今春、三重の高校野球界でまばゆい光を放つ"星団"が現れた。
その名も昴学園。
【赴任4年目で春の大会制覇】
昴学園という学校名だけを見ると新興私学に思えるかもしれないが、三重県多気郡大台町にある県立高校であり、原則全寮制の総合学科という、全国的にも珍しい形態を取っている。
躍進の背景を語るには、ある監督の存在を抜きにできない。同校に赴任して4年目の東拓司(ひがし・たくし)監督である。
東監督は昴学園の選手たちを見つめながら、苦笑交じりにこう漏らした。
「ここも中学時代に2番手だった選手ばかりです。あの選手なんか、中学時代は不登校やったけど、今はウチで試合に出てますから。ようやってますよ」
前任校の白山では、10年連続で夏の三重大会初戦敗退だった弱小校を甲子園出場に導いた。その実話を記した書籍『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)は、2023年にTBS日曜劇場でドラマ化された(テレビドラマ版はフィクションのオリジナルストーリー)。
昴学園も一時は廃校寸前と言われ、野球部も16年連続で夏の三重大会初戦敗退という惨状だった。東監督や前任の高橋賢監督(現・四日市西高)の奔走で部員が集まるようになり、今や3学年で90人の選手が腕を競っている。
主将を務める郁島晴渡は、神奈川県横浜市出身。昴学園に進学した理由を聞くと、こう説明した。
「中学時代(横浜瀬谷ボーイズ)の対戦相手の監督さんが昴学園の存在を教えてくださって、杉山監督(千春/当時)に勧めてもらいました。練習の雰囲気がよくて、寮とグラウンドが近くて、野球に打ち込めると感じました。その時にちょうど『下剋上球児』のドラマを見て、自分のなかで昴学園に行くのが確定した感じです」
ドラマの影響は大きい。エース右腕の石川大介(おおすけ)は、東監督についてこう語る。
「ドラマで見た鈴木亮平さんみたいに、選手のことをしっかりと思ってくれる監督さんです。東先生に教えてもらったからこそ、自分たちはここまで上がってこられたと感じています」
【充実した指導スタッフ】
白山と昴学園の選手たちの共通点を聞くと、東監督はこう答えた。
「根本は自分に自信がないところ。ウチに入ってくるのは、中学時代に強豪の控えだった子か、弱小のレギュラーだった子。野球も勉強も自信がないけど、なんとか高校で頑張ろうという子が入ってきてくれます」
白山との大きな違いは、寮生活を通して育成できる点だろう。白山では2時間に1本しか列車が来ないローカル線・名松線で、約2時間かけて通学する選手もいた。
指導スタッフも充実している。東監督を支えるのは、72歳のベテラン指導者・冨山悦敬コーチ。かつて松阪商の監督として、2018年夏の三重大会決勝で白山に敗れた奇縁がある。
現在、県内有数の遊撃手として注目される和志武涼一(わしたけ・りょういち)は、四日市南ボーイズに所属した中学時代は控え内野手。昴学園に入寮して1週間で「学校をやめたい」と申し出る、目立たない選手だった。だが、冨山コーチが「こいつの守備はええよ」と東監督に進言したことから、一躍中心選手にのし上がった。
ほかにも投手指導に定評がある池田泰一朗(たいちろう)コーチなど、計7人の指導チームを組んでいる。東監督は「それぞれの個性を生かしてもらって、助けてもらっています」と語る。
今春の三重を制したとはいえ、チーム内に浮ついた様子はない。冨山コーチは呆れ気味にこうつぶやいた。
「優勝したといっても、地区予選を入れて8試合中7試合は負けていたかもしれない試合やったから。ちょっとは自信になるかと思ったけど、全然そんな様子がないね」
選手を代表して、主将の郁島も同調する。
「春は危ない試合ばかりでしたし、自分たちの力は全然ないですから。優勝して浮かれることはないです。夏は野手陣がもっと打って、投手陣を助けたいです」
【死のゾーンから目指す甲子園】
昴学園の躍進に、地域は大いに盛り上がっている。
「最初は横浜に帰りたい思いもあったんですけど、大台町の皆さんが『頑張れよ』と声をかけてくださって、元気づけられました。今は自分にとって特別な場所になりましたし、将来は大台町に住むのもいいなと思っているくらいです」
客観的に見れば、順調に階段を上がっているように感じられる。それでも、東監督は絶えず葛藤を抱えている。苦笑交じりに、こうこぼした。
「いや、もう常に『下剋上』がついて回りますよ。俺なんか『下剋上』って言ってもいないのに」
そもそも「下剋上」というフレーズは、2018年夏に甲子園出場した白山の主将・辻宏樹(現・相可高校監督)が発したものだった。
8年前の快挙にしても、東監督は「なぜ白山が甲子園に行けたのかわからない」と言い続けていた。昴学園でも甲子園に執着する理由は、「まぐれではなかった」と証明するためでもある。
自分に自信がなかった生徒が、野球をきっかけに社会で生き抜く力を養っていくこと。高校野球を通して地域が活性化すること。そういったやりがいはある。一方で、なかなか甲子園まで手が届かない現状に、もどかしさを覚えることも少なくない。東監督は「上を見たらキリがないんですけどね」と笑った。
そんな時、東監督の心の支えになる言葉がある。親交のある高嶋仁さん(元智辯和歌山監督)がサイン色紙にしたためた、この言葉だ。
「遂(と)げずばやまじ」
その心を東監督が説明する。
「一度決めたら、やり遂げるまでやめるなという意味です。この言葉を見ながら、いつも自問自答していますよ。やっぱり、コツコツ積み重ねていくしかないんかな」
今夏の三重大会、昴学園は激戦ブロックに組み込まれた。初戦(2回戦)の相手は宇治山田商で、昨夏に準々決勝で敗れた因縁がある。
それでも、この難関を乗り越えることに価値がある。高校野球界に燦然と輝く星団を目指して。昴学園の挑戦が始まろうとしている。










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