【低迷するチームの明るい材料】

「おまえも歌えよ!」

 音楽が大音量で流れていたトロント・ブルージェイズの打撃ケージから、チームリーダーのジョージ・スプリンガーが叫ぶ声が聞こえてきた。その声の先では、岡本和真が苦笑いしている。そんな光景もまた、岡本が加入1年目でチームにしっかりと馴染んだことを象徴しているのかもしれない。

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 8月1日(現地時間。以下同)のセントルイス・カージナルス戦を終えた時点で、岡本は打率.228、24本塁打、69打点をマーク。打率こそやや低いものの、本塁打、打点、得点でチーム1位。規定打席到達者のなかでは長打率、OPSも同1位という優れた成績を残してきた。

 守備でも主に三塁を守り、及第点の動きを継続してきた。開幕前の大方の予想に反して低迷しているブルージェイズのなかで、岡本のプレーは数少ない明るい材料であり、オールスターゲームに選ばれなかったのが不思議なくらいだった。

「(打てて)よかったなと思います。(安打が)出ない時期もあったので。こういう形でまたいい打撃ができるようにやっていきたいです」

 3安打2打点2得点と活躍し、チームの勝利に貢献した7月29日のワシントン・ナショナルズ戦のあと、岡本はそう述べた。実際に、ここまですべてが順風満帆だったわけではない。

 オールスター以降は7試合連続で無安打という期間もあったように、好不調の波が激しい印象があるのは事実。メジャー入りの際はコンタクト技術(バットに当てるうまさ)が喧伝されていただけに、ここまで合計135三振、三振率30.7%という数字は誤算と言えるのかもしれない。

逆に空振り、三振の数を減らすことができれば、現在.305という出塁率をより上げていくことも可能だろう。

 ただ、それらのマイナスな材料を差し引いても、岡本のメジャー1年目がポジティブに捉えられるべきであることに変わりはない。何より大きいのは、事前に想定されたとおり、いや、それ以上のパワーを発揮していることだ。

 7月24日のボストン・レッドソックス戦で23号本塁打を放ち、2018年に大谷翔平が記録した22本という「日本人野手のルーキー本塁打記録」を更新。28日には24号を打って、2002年のエリック・ヒンスキーに並ぶブルージェイズの新人タイ記録を樹立した。

 今季のブルージェイズは主砲ウラジーミル・ゲレロJr.が6本塁打にとどまっているのが響き、チーム本塁打が合計107本とパワー不足に苦しんでいる。そんななかで、チームの全本塁打のうちの約22%を放ってきた日本人ルーキーが、貴重な存在になっていることは間違いない。

【チーム内で岡本Tシャツが大人気】

 シカゴ・ホワイトソックスの主砲の座を確立した村上宗隆も本塁打を量産しているが、最近では交互にそれぞれのファンを沸かせている印象がある。

「ムネ(村上)のほうがすごい打つんで、僕もちょっとでも頑張れるように、打てるように頑張りたいと思います」

 謙虚な岡本はそう話したが、1年目から活躍するふたりはア・リーグ新人王候補のライバルになる可能性もある。それと同時に、岡本、村上が開幕前の予想を上回る数字を残してきたことで、日本人野手の評価を引き上げることにもなっただろう。

 充実した1年目を過ごすなかで、冒頭のスプリンガーとのエピソードからもわかるとおり、岡本はチームのムードメーカー的な存在にもなっている印象がある。

 7月20日、岡本Tシャツがファンに配られた本拠地でのタンパベイ・レイズ戦でのこと。この日の試合前、ゲレロJr.、アーニー・クレメント、スプリンガーといった多くのチームメイトがこのシャツを着用して練習をこなした。

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岡本Tシャツを着る、ブルージェイズのブランドン・バレンズエラ photo by Daisuke Sugiura

 今季のオールスターに出場した看板選手のクレメントは、「気に入っているよ!」と笑顔。チームメイト、スタッフの9割くらいが岡本Tシャツを着ている姿からも、その愛されぶりが伝わってくるようだった。

 27日のナショナルズ戦で岡本がメジャー初盗塁を決めた際も、ブルージェイズのベンチは大喜びだった。翌日のゲームでは、岡本が一塁にいる際にベンチのミスで盗塁サインが出てしまい、決して俊足とはいえない背番号7は二塁憤死。だが、試合は勝利したこともあって、ジョン・シュナイダー監督は岡本の連日の走塁パフォーマンスに笑顔を抑えきれなかった。

「ちょっとしたコミュニケーションミス。カズ(岡本)にグリーンライト(自由にスタートを切る権限)を与えているわけじゃない(笑)。まだ盗塁はひとつだからね。一気に増やすんじゃなくて、段階を踏んでやっていこうという感じだ(笑)」

【岡本の獲得は成功だった】

 これほどチームに溶け込めているのは、やはりフィールド上でいい結果を出しているからだろう。もちろん数字がよければ、異国の地でも認められるのも早くなる。同時に、巨人の4番を打ったほどのスター選手ながら、まったく気取ることもなく、ユーモアに溢れたキャラクターが好感を持たれているのかもしれない。

 シュナイダー監督は岡本についてこう語る。

「ファンはカズのことが好きだし、もちろんチームメイトも彼のことが大好きだよ。彼が周囲から愛され、評価されているのを見るのは本当にいいことだ。スプリングトレーニングのかなり早い段階で、カズはチームにすっかり溶け込んでいた。そして、この1カ月くらいは、彼のユーモアのある一面というか、面白いキャラクターがいろいろな場面で見えてくるようになった」

 残念なのは、昨季、世界一まであと一歩まで迫ったブルージェイズが、今季はア・リーグ東地区の最下位に低迷していること。勝ち越しているチームが少ないア・リーグのレベル低下を考慮に入れても、多くの誤算があったブルージェイズがここから快進撃を見せるとは考えにくい。

 それでも、スポーツネット局のベン・ニコルソン・スミス記者は「今ではチーム関係者の誰もが、岡本の獲得は成功だったと認めている」と述べる。

「岡本が乗り越えなければならなかった環境の変化や調整を考慮すれば、そのなかでこれだけの成績を残してきたのは見事だ。チーム首脳陣も彼と契約できたことを非常に喜んでいるし、(4年契約の)残りの期間で、さらに成長を続けてくれることを楽しみにしているはずだ」

 岡本がチームに早くフィットしただけに、来年以降も含めた活躍に期待しているファンは多いだろう。その期待度をさらに高めるためにも、シーズンをいい形で締めくくってほしいところだ。

 これまでどおりに気取らず、自然体でプレーすれば、30本以上の本塁打を放つこともできるはず。そして、チームの低迷に落胆している"トロントニアン"に束の間の喜びを供給することができるはずだ。

杉浦大介●取材・文 text by Daisuke Sugiura

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