「ボールを落とさない」
そこでの粘り強さ、我慢強さこそ、日本女子バレーボールの真髄と言える。相手が音を上げるまで、拾い続ける。
7月12日、大阪。バレーボールネーションズリーグ(VNL)女子予選ラウンド第3週の日本ラウンド、日本がファイナルラウンド進出を決めたポーランド戦は、まさにそんな展開だった。長いラリーを制すると、「拾える」という希望の火が激しく燃え、セットカウント0-2からの大逆転劇を可能にした。まるで漫画のようなシナリオだった。
試合後の取材エリアで、守備専門であるリベロの福留慧美に愚問を投げた。――3セット目から逆転する漫画のような筋書きは、まさか用意していたものだったんですか?
彼女は朗らかに笑って答えた。
「いえ、本当は1セット目から行きたかったです(笑)」
リベロから見た逆転の風景とは?
日本代表はリベロを3人、メンバーに入れている。小島満菜美、福留の2人のほかに、登録上はアウトサイドヒッターながらリベロで起用される岩澤実育が加わり、3人でチームを組む。小島がレセプション(サーブレシーブ)、福留がディグ(スパイクレシーブ)、岩澤がリリーフレシーバーを担当するのが現時点では基本だが、その序列を巡っても切磋琢磨し、日本のディフェンスを支えている。
彼女たちのレシーブ力こそ、実は日本の土台だ。
この日、世界トップクラスのポーランドの高さ、パワーのあるスパイクに、日本のブロックディフェンスは綻びを生じさせていた。率直に言って、第1セット、第2セットは歯が立たないという印象だった。敗色濃厚と言ってもいいだろう。
「1、2セット目は、ブロックディフェンスで自分たちがやろうとしていたことが、うまくできなくて。カンチャン(ブロックとブロックの間)や真下に打たれたり......」
福留はそう振り返りながら、変化について明かしている。
【「相手のストレスにつながった」】
「3セット目からは、ブロックディフェンスで狙う(止める)場所を変えました。それに1、2セット目は、拾えてもうまく攻撃につながっていなかったので、1、2本目のパスの精度をもっと上げて、『気持ちよく打てる場面を作ろう』って。その分、無理なときにはラリーに持ち込んでもらって、『自分たちがいい展開に持ち込めるラリーをしよう』と話したのもうまくいった理由かなって」
ポーランドのエースは長身で強力だったが、この"持久戦"により3セット目以降は打ち急ぐ機会が多くなっていった。日本とは逆に、長いラリーが嫌なのだろう。どんどん術中にはまっていった。
「相手のエースのストレスにつながっていたでしょうね」
福留は不敵に、少し声を弾ませて言う。
「(エースに)1個目をわざと取らせてプレッシャーをかけて、"早く決めたい"ってところでミスも出たんだと思います。
そしてリベロの仕事は、ディグやレセプション、ブロックフォローだけではない。チームを活性化させる役目を担う。後方から仲間たちを見つめる特別なポジションだけに、士気を高め、不安を落ち着かせる。ひとりだけ違うユニフォームを纏った選手だからこその"導き"を生み出せるのだ。
福留はコート上での空気を機敏に感じながら、逆転の契機を探していた。
「小島さんとも話して、『(得点が)決まんないから、みんなコートの中で静かになってる』って。やっぱり、ひとりひとりが考え過ぎてしまっていたんです。だからコート上で静かにならないように、『なんでもいいから、得点が決まったら大きく喜ぼう!』と話して、自分だけじゃなく、みんながコート上の声をなくさないようにしようって」
3セット目は、背水の陣まで追い込まれたことで、チームは決意を固めた。
同じくリベロの岩澤も、フォア・ザ・チームに徹していた。タイムアウトのたび、岩澤は全身全霊で仲間たちを迎えて、叱咤激励を飛ばし続けた。彼女自身、そうやって試合と接続できていたからこそ、リリーフサーバー(リリーフレシーバー)として3セット目のセットポイント奪取に貢献し、逆転の狼煙を上げることができたのだ。
岩澤は言葉に熱を込めて言う。
「タイムアウトを取るときは、基本的に"流れが悪い、流れを切りたい"という時なので、そこでコートに立っている選手たちがちょっと強張っているところを、ちょっとでもほぐせたらなって思って、ハイタッチに行っているんですけどね。正直、意味があるかはわからないですけど、そのときに選手たちと目が合っていたんで"大丈夫"って思いました」
小島、福留、岩澤は三位一体のごとく、拝みたくなるような守護神になっていた。彼女たちは1点も得点を入れていない。しかし、敵には連続する悪夢に見えたはずだ。
岩澤は逆転の筋書きをこう解析した。
「日本は、忍耐強く戦う力はあると思うので、フルセットになった時にポーランドのほうにミスが増えてきたと思います。うまくいかない時も我慢して戦えました。それをバレーの神様が見て、後押ししてくれたのかなと思います」
日本の牙城は落ちなかった。それが極上の劇場性を生み出したのだ。



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