今年も残り4カ月。今後の中国情勢はどう動くのでしょうか。

日本の経済・安全保障環境に深く関わる「四つの見どころ」――中国経済、米中関係、台湾情勢、習近平氏の動向――の行方を先読みします。


中国情勢の「先読み」――年内4カ月で注目すべき「4つの見どこ...の画像はこちら >>

中国情勢を巡る四つの見どころを先読みする

 世の中は9月に入りました。もう少し暑さは残りそうですが、真夏を経て、これから秋に向かうに連れて、比較的過ごしやすい時期に向かうことを願う今日このごろです。何はともあれ、今年も残り4カ月となりました。


 私見では、これからの4カ月は、中国情勢を考察する上でも非常に重要なタイミングです。その見どころを整理しつつ、私なりの視座をお届けしたいと思います。


 今回のレポートでは、1.中国経済、2.米中関係、3.台湾情勢、4.習近平動向という四つの視点から、中国情勢を先読みします。この四つのポイントは、それぞれが単独で存在するわけではなく、相互に連動しながら、影響し合いながら推移していくインディケーター(指標)になると考えています。


1.中国経済―内外の不確実性が交錯する中、景気が回復、あるいは安定するか

 本連載でもモニタリングしてきたように、中国経済は足元低迷しています。改めて直近の主要統計を整理してみます。4-6月期の国内総生産(GDP)実質成長率は前年同期比4.6%増で、前期と比べても、過去1年の推移を見ても、伸び率は最大の鈍化を見せています。


 中国政府の成長率年間目標は4.5~5.0%増ですが、それをも下回った形。第3四半期、第4四半期に向けて、成長率がどう推移していくのかに要注目です。


2025年4~6月 2025年7~9月 2025年10~12月 2026年1~3月 2026年4~6月 5.2% 4.8% 4.5% 5.0% 4.3% (出典)中国国家統計局の発表を基に筆者作成。
数字は前年(同期)比

 その他の主要統計をアップデートしてみましたが、生産、消費、投資が軒並み鈍化しているのに加え、7月、若年層(16~24歳、在校生除く)の失業率が前月から3.0ポイント上昇し、17.9%。7月単月の数字としては、過去3年で最低の水準です。


 若年層を巡る就業状況の悪化は、経済だけでなく治安の悪化、ひいては政治リスクにもつながり得るため、中国情勢という観点からも特に注視する必要があると思っています。


  7月 6月 工業生産 4.5% 5.3% 小売売上 0.6% 1.0% 固定資産投資 ▲6.7%(1~7月) ▲5.7%(1~6月) 不動産開発投資 ▲19.2%(1~7月) ▲18.0%(1~6月) 不動産を除いた固定資産投資 ▲3.7%(1~7月) ▲2.7%(1~6月) 貿易(輸出/輸入)人民元建て 19.2%
(17.8%/21.2%) 24.2%
(20.8%/29.4%) 失業率(調査ベース、農村部除く) 5.2% 5.0% 若年層失業率(在校生除く) 17.9% 14.9% 消費者物価指数(CPI) 0.5% 1.0% 生産者物価指数(PPI) 3.5% 4.1% (出典)中国国家統計局の発表を基に筆者作成。▲はマイナスを示す

 また、この期間景気回復にとっての足かせとなっている(1)不動産不況(2)デフレスパイラル(3)供給過剰と需要不足、といった構造的問題がどの程度解消されるか、同時に、イラン情勢などの外部要因が景気にどう影響していくかにも注目すべきだと思います。


2.米中関係―習近平国家主席の9月訪米はどうなるか

 5月のトランプ大統領訪中を含め、米中関係についても本連載で密に取り上げてきました。米中は本質的に戦略的競争関係を形成しており、経済、先端技術、軍事、そして各地域における地政学的攻防、勢力圏争いを含めて、両大国はあらゆる分野、地域、次元で互いににらみ合っています。


 この構図が近未来に変質することはないでしょう。両国、あるいはどちらか一方の内政に地盤沈下的な変化が起こらない限り。


 この期間も、米中は互いに先端技術や関連企業を巡る制裁や規制措置を取り続けていますが、王毅(ワン・イー)外相とマルコ・ルビオ国務長官、何立峰(ホー・リーフォン)副首相とベッセント財務長官、グリアUSTR代表のハイレベル協議は継続されています。


 何より、習近平国家主席とトランプ大統領という最高指導者同士が互いを決してののしらず、「個人的な友好関係」を演出している状況下において、特に5月のトランプ訪中を受けて、米中関係は足元、(少なくとも短期的な)「相対的安定期」に入っていると理解できます。


 そんな中、注目されるのが9月下旬に調整されている習近平訪米です。まず、当初9月24日といわれていましたが、予定通り訪米が実現するのかどうかが一つの注目ポイントです。

