたり増配を続ける企業群で構成される「配当貴族指数」が、優れた総収益を積み上げてきました。原動力は、連続増配を重視する経営と、投資家からの厚い信頼です。

日本でも25年以上増配を続ける企業が増える中、公的年金を補う安定収入を求めるシニア世代に向けて「連続増配株への分散投資」の実力を検証します。


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「配当貴族指数」とは…S&P500とパフォーマンスを比較

 イラン戦争と原油高、利上げ観測と長期金利の上昇、米中間選挙を巡る不透明感など、株式市場を覆う不確実性は一層強まっています。


 ビジネスや投資の世界で使われる「VUCA」とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字です。今後も、こうしたリスクが顕在化するたびに市場需給が悪化して、一時的にせよ株価が下落する局面が想定されます。


 図表1は、米国の「配当貴族指数」(S&P 500 Dividend Aristocrats Index=25年以上連続増配してきた企業群で構成される株価指数)とS&P500種指数について、年初来の総収益指数(Total Return Index)の推移を比較したものです。


図表1:米国市場で底堅さを見せる「配当貴族指数」の年初来リターン
25年以上連続増配の日本企業11銘柄。うち「時価総額1兆円超えの4社」に500万円ずつ投資した結果…
出所:市場実績と各種情報に基づき作成(2026年8月31日時点)

 本データの注目点は、下記3点です。


  • 両指数とも年初来で+12~13%と底堅い
  • イラン紛争後は配当貴族指数の下値抵抗力が目立つ
  • 両指数を組み合わせることで値動きの分散が期待できた
  •  株式市場は、エヌビディアが8月26日に発表した「市場予想を上回る好決算と強気なガイダンス(業績見通し)」と、ジャクソンホール会合(28日)での「ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長のややタカ派的な講演」を、ひとまず消化しました。


     ただ、9月は中間選挙(11月3日)に向けたトランプ政権の対イラン・対中強硬姿勢も警戒され、「中間選挙前の秋波乱(アノマリー)」が株価の上値を抑える可能性には留意が必要です。


    長期総収益でS&P500を上回ってきた「配当貴族指数」

     配当貴族指数は、S&P500構成銘柄のうち「25年以上にわたり毎年増配を続けてきた企業群(69銘柄)」で構成される株価指数です。単に配当を支払い続けた企業の集まりではありません。景気後退や金融危機、金利上昇、コロナ危機などの逆風下でも株主還元を優先し、配当を増やし続けてきた経営陣の強いコミットメントを体現する企業群です。


     連続増配を維持するには、安定したキャッシュフロー、価格決定力、規律ある資本配分に加え、長期にわたり利益を生み出す経営力が欠かせません。そうした企業は投資家の信頼を積み重ね、相場が需給波乱に見舞われても「株価の耐久力と反発力(Resiliency)」を発揮してきました。


     実際、図表2が示すように、2000年初来の配当貴族指数のトータルリターン(配当込み総収益)は、S&P500(市場平均)のそれを大きく上回ってきました

    相対的に強い株価の耐久力と、配当再投資による複利効果が長期トレンドを支えてきたといえるでしょう。


    図表2:長期の総収益で「配当貴族指数」はS&P500を上回ってきた
    25年以上連続増配の日本企業11銘柄。うち「時価総額1兆円超えの4社」に500万円ずつ投資した結果…
    (出所)2000年初を100とする総収益指数(Total Return Index/週次)より作成(2026年8月28日時点)

     不確実性が高まる局面でも連続増配という「結果」を示し続けた企業群は、長期資産形成における「株主還元力の強さ」を雄弁に物語っています。


     配当貴族指数の主力銘柄には、プロクター・アンド・ギャンブル(PG:70年連続増配)、コカ・コーラ(KO:64年)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ:64年)、ペプシコ(PEP:54年)、ウォルマート(WMT:53年)、アッヴィ(ABBV:53年)など、「配当王」(Dividend Kings)と呼ばれる50年超の連続増配記録を持つ大型優良株が数多く含まれます。


     米国の配当貴族銘柄への分散投資には、引き続き注目です。


    東証の上場銘柄でも「配当貴族株」が増えてきた

     米国市場の動きに呼応するように、東証でも25年以上の連続増配を記録する「日本版・配当貴族」と呼べる企業数が増えてきました。


     図表3では、今期(2027年3月期)の会社計画や市場予想を含めて25年以上の連続増配に到達している11銘柄について、事業概要、時価総額、年初来騰落率を一覧にしました。


    図表3:銘柄数が増える日本版「配当貴族銘柄」に注目
    25年以上連続増配の日本企業11銘柄。うち「時価総額1兆円超えの4社」に500万円ずつ投資した結果…
    出所:市場実績と各種情報より作成(2026年8月28日時点)

     過去、幾度もの厳しい経済・事業環境でも1株当たり配当金を毎年(毎期)増やしてきた実績には、安定収益を追求し、株主還元を重視してきた各社の経営努力が表れています。


     このうち、時価総額(株価×発行済み株式数)が1兆円を上回る大型配当貴族株をライトブルー(空色)で示しました。花王(4452:37年連続増配)、三菱HCキャピタル(8593:28年連続増配)、ユニ・チャーム(8113:25年連続増配)、KDDI(9433:25年連続増配)の4銘柄です。


