髙阪剛が語る朝倉未来vs青木真也 前編

 9月10日、京セラドーム大阪で開催される『超RIZIN.5』で、朝倉未来と青木真也が激突する。

 RIZINでスターへの階段を駆け上がった朝倉。

一方で寝技を武器に、修斗、PRIDE、DREAM、ONE Championshipで闘ってきた青木。異なる時代の象徴的な2人が交わる一戦を、RIZINで解説を務める髙阪氏が分析する。その前編では、高い技術の寝技を武器に海外選手と渡り合った"世界のTK"から見た、「異次元」な青木の寝技について聞いた。

【RIZIN】青木真也の寝技はなぜ「異次元」なのか、"世界の...の画像はこちら >>

【青木が考え続けてきたMMAでの勝ち方】

――このカードが発表された時、どう思われましたか?

「今となっては"オールドスクール"と呼ばれる青木と、最新型MMAの申し子とも言える未来。その2人が対峙するコントラストが、すごく面白いなと思いました」

――青木選手は、長くMMAのトップ戦線で闘ってきました。

「青木はずっと『どうやったらMMAで勝ちに結びつけられるのか』ということを考え続けてきた選手だと思います。そのなかで、自分が得意とする"極め"の部分にどう持っていくのか。組みつくためには距離を縮めなければいけないので、ムエタイの技術を取り入れたり、蹴りやヒジ、ヒザを使ったりしてきた。時には、そうした攻撃を相手に『まずい』と思わせて、向こうから組ませることもできる。自分のテリトリーに入れて仕留めることをずっと模索してきたんだと思います」

――初期の青木選手とはどのあたりが変わりましたか?

「修斗時代の青木は、とにかく組みに特化した試合が多かった。でもPRIDE武士道からDREAMと闘っていくなかで、"組んで極める"まで持っていくには、打撃の技術もしっかり身につけなければいけないことを感じたんでしょう。そうやって、自分のMMAに広がりを持たせていったんだと思います」

――朝倉選手は昨年7月のクレベル・コイケ選手との再戦で、寝技を凌いでいた印象があります。

「青木の寝技は、クレベルとはちょっと種類が違うんですよ。

もちろん、クレベルの寝技はものすごく強いです。ただ、きれいな柔術というか、本人のなかにあるセオリー、順序を経て最後の極めに到達するシステムがあると思うんです。でも青木の場合は、相手に触った感覚で『この相手は何をされたら嫌なのか』というところから発動する。そこがまず違うと思いますね。

 自分も昔、キャッチレスリングを練習に取り入れていたんですけど、単に相手の腕を握るのではなくて、嫌なところを握る。痛いところに指やヒジを置く。そうすると、相手は嫌がって反応しますよね。その反応をあらかじめ予測しておけば、動いた瞬間に首に手を回したり、足首、ヒジ、肩を取りにいったりできる。相手のウィークポイントを自分から引き出す、という考え方がキャッチレスリングにはあるんです」

【青木とクレベルの寝技の違い】

――青木選手の寝技も、それに近いものがある?

「そうですね。最後の極めはバックチョークだったり、三角絞めだったり、足関節だったり、いろいろあります。でも、そこまでの過程が、いわゆる一般的な柔術やグラップリングとは少し違う。自分たち50代、60代くらいの世代が、なんとかして手に入れようとしていた感覚を、青木はおそらく持っているんです。『どうすれば相手が嫌なのか』を理解して、それを駆使して最終的に極めまで持っていく。

プロセスがまったく異なると思いますね」

――より柔術らしい手順を踏んでいくのが、クレベル選手ということですね。

「ただ、同じボンサイ柔術所属でもサトシ(ホベルト・サトシ・ソウザ)とも違います。クレベルはゴールに向かってひとつずつ詰めて、そこに到達する。サトシは途中の過程を飛ばして、一気にいけるような強みがある。一方で青木の場合は、相手に触った時点では、まだゴール自体が決まっていないと思いますね」

――青木選手の教則動画『サブミッションレスリング』を見ると、関節のどこを握るのか、腕や足をどういう角度で使うのかなど、ものすごく細かいところまで言語化されています。それを試合中、警戒している相手に対して一瞬でやってのける場面を何度も目にしてきました。

「青木は、ほんの少しの握り方の違い、身体のどこを押さえるのか、といったことをすごく細かく理解している。しかも、自分の感覚だけでやっているのではなく、ちゃんと言語化できるところまで昇華しているんです。言語化できるということは、自分が何をやろうとしているのかを客観的に理解できているということ。だから今の青木の寝技は、本当に成熟しきっている状態だと思いますね」

【なぜ青木の寝技は"異次元"なのか】

――青木選手の下で練習している秋元強真選手は、クレベル選手との試合を経験したうえで、青木選手の寝技を「化け物」と表現しています。また、矢地祐介選手も「(青木選手は)寝技、グラップリングのメーターが突き抜けている」と話していました。実際に組んだ選手たちがそこまで圧倒される"極め"は何が特別なのでしょうか?