トランプ訪中はイラン情勢が一つの原因で延期された経緯は記憶に新しいです。


 予定通りの訪米が実現するかどうかは、両国当局がどれだけの信頼関係を構築し、緊密な意思疎通を行っているかにかかっており、両国関係の成熟度を検証する上での試金石にもなると思います。


 また、両首脳が会談で何を語るのか、にも要注目です。台湾問題、レアアース、追加関税、投資と貿易、フェンタニル、イランやウクライナなど地域情勢などが考えられますが、私は特に人工知能(AI)に注目しています。トランプ訪中時に両国は「AI対話」を開始するとうたいましたが、いまのところ目立った動きは見られないようです。


 習近平氏が7月に上海で自国主催の「2026世界AI対話」に出席し、談話を発表したように、習近平政権としてAIを国家戦略の観点から重視しているのは明らかであり、この分野で競争関係にある米国のトランプ大統領とどのような話をし、対話に向けた何らかのメカニズムを構築するのかどうか、注目しています。


3.台湾情勢―有事がどう推移するか、緊迫化するか

 中国経済、米中関係と並んで、台湾有事も日本の経済や安全保障環境にとって非常にインパクトの強い事象です。


 8月17日に開催された「江沢民生誕100周年記念式典」で重要談話を発表した習近平氏は、江沢民氏が過去に語った「中華民族は、祖国の統一と富強、民主、文明的な社会主義現代化国家を完成させた上で、偉大なる復興を実現する」という文言を「復唱」しました。


 習氏にとって、「中華民族の偉大なる復興」=「中国の夢」は2012年の総書記就任当初からの指導思想ですが、「祖国の統一」がその前提(必要条件)であるというスタンスを改めて前面に打ち出した形です。


 共産党指導部は引き続き、9月の習近平訪米を含め、米中首脳会談でのトランプ氏の反応や出方などをうかがいつつ、自らの時間軸と方法論に基づいて「祖国の完全統一」に向けて着々と準備を進め、行動していくものと想定されます。


 そんな中、台湾軍も8月5~14日、年次大規模軍事演習「漢光42号」を実施しました。台湾国防部が「国防における最も重要な戦備演習」と位置付ける年次演習です。


 今回、最大の特徴は、全面侵攻への対処に加え、封鎖下での重要物資の海上輸送を想定した「反封鎖護航」の具体化と拡充です。

中国が全面侵攻に先立ち、または全面侵攻と組み合わせて台湾を海上封鎖する事態への警戒が一段と強まっている現状を示しています。


 また、軍だけでなく住民・社会全体の有事対応能力を高める訓練も行われました。海底ケーブルなどの通信インフラが攻撃・妨害を受け、通信能力が低下する事態を想定し、市民に通信制約下での行動を経験させることで、社会全体のレジリエンスを高める狙いがあったといえます。


 中国と台湾それぞれが「有事」を巡る動きを活発化させる中、台湾情勢がこれからの4カ月、どう推移していくのか。9月下旬の習近平訪米に加え、11月3日には米国で中間選挙、11月18~19日には中国深セン市でアジア太平洋経済協力会議(APEC)、11月28日には台湾で地方統一選挙、12月14~15日には米国マイアミでG20首脳会議が行われます。


 これらのアジェンダを通じて、台湾問題がどう扱われ、台湾情勢がどう推移するかは、日本を取り巻く経済・安全保障環境にとっても「不確実な影響」を生じさせ、状況次第では、深刻な地政学的リスクを誘発する可能性もあるだけに、注視が必要だと思います。


4.習近平動向―「露出」から見るその権力基盤

 最後に、最高指導者である習近平氏の動向に焦点を当てたいと思います。


 習近平氏の最近の露出の傾向としては、以下が挙げられます。


(1)露出は控えているが、公務は一定程度こなしている
(2)基本的に執務室がある北京に居て、公務をこなしている
(3)外遊は最低限度に抑えている


(1)~(3)を裏付ける根拠として、私が中国政府の発表を基に集計したデータによれば、7~8月の2カ月における公務としての露出は計24回(例:1回の外遊で4カ国の首脳会談をする場合は「4回」とカウント)となっています。


 うち、外遊は8月30~31日のキルギス公式訪問と上海協力機構(SCO)への出席のみで、国内においても、7月15~17日に上海を視察、世界AI対話への出席に際して、訪中した各国首脳との会談に臨みました。それ以外の公務は、内政も外交も含めて北京でこなしています。


 今年73歳の習近平氏は、身体的な負担を考慮しつつ、公務を抑えつつ、かつ基本的には北京にとどまり、来年秋に5年に1度の党大会を控え、後継の育成や人材の選抜などを本格的に実行する時期に差し掛かる中、政治、経済、外交を含め、他者に任せられる業務は率先して任せるという「戦術」を取っているのだと思います。


 いずれにせよ、習近平氏の身体状況や権力基盤は、私たちが中国情勢を考察する上で「一丁目一番地」で重要ですから、私自身、継続してモニタリングしていきたいと考えています。


(加藤 嘉一)

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