さまざまな鉄道路線が営業している日本。大きな駅に行くと、多数の線路が並行して並び、互いに行き交う光景を目にします。
しかし、一般道の交差点のように、鉄路と鉄路が平面交差する、いわゆる直角に交わる「十字路」のようなものはほとんど見かけません。とはいえ、世界的には普通にあり、鉄道業界ではこのような交差は「ダイヤモンドクロッシング」と呼ばれています。
とはいえ、日本に全くないわけでもありません。安全性やダイヤなどの面から、国内において使われているのは路面電車(軌道)で2か所、普通鉄道で1か所のみです。
この、普通鉄道で唯一存在するというのが名古屋市港区を走る名鉄(名古屋鉄道)築港線の一角になります。そこで、筆者(鈴木伊玖馬:乗りもの好きライター)は、この「日本唯一の場所」に足を運んでみました。
名鉄は愛知県を中心に営業している大手私鉄で、JRを除いた、いわゆる私鉄の中では第3位の総営業距離を有する大企業です。基幹路線となる名古屋本線は愛知県の豊橋駅を起点に、岐阜県にある名鉄岐阜駅までを接続。その他にも、名鉄名古屋駅から犬山周辺を接続する犬山線、名古屋から中部国際空港をつなぐ常滑線などを運行しています。
その常滑線の途中駅である大江駅(名古屋市南区)から、東名古屋港駅(名古屋市港区)までを東西に結ぶのが名鉄築港線です。名鉄築港線上にあるのはこの2駅だけであり、路線距離はわずか1.5kmのみです。
ダイヤモンドクロッシングは東名古屋港駅から東に350mほど進んだ地点にあり、南側の道路の奥から伸びてくる線路と交差しています。
名鉄築港線と南北に交差するのが、名古屋臨海鉄道が運用する東築線です。一般的な旅客輸送を目的とした路線ではなく、物資を運ぶ貨物線になります。ルーツとなるのは戦前に名古屋港と全国を結ぶために敷設された県有鉄道で、それが1966年に名鉄へ移管された後、今の名古屋臨海鉄道が運営するようになりました。
貨物線が敷かれていることからもわかるように、ダイヤモンドクロッシングの周辺は大規模な工場地帯です。東名古屋港駅の北側には東レの名古屋事業場があるほか、道路を挟んだ正面には三菱重工業の名古屋航空宇宙システム製作所 大江工場が建っています。すでに定期的な貨物輸送便はないようですが、数十年前にはかなりの需要があったのではないでしょうか。
なお、名古屋臨海鉄道の公式Xでは2026年6月12日に「60周年の東築線、早速の運行です!」という一文とともに、線路上をディーゼル機関車が走る様子が公開されています。
付近はほとんど工場ばかりのため、築港線はかなり独特なダイヤをしています。具体的には平日朝7時台には5本、8時台には3本の運行がありますが、そこから8時間近く運行する電車はゼロ。そして16時台になると、再度運行を開始するという方式になっています。
しかし、決して利用者が少ないわけではありません。
また、築港線は鉄道の車両輸送においても欠かせない路線になっています。たとえば東海道本線から名鉄や名古屋市営地下鉄などに向け新造した車両を運んでくる際、この築港線から大江駅を経由して名鉄および名古屋市営地下鉄の各線に運ぶのに使われます。
前述したように、現代におけるダイヤモンドクロッシングはデメリットが目立つ方式です。しかし東築線には少ないながら需要があり、また築港線も決まった時間帯には利用者がいます。
双方ともスポット的な使われ方をしているだけに、ダイヤモンドクロッシングという独特な仕組みが今なお残っているのだと、現地へ行って改めて実感しました。

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