「やはり触られた瞬間、自分でも何をされているのかわからないまま極められてしまう、という感覚なんじゃないですかね。普通にプロセスを踏んでいく寝技なら、仮に相手にアドバンテージを取られても、『今、自分はこういうことをされたんだな』と理解できるんです。

たとえ最後に極められたとしても、ある程度は腑に落ちる。

 でも青木の場合は、『なんで俺は今こうなっているんだ?』という状態になる。だから、やられた側は腑に落ちない。その感覚が『化け物』『異次元』という言葉になるんだと思います」

――青木選手と実際に組んだ選手からは、「力が入らない」「身体をうまくコントロールされてしまう」、という話も聞きます。

「身体のポイントをよく知っているんだと思います。例えばヒジの関節ひとつ取っても、あるポイントを押さえられると、途端に動かせる方向が限定される場所があるんです。そこを押さえながら腕を回されると、そのままキムラロックの形に持っていかれるとか。そういう身体が自由に動かなくなるポイントを、いろいろな関節や部位で理解しているんだと思いますね。

 昔、自分は『青木の寝技は打撃だ』と言ったことがあるんです。形としてはバックチョークでも、その前に足首をフックして相手の動きを制限したり、(相手を)嫌がらせる動きを入れている。それが打撃でいうジャブなんですよ。ジャブで隙を作って、最後は一瞬で深く手を入れてズドンと極める。

だから見ている人には、後ろ手のストレート一発で倒したように見えるし、やられた側は『何が起きたかわからない』んです」

【朝倉はどう対応するのがベストか】

――朝倉選手側からすると、青木選手に「触らせない」ことが大前提になりますか?

「そうだと思います。未来サイドに立って考えれば、『触らせたらダメ』というのは大前提だと思うんですよね。触らせないうえで、こっちは打撃を当てる。そうやって青木をジリ貧にさせて、『じゃあどうしよう』という状態に持っていく。未来サイドはそれが理想だと思います」

――5分3ラウンドを、ずっと触らせずに闘うのは簡単なことではないのでは?

「それでも、どこかでは強い攻撃を出さないといけない。青木の脳内のコンピューターが働いている状態では、未来もずっと気が抜けないでしょう。だから、そのコンピューターをどの段階でシャットダウンできるかが、大きなポイントになると思います」

――シャットダウンというのは、やはり打撃で大きなダメージを与えることでしょうか。

「そうですね。言葉どおり、脳震盪を起こさせるような攻撃です。それをどのタイミングで、どの技術でやるのか。そこがカギになると思います」

――今回の試合はリングで行なわれますが、どう影響しますか?

「リングという形状自体が、勝負を決めるファクターになるかもしれません。ケージだと、押し込んでも相手にサイドステップで横へ動かれる可能性があるんです。

ケージも多少たわみますけど、どちらかといえば壁に近いので、横へ動かれると組みを切られてしまう。

 青木がONEで敗れた試合でも、結果的にそういう動きをされてしまったケースがあったと思います。でも、リングにはコーナーがある。もし未来をコーナーに釘づけにすることができれば、青木のコントロール力はより高くなる可能性がありますね。

 コーナーポストは少し柔らかいので、押し込まれると身体がちょっと奥に入るんですよ。そうすると横にも逃げにくくなる。そこは今回、ポイントのひとつになると思いますよ」

【プロフィール】

■髙阪剛(こうさか・つよし)

学生時代は柔道で実績を残し、リングスに入団。リングスでの活躍を機にアメリカに活動の拠点を移し、UFCに参戦を果たす。リングス活動休止後はDEEP、パンクラス、PRIDE、RIZINで世界の強豪たちと鎬を削ってきた。格闘技界随一の理論派として知られ、現役時代から解説・テレビ出演など様々なメディアでも活躍。丁寧な指導と技術・知識量に定評があり、多くのファイターたちを指導してきた。またその活動の幅は格闘技の枠を超え、2006年から東京糸井重里事務所にて体操・ストレッチの指導を行っている。

2012年からはラグビー日本代表のスポットコーチに就任。現在は、RIZINで活躍する堀江圭功選手や上田幹雄選手らを指導している。

篠﨑貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro

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