中国・天津で行なわれているバレーボール女子アジア選手権は佳境に入っているが、日本は決勝に駒を進めることができず、3位決定戦に回ることになった。

 その予選ラウンド、8月30日時点で世界ランキング6位の日本は同124位の香港、28位の韓国、32位のベトナムに対し、それぞれセットカウント3-0とストレートで3連勝。

予選全体2位で決勝ラウンドへ進出した。準々決勝は37位の台湾に、和田由紀子がチーム最多の19得点を挙げるなど3-0で完勝。スコアだけを見れば、鎧袖一触(がいしゅういっしょく)だった。

「決勝で中国にどう戦うか?」

 焦点はそこに絞られてきていた。

 ところが準決勝に落とし穴があった。2023年のアジア選手権で優勝するなど最近になって力をつけてきた17位のタイに苦戦。1、2セットをたて続けに奪われると、巻き返しも及ばず、セットカウント1-3で一敗地にまみれることになった。それは同時に、アジア女王としてロス五輪出場権を獲得することができなかったことを意味していた。

【女子バレー】和田由紀子の涙が象徴する一丸となっての戦い そ...の画像はこちら >>
「サーブが走っていなかった」
「2本目のパス(トス)の精度や多様性(ミドルだけでなく、バックアタックなどの立体的な攻撃)を欠いた」
「交代策が後手に回った」

 局面的にはそれらが敗因として語られている。しかしながら、日本はこれまでタイを苦手とせず、最近もネーションズリーグなどで勝利を重ねていた。なぜ、その相手に道を断たれたのだろうか?

 その検証は、これから日本が再起し、ロス五輪に出場してメダルを勝ち取るために必要なことかもしれない。

「何回もトスを託してもらったのに決められなくて、セッターを苦しめてしまった」

 タイに敗れたあと、そう言って涙をあふれさせた和田由紀子の姿は、あまりに象徴的だった。

ロス五輪出場権獲得にすべてをかけてきた月日が、その一歩手前で容赦なくリセットされる。それがどれほどの無念か。選手たちが大会を通じ、他者の責任にせず一丸となって戦っていたのは間違いない。

 ただ、勝負に対するアプローチで見た場合、不安も抱えていた。最たるものは、試合の入り方の鈍さだった。

【スロースターターの印象】

 アジア選手権ではランキング的に格下との試合が続いたが、第1セットに苦戦を強いられている。韓国にはセットを奪うも、33-31とデュースに持ち込まれていたし、ベトナム戦の第1セットも25-23で取ったが、やはり出足が悪かった。それはバレーボールネーションズリーグ(VNL)の予選ラウンドでは顕著で、フランス、セルビア、イタリア、ブラジル、トルコ、ポーランドなどもことごとく第1セットを奪われていた。

 どこかスロースターターのような印象に映った。それもチームの特色かもしれないが、「成功体験が助長させた」という仮説は成り立たないか。VNLの日本ラウンド、日本がファイナルラウンド進出を決めたポーランド戦は、それほどに劇的だった。

 日本は、長身エースを中心にした世界5位のポーランドの強打に苦しみ、一時はセットカウント0-2と絶体絶命にまで追い込まれていた。

しかし、ここから反転攻勢に出る。諦めないディフェンスで拾い続けてラリーに持ち込んだ。その連続に光明を見出すと、和田の爆発もあって、最後は3-2と大逆転劇を成し遂げたのである。

 まるでヒーロー漫画のクライマックスのようだった。現場で取材しながら、その展開には感動を覚えた。それを実現できるのが彼女たちの実力なのだ。

 ポーランドのスパイカーたちはアタックを決めながらも、何度も食らいついてくる日本のディフェンスを明らかに嫌がっていた。その証拠に、3セット目以降は次第に打ち急ぐ機会が多くなっていった。一撃で決めようとして、日本の術中にはまっていったのだ。

「相手のエースのストレスにつながっていたでしょうね」

 ポーランド戦後、リベロの福留慧美はそう言って、少し声を弾ませていた。

「(エースに)1個目をわざと取らせてプレッシャーをかけていました。"早く決めたい"ってところでミスも出てきたんだと思います。

そこはまさに日本らしいバレーで、たとえ点数にならなくても(ボールを)上げていると、相手も『次は拾われるかも』と迷うし、それで他の選手がブロックしたり、拾ったり、にもつながるので」

 粘り強いディフェンスで、相手の心を消耗させる。じっくりと攻めながら、戦機をうかがう。そして、多彩な攻撃を誇るアタッカーが希望を砕く。そのサイクルこそ、日本の勝ち筋と言えるだろう。

 しかし皮肉にも、勝利のパターンを見つけたからこそ、隙が出たのではないか。

 日本の選手たちがタイを侮ったとは思えない。しかし、ほとんどの日本のファンやメディアが「中国との決戦」にフォーカスしていたのは確かだ。日本戦に乾坤一擲で挑んできたタイと比べると、コートに立つ選手だけでなく、日本全体に油断があったのかもしれない。それが勝負のなかで動揺を増幅させ、浮足立ち、取り戻せないほどのミスを積み上げてしまったのではないか。

 日本は実はアタック数だけではポイントでタイを上回っている。一方、ミスによる失点は28点と多く、これはタイのミスによる失点の倍だった。やはり、自滅した形だ。

 8月30日、日本はイランとの3位決定戦に挑む。ロス五輪への道が閉ざされたわけではない(各大陸女王のほか、すでに出場を決めている国を除いて2027年のワールドカップでの上位3チーム、2028年のネーションズリーグ予選ラウンド終了時の世界ランキング上位3チームが出場権を獲得)。敗北を糧に、再起をかけた一戦になるはずだ。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

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