春秋のグランプリレース、GⅠ宝塚記念(阪神・芝2200m)とGⅠ有馬記念(中山・芝2500m)は、それぞれのシーズンの最後に行なわれる。そのため、昔から「余力のレース」と言われてきた。
それはつまり、GⅠシリーズなどの激戦の疲れや消耗がどれぐらいなのか、そのうえで、どれだけの体力的な"オツリ"が残っているのか――それが問われるレース、ということだ。
今年の上半期のグランプリ、6月14日に行なわれる宝塚記念では、特にこの"余力"に関して大きな注目を集めそうだ。
というのも、ファン投票で過去最多の36万票超えという支持を集めて堂々の1位で選出されたクロワデュノール(牡4歳)の、宝塚記念における最大の不安がまさにその"余力"にあるからだ。
クロワデュノールはこの春、GⅠ大阪杯(4月5日/阪神・芝2000m)、GⅠ天皇賞・春(5月3日/京都・芝3200m)と、古馬中・長距離路線の王道GIを連勝。宝塚記念も勝てば、春シーズンにおける古馬GⅠ3連勝という史上初の快挙を達成することになる。ちなみに、それを実現すれば、宝塚記念の賞金3億円とは別に、3億円のボーナスも手にすることができる。ただ、その挑戦は決して簡単に果たせるものではない。
そもそも、過去2戦もラクな競馬ではなかった。大阪杯は休み明け初戦で、完調手前の状態にあった。おかげで、最後はフラフラになりながら走っていたが、逃げるメイショウタバル(牡5歳)を何とか捕まえて戴冠を遂げた。
続く天皇賞・春では調子自体は上がっていたが、適距離とは言えない長距離戦に苦しんだ。ゴールを目前にして、距離適性で勝る伏兵ヴェルテンベルクの強襲を受けた。
しかも、2戦とも間違いなく激しい消耗戦だった。とりわけ、かつて経験したことのない長丁場のレース、天皇賞・春を走り終えたあとは、相当な疲れが残ったはずである。
だからこそ、クロワデュノールに宝塚記念を戦う"余力"が本当にあるのか、多くのファン、関係者が気にかけている。
陣営もその点は承知していて、天皇賞・春後の消耗次第では宝塚記念回避の選択肢もあったという。だが結局、シーズン最後の大一番への出走を決断した。それについて、クロワデュノールの動向をつぶさに見守ってきた関西の競馬専門紙記者はこう語る。
「確かに激戦後の消耗は心配されますが、宝塚記念はクロワデュノールにとって、天皇賞・春よりもレースの条件が格段によくなることは明らか。距離の2200mはドンピシャの適距離ですし、阪神競馬場の芝内回りという舞台も最適と言えます。
陣営としては、この条件面における好転と、激戦が続いたあとの疲労度とを比べて、いろいろと考えを巡らせて今回の決断をしたと思います。
今のところ、状態面に関しては『外見からは大丈夫。ただ、目に見えない疲れが残っているかどうかは、走ってみないとわからない』と斉藤崇史調教師。
振り返れば、大阪杯がGⅠに昇格したのが2017年。この年のレースを勝ったのがキタサンブラックで、同馬は続く天皇賞・春も快勝した。そうして、宝塚記念では春の「古馬三冠」達成なるか、注目された。
しかし、キタサンブラックは単勝1.4倍という断然の1番人気に推されながら、9着と馬群に沈んだ。キタサンブラックほどの名馬であっても、春の、それぞれ条件が異なる3つのGⅠを勝つことはできなかった。ハイレベルな激闘を2戦も制したあと、最後のグランプリレースまで勝つ"余力"はさすがに残っていなかったのである。
以後、この偉業に挑む馬は出てこなかったが、そのキタサンブラックの子、クロワデュノールがついにチャレンジすることとなった。能力だけなら、父にも劣らぬ名馬級の存在である。
はたして、クロワデュノールは"余力"の壁を打ち破って、偉大なる父が遂げられなかった偉業を成すことができるのか、注目である。
そんな歴史的な瞬間への期待は膨らむが、宝塚記念では大阪杯や天皇賞・春以上に分厚いメンバーがそろった。大阪杯で上位を争ったメイショウタバルやダノンデサイル(牡5歳)をはじめ、昨春のGⅠ皐月賞(中山・芝2000m)でクロワデュノールを退けて優勝したミュージアムマイル(牡4歳)に、GⅠ3勝を誇るレガレイラ(牝5歳)、さらには前走で重賞勝ちを決めた"上がり馬"もズラリ。
それでも、クロワデュノールに次ぐ人気になりそうな面々は、クロワデュノールと同じく、不安を抱えている。メイショウタバルは同型の存在で単騎逃げが見込めず、ダノンデサイルは右回りで内にささる弱点がある。ミュージアムマイルは予定が崩れてばかりで順調さを欠いており、レガレイラも昨年末の有馬記念以来、という臨戦は気になるところだ。
そうした状況にあって、先述の専門紙記者も「予定どおりに来ている馬も来ていない馬も、実績ある実力馬たちは不安を抱えながらの出走。人気どおりに決まらないことは確かでしょう」と言う。
手強いライバルたちに懸念材料があることは、クロワデュノールにとっては好材料だが、同馬もライバルから見れば、同様の立場にある。今年の宝塚記念は、クロワデュノールの偉業達成が叶わなければ、もしかすると、とんでもない大波乱となるかもしれない。



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