2026年6月15日、アメリカ・カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地で、アメリカ空軍のB-52H戦略爆撃機が墜落しました。
このB-52ですが、1962年に生産が終了しているため、実動機数は1機減となるはずです。
B-52と同じく冷戦初期に誕生し現在も運用されている「同期」の戦略爆撃機にロシアのTu-95「ベア」があります。こちらも負けず劣らずの長寿機で帳簿上58機現役ですが、実動機数は30機前後ともいわれます。2025年のウクライナ軍による「クモの巣作戦」で、少なくとも7機が破壊されたとされ、1割以上という被害は甚大です。Tu-95は1992年に生産を終了しており同型機の補充は極めて困難です。
生産終了後も戦力を維持できるB-52と、漸減していくTu-95の違いは何でしょうか。その答えはアリゾナ州のデービスモンサン空軍基地にあります。
同基地にはAMARG(航空宇宙機整備・再生群)と呼ばれる世界最大級の機材保管施設があり、「ボーンヤード:航空機の墓場」の通称で知られています。
その実例が、B-52H「ワイズガイ(Wise Guy)」の現役復帰です。2016年、グアム島のアンダーセン空軍基地でB-52Hが事故により全損しました。その穴を埋めるためボーンヤードの機体が再生されることになり、選ばれたのがB-52Hシリアルナンバー60-0034「ワイズガイ」でした。長年保管されていた機体を徹底的に整備し、最新仕様へ改修したうえで2021年に現役復帰させたのです。
こうしてアメリカ空軍は、生産終了から半世紀以上が経過した爆撃機の保有数を維持しているのです。今回の事故による損失分も、損害評価次第では過去のワイズガイと同様に保管機の再生が検討される可能性もあります。
「モスボール」が支える驚異の再生能力もっとも「モスボール」は、言うほど簡単でありません。まず、デービスモンサン空軍基地が「航空機の墓場」として使える立地条件です。周辺は年間降水量300mmにも満たない乾燥地帯で、塩害も少ない内陸部で台風もなく、湿気による腐食が極めて少ない環境です。
しかし保管中も技術者を確保し、部品を管理して最低限のメンテナンスが必要でランニングコストが発生し続けます。モスボールされた機体はすぐに使えるわけではありません。実際ワイズガイの復活には数年の期間と膨大な整備作業が必要でした。安上がりな仕組みではありません。
「戦いは数だよ」。ロシア・ウクライナ戦争は、最新兵器の性能だけでなく「失われた兵器をどれだけ補充できるか」が勝敗を左右することを改めて示しました。どれほど優秀な兵器であっても、失われれば戦力は減ります。だからこそ各国は、平時には無駄に見える予備戦力や保管装備を維持しているのです。ロシア軍はモスボールしていたT-62やT-55といった旧式戦車まで引っ張り出し、ウクライナ側も各国から供与された旧式装備を活用しています。日本でも近年74式戦車や90式戦車、一部火砲のモスボールが始まっています。
B-52は1955年から実戦配備に就いています。「よくもそんな古い飛行機が飛んでいるものだ」と感心しますが、本当に驚くべきは現役として飛ばしていることではなく、冷戦時代に大量生産された機体を数十年間保管し、必要になれば復活させる体制で戦略戦力として維持されてきたことです。B-52の長寿命は、優れた設計だけの成果ではありません。モスボールされた予備機群と、それを維持する国家の体力と地勢があって初めて成立するものです。
先に紹介したB-52Hの60-0034「ワイズガイ」は、配備されていた第5爆撃航空団から2008年に「ボーンヤード」に送られましたが、その際第5航空団の誰かがコクピットのクリップボードにメッセージを残しています。
「AMARG、この60-034は冷戦の暗い時代から世界的なテロとの戦いまで、アメリカを見守り続けた冷戦時代の戦士だ。彼女を大切にしてくれ…再び必要になる日まで。」
70年以上飛び続ける爆撃機の姿は、単なる長寿記録ではありません。冷戦期に大量生産された機体を保管し必要になれば復活させる。その体制を維持する国力まで含めて「備え続けること」の価値を物語っています。

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