    大型「配当貴族4銘柄」に500万円ずつ投資した結果…

     東証上場企業のうち、時価総額が1兆円を上回る配当貴族4銘柄それぞれについて、2005年以降の1株当たり配当金(株式分割調整後)の実績と、今期会社予想(もしくは市場予想)までの推移を図表4に示しました。


    図表4:時価総額1兆円以上の「配当貴族4銘柄」と連続増配記録
    25年以上連続増配の日本企業11銘柄。うち「時価総額1兆円超えの4社」に500万円ずつ投資した結果…
    出所:市場実績と各種情報より作成(2026年8月28日)*株式分割調整後ベース*一株当たり配当金は今年度の会社予想・市場予想平均までを含む

     今期の1株当たり予想配当金は、2005年当時の水準と比較して花王が約4.1倍(2026年12月期)、三菱HCキャピタルが約18.2倍(2027年3月期)、ユニ・チャームが約20倍(2026年12月期)、KDDIが約14.5倍(2027年3月期)に増える見込みです。


     過去約20年における、幾多の厳しい経営局面でも、毎年(毎期)増配を着々と続けてきた「長期の時間軸では大幅増配」とも称せる記録です。こうした長期連続増配銘柄は、債券(確定利付き証券=Fixed Income Securities)と異なり、「インカム(定期収入)増額期待をも抱かせる成長性証券」ともいえるでしょう。


     次に、上記4銘柄へ、約20年前(2006年初)から等金額分散投資したケースの総収益を、株価の値上がり益(キャピタルゲイン)と配当収入(インカムゲイン)に分けて検証しました。


  • 2006年初に花王、三菱HCキャピタル、ユニ・チャーム、KDDIに各500万円ずつ分散投資したと仮定
  • 投資元本2,000万円は時価で約7,620万円と約3.8倍に(値上がり益は5,620万円/株式分割調整後)
  • 受け取り配当総額は2006年の20.4万円から今年度は204万円へ10倍となる見込み(株式分割調整後)
  • 2006年から今年度(会社予想を含む)までの累計受取配当金は1,792万円となる見込み(株式分割調整後)
  • 総括:およそ20年で投資元本は約3.8倍。今期の年間配当総額は2006年比で10倍に増加する見込み
  • 注1)投資株数は「500万円÷2006年初株価(株式分割調整後)」で計算。単元株(100株)は考慮していません
    注2)時価ベースの値上がり益(8月28日時点)と各年の受取配当金総額は税引き前です
    注3)上記シミュレーションは市場実績に基づく参考情報であり、個別銘柄への投資を推奨するものではありません


    図表5:2006年初に「配当貴族4銘柄」へ等金額分散投資した場合の総収益シミュレーション
    25年以上連続増配の日本企業11銘柄。うち「時価総額1兆円超えの4社」に500万円ずつ投資した結果…
    出所:市場実績と各種情報に基づき検証(2026年8月28日)*市場実績を基にした参考情報であり将来の投資成果を保証するものではありません

     国内で25年連続増配を達成している11銘柄の中には、足元で人気を集めるAI・半導体関連株は含まれていません。また、株価パフォーマンスが東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価を常に上回ってきたわけでもありません。


     それでも、25年以上増配を続ける「配当貴族」は、一度でも配当を据え置くだけで失う厳しい称号であり栄誉です。換言すると、連続増配による株主還元を経営の主軸に据えている企業群といえるでしょう。


     中でも時価総額1兆円超の配当貴族銘柄は、ブランド力と安定成長力に優れた企業として、投資家の評価を得ています。


     健康寿命が延びて「人生100年時代」を迎える中、シニア世代や資産形成に取り組む現役世代の投資家にとり、公的年金だけでは不足する老後の生活資金をどう補うかは切実な課題です。


     2019年に金融庁の報告書を契機に注目された「老後2,000万円問題」と向き合う上でも、配当金(キャッシュフロー=不労所得)の連続的な増加と、長期的な値上がりも期待できる株式ポートフォリオを検討する価値はあるでしょう。


    配当貴族銘柄への投資で「年金+α」を確保

     上記に示した「4銘柄へ各500万円ずつ合計2,000万円投資した場合の検証」は、分かりやすさを優先した参考例です。一度に多額の投資をせずとも、老後を見据えて、収入や貯蓄(預貯金)の一部を複数の配当貴族銘柄に徐々に積み上げ投資していく方法も考えられます。


     冒頭で述べたとおり、「VUCA」が色濃い不透明な時代だからこそ、連続増配という「株主との約束」を守り続けてきた、異なる業種の配当貴族銘柄に、時間を味方につけながら分散投資していく。

    公的年金に「増加していく定期収入(連続増配)」を加えながら、長期の視野でトータルリターン(総収益)向上を追求していく「資産形成術」として注目したいと思います。


    (香川 睦)

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