【35歳で主要国際大会に初出場】

 まさかこの場所に自分が立っているなど、想像もしなかった。

 8月21日に開幕する女子バレーアジア選手権。優勝すれば2年後のロサンゼルス五輪の出場権を獲得する大一番に臨むメンバーに、35歳のセッター、栄絵里香が名を連ねた。

【女子バレー】35歳・栄絵里香、日本代表で初の大舞台へ アジ...の画像はこちら >>

 過去をたどれば2012年に日本代表に選出され、B代表としてアジアカップに出場したことはある。だが、当時は今のようにA代表とB代表が連携していたわけではなく、その年のロンドン五輪で銅メダルを獲得した日本代表と一緒に練習する機会もなかった。

 ネーションズリーグをはじめとする主要国際大会で、日本代表として出場するのはこれが初めて。今年の代表が発足して間もない5月、キックオフ会見の時に「自分ができることを、できる限りやり続けたい」と語った栄は、ネーションズリーグで出場機会を増やし、五輪をかけた戦いに臨もうとしている。

「ネーションズリーグは自分にとって初めての国際大会で、チームを勝たせることよりも、まずは自分がメンバーに残るための勝負が毎週ある。そのなかで自分がどれだけチームに貢献できるのか、チームを勝たせるために何をしなければならないのか、少しずつ目を向けられるところが増えていきました。

 その繰り返しのなかで今回、大事なアジア選手権に臨む14人のメンバーに残ったことに、責任もプレッシャーも感じます。勝たなきゃいけない、というのが一番のなかで、自分ができる最大限の準備をすること。この短い期間で何かの技術が急に伸びることはないので、精度を高めて、最大限にいいコンディションで臨む。『やれることはやって、絶対に勝ちたい』という気持ちです」

【高校時代にVリーグのチームも撃破】

 経験が武器となるセッターというポジションで、30代半ばにして日本代表にたどり着いた。所属するSAGA久光スプリングスでは主将を務め、若い選手が増えるなか、頼れるベテランとして存在感を発揮している。ただ、栄がこれまで歩んできた道のりをたどれば、決して大げさではなく、今の年齢になるまで現役を続け、しかも日本代表に選ばれるなど想像すらできなかった。

 なぜなら、彼女は"遅咲き"ではなく、むしろその逆。

"早咲き"のエリートだったからだ。

 初めて栄のことを取材したのは、彼女が東九州龍谷高校1年生の時だ。赤と白のユニフォームで、速いトスからのコンビバレーを武器とするチームでは、セッターはまさに生命線。栄は寸分違わぬタイミングとスピードで機械のようにトスを上げ続け、春高バレーを制した。

 さらに3年時には、高校生だけでなくVリーグチームを含めたすべてのカテゴリーが出場して日本一を争う皇后杯で、NEC(現・NECレッドロケッツ川崎)、パイオニアといった格上のチームを撃破し、準決勝進出を果たした。

 準決勝では久光製薬(現・SAGA久光)に敗れ、のちにVリーグでもチームメイトとしてプレーしたエースの長岡望悠と涙を流した。試合後、負けた悔しさよりもそこまで戦いきれた感謝や喜びを語り、ポツリと発した言葉を今でも覚えている。

「神様が、この舞台に立たせてくれたのかな、と思います」

 高校バレー界を席巻したセッターが、この先どんな道を歩むのか。期待は膨らんだ。

 速いトスを得意とする栄は、高校卒業後の2010年にデンソーに入団し、2015年に久光に移籍。ラリー中や少し離れた位置からもミドルを使い、ライト側を得意とするトスワークは強みである一方、レフト側へのトスは苦手で、なかなか出場機会を得られない時期も続いた。「もしかしたらこのまま辞めてしまうのではないか」と思うことが何度もあった。

【久光をリーグ制覇に導いたトスの変化】

 だが栄は現役を続け、シーズンを重ねるごとに安定感を増していく。久光で確かな変化を感じたのは、SVリーグを制した昨シーズンのプレーを見た時だ。以前は試合の中盤以降やラリーが続いた場面で、レフト側へのトスが低くなっていたのが、高さをキープできていたのだ。それを若いアタッカーたちが、クロス、ストレートと高い打点から好きなように打ち分けていた。

 積み重ねてきた技術練習の成果はもちろんだが、何がきっかけでそこまで変わったのか。尋ねると、栄は笑いながら言った。

「今の若い子たちって、トスに対しても遠慮なく言ってくるんですよ。『絵里香さん、もうちょっと上げてください』なんて全然いいほうで、練習の時も普通に『低い!』とか言われる(笑)。ムカっとすることもありますけど、言ってもらえるのはありがたいこと。私も成長させてもらっているんです」

 年齢や経験にひるむことなく、栄だから言える――。そう話すのは、昨シーズンの久光の優勝に貢献し、栄とともにアジア選手権に出場する北窓絢音だ。

「絵里香さんは修正力がすごく高いので、こっちの打ち方で『トスが低かった』というのもわかってくれる。

私が『低いです』と言った時も『そうだよね』と受け入れてくれるんです。だからアタッカー側はすごく言いやすいし、(昨シーズンに)あれだけやれたのは絵里香さんのおかげでもあると思っています」

 これまで積み上げてきた経験に、また新たな経験が重なり、厚みを増していく。勝つ喜びだけでなく、負ける悔しさも何度も味わってきたが、ネーションズリーグでの敗戦は、
また違った新たな刺激と、次へと向かう活力になった。

「今シーズンの一番の目標は、アジア選手権でオリンピックの切符を取ること。でも、ネーションズリーグでメダルを獲ることも目標ではあったので、そこに届かなかった(準々決勝で敗退)ことで個人的に足りないことがたくさんあったと気づかされました。コンビの精度を上げて、もっとこの攻撃の決定率を上げたい、この攻撃を使いたいとか、スタッフからも提示されるなかでいろんなことが見えてきました。

 ここからは、どれだけ自信を持って試合に臨むことができるかどうかだと思います。世界と戦うにはもう一段階上げていかなきゃいけない、と私も含めてみんなが感じたので、次勝つためにどうするか。それぞれがチャレンジしながら、これからもトライし続けていきたいです」

 さまざまな経験を重ねた今、五輪という大きな夢につながる挑戦権を得た。

 人はいつだって成長できる。あきらめなくてよかった、と心からの笑顔を携えて。

 自分を信じて、仲間を信じて。

栄絵里香はアジア選手権のコートに立つ。そこで得た新たな刺激と経験が、さらなる成長につながる力になるはずだ。

田中夕子●取材・文 text by Yuko Tanaka

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