航空ショーの「主役」が不在に

 イギリスで開催された世界有数の航空イベント「ファーンボロー国際航空ショー」。世界中の航空機メーカーが最新鋭機を披露するこの舞台で、大手旅客機メーカーのボーイングが新型旅客機の展示やデモ飛行を行わないという異例の事態となりました。

いったいなぜなのでしょうか。

なぜ? ボーイングが“世界最大級の空の祭典”で「自社の飛行機...の画像はこちら >>

 今年のファーンボロー国際航空ショーの会場で、ボーイングの自社機の姿は見られませんでした。展示されていたのは、DHLの777-200LR貨物機や、GE Aerospaceの747-400試験機など、パートナー企業の機体のみです。

 こうした状況は今回に限ったことではありません。近年のファーンボロー航空ショーやパリ航空ショーでも、ボーイングは民間旅客機の実機展示を大きく減らしています。ライバルのエアバスが新型機を積極的に飛行展示するのとは対照的で、「なぜボーイングだけ飛ばさないのか」と疑問に感じた人もいるでしょう。

 その直接的な背景には、次世代大型旅客機「777X(777-9)」において、実用化に不可欠な認証作業のひとつである「型式認証」が長期化していることがあります。本来であれば航空ショーの主役となるはずの機体ですが、現在は試験飛行や認証作業が優先されています。また、新型単通路機の「737-7」と「737-10」も認証作業が続いており、これらの試験機をショーへ送り出す余裕がないのが実情です(737-7は8月に認証を取得)。

「新型機」より「信頼」を

 しかし、現地でボーイングの民間機部門によるメディアブリーフィングを取材すると、より根深い理由が見えてきました。説明の中心は新型旅客機の話ではなく、品質管理の改善や工場の生産体制、認証作業の進捗など、メーカーとしての基盤を立て直す取り組みに置かれていたのです。

なぜ? ボーイングが“世界最大級の空の祭典”で「自社の飛行機を飛ばさない」異例の選択…“沈黙”に込められた深い意味とは
ファーンボローのボーイングの展示建物(布留川 司撮影)。

 ボーイングはこの数年間、機体の品質問題や認証の遅れ、さらにはストライキによる生産停止など、さまざまな課題に直面してきました。

その結果、航空会社への機体納入はたびたび遅延しています。

 そのため同社は現在、生産工程や品質管理の見直し、新たな737組立ラインの整備、サプライチェーンの立て直しといった会社全体の改革を推進しています。いま最優先となっているのは、新型旅客機を次々と投入することではなく、安全で品質の高い旅客機を安定して生産し、航空会社へ予定どおり引き渡せる体制を整えることなのです。

最も伝えたかったメッセージ

 一方で、ボーイングの旅客機が売れなくなったわけではありません。同社は今後20年間で世界の旅客機需要がさらに拡大すると予測しており、2026年上半期の受注数はライバルのエアバスを上回りました。ファーンボロー航空ショーの会期中にも航空会社から新たな受注を獲得するなど、市場の需要は依然として堅調です。

なぜ? ボーイングが“世界最大級の空の祭典”で「自社の飛行機を飛ばさない」異例の選択…“沈黙”に込められた深い意味とは
会場に展示されたGE Aerospaceの747-400試験機(布留川 司撮影)。

 それでも、メディアブリーフィングで繰り返し語られたのは、777Xや737 MAXシリーズの認証、生産体制の強化、品質管理の改善といった、「いま目の前にある課題」を着実に解決していくという姿勢でした。

 航空ショーでありながら、主役は飛行機ではありませんでした。品質を高め、生産を安定させ、予定どおり機体を納入できるメーカーへ戻る――。その取り組みこそが、今年のファーンボローでボーイングが最も伝えたかったメッセージだったように感じられました。

【写真】えっ…これがボーイングが開発中の「新型旅客機たち」です

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