大阪で行なわれたバレーボールネーションズリーグ(VNL)女子予選ラウンド第3週、日本大会。7月11日にトルコに敗れた日本は、6年連続の決勝ラウンド進出の道が険しくなっていた。

最終戦でポーランドに勝てなかったら、敗退が決まる状況だった。

 トルコ戦後、取材エリアに現れた佐藤淑乃(24歳)は、アウトサイドヒッターとして心中に滾(たぎ)る思いをこう吐き出していた。

「自分はオフェンスなので、アグレッシブに攻めて。相手を吹き飛ばすような勢いでスパイクを打っていかないと」

 それはスパイカーとしての決意表明だった。うまくいかないなかでも、彼女はポジティブな要素を探し、チームを、自分を強く信じていた。あるいは、無理矢理にでも不安を振り払うようだった。

 その前向きの志こそ、翌日、ポーランドに第1、第2セットを先取されながらも、3-2の逆転勝利で運命を変えられた理由だったかもしれない。

【女子バレー】佐藤淑乃が見せた前向きの「執念」 ポーランド戦...の画像はこちら >>
 佐藤はひとりのアタッカーとして岐路に立っている。

 この1、2年での躍進は目覚ましい。大学からプロリーグのSVリーグに参戦し、今やルーキーから国内では屈指の選手に成長して、代表でも主力の一角を勝ち取った。新シーズンはイタリア、セリエAへの挑戦が決まった。世界からも注目を浴びる一方、代償としてプレーは研究され、対策もされる。

思いどおりにいかないことが出てくるのも自然だった。

 結果、彼女は日本でのトップの座に甘んじるか、世界で頂点に挑むか、の分岐点に立っているのだ。

「去年(の代表シーズン)と比べて、今年は相手の自分の得意なコースへのブロックを感じますね。確かに苦労していますが、そこを打開することができたら、"自分の強みがもうひとつ増えて成長できる"と思っています。だから苦しい状況ではあるんですけど、これからもっといろんなことができると感じながらやっていますね」

 佐藤はそう語って、試行錯誤のなかでも怯んでいなかった。前進することで、何かをつかもうとしている。

【サービスエースでチームに流れを】

「今シーズンは世界一を目指してやっているので、その戦いを基準にして......」

 佐藤は野心的に言う。逆転勝利を収めたポーランド戦、象徴的なシーンがあった。

 佐藤は第2セットの7-7から、一度はバックアタックをブロックで止められている。得意の一撃をシャットアウトされたとき、アタッカーは試されるものだろう。直後、佐藤はもう一度、トスを呼び込み、人生を切り拓くような豪快なフォームで得点を決めた。少しも躊躇わず、むしろ奮い立つような感情が漂った。

結局、そのセットは大差で落としたのだが、その執念が逆転劇につながったのではないか。

 4セット目の4-4の場面で、佐藤は自らの一撃でサーブ権を奪うと、そこから自らのサーブでブレイクし、7-4と突き放した。3本のエースを記録し、完全にチームに流れを引き寄せている。そして勝負がかかった5セット目もエースを決め、劇的な逆転勝利を演出したのだ。

 彼女が受けた重圧は尋常ではなかっただろう。

 試合後、キャプテンで同じアウトサイドヒッターの石川真佑がコートインタビューで、「(2セットを取られて絶体絶命になり)『ここを勝てば強くなれる』とみんなと話して。セットごとに......」と語って言葉が続かず、声を詰まらせ、目を潤ませていた。アタッカーは、「決めなければ敗退」という忍び寄る恐怖と向き合っていたのだ。

 佐藤も取材エリアでは涙を流し、すべてのエネルギーをこの一戦で使い果たしたように映った。歓喜よりも安堵のほうがこぼれ出た。コート上の戦いは神々しいほど勇敢だった。

 今回のネーションズリーグで、佐藤は守備面も課題に挙げていたが、着実な成長を示している。

ポーランド戦も、レセプション(サーブレシーブ)はチーム最多の11回の成功。ディグも7回とチーム3番目の成功数だ。守備力の向上は、日本が世界を戦い抜く上で大きな収穫と言える。

「パスの精度が上がった」

 フェルハト・アクバシュ監督にも、そこを評価されていた。

 佐藤自身も、「特にレセプションは課題だったので、(日本ラウンドでは)しっかり安定して出せてよかったです。トルコ戦では相手の(メリッサ・)バルガスがオフェンス力がある選手だったので、ブロックの出し方を工夫して、シャットはなかったですけど、タッチは取れていたので。その点では、(敗れたものの)自分のなかでは悪くない試合だったなって」と、手応えを感じていた。

 戦い続ける佐藤が照準を合わせているのは、あくまで世界一だ。そのためには、現状に甘んじていない。

「今は"自分のよさを最大限に出すこと"を大事にやっています。そこを潰さないことが何より大切で、そのなかでいろいろ試しながら、つかみかけてきているなって」

 最後に、佐藤は安堵と意欲が混ざった声で言った。

「ファイナル進出は決めることができました。

ただ、このままでは(世界一は)厳しいと思うので。自分だけではなく、みんなで成長していきたいと思っています」

 7月22日、決勝ラウンドは中国で開幕する。8月にはロサンゼルス五輪出場をかけたアジア選手権も予定されている。そして2年後のロス五輪へ――佐藤の物語はまだ序章だ。

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