「そもそも想定すらされていない存在」“立候補NG”の20代若者6人による違憲訴訟…一審判決「年齢=社会経験」に控訴審で“異議”申し立て
公職の選挙に立候補できる年齢を参議院議員と都道府県知事について「30歳以上」、衆議院議員と地方議員などについて「25歳以上」と定める公職選挙法の規定は憲法に違反するとして、20代の若者ら6人が国に損害賠償などを求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が、6月22日に東京高裁で開かれた。
原告6人は2023年の統一地方選挙の際、年齢要件を満たさないとして立候補の届け出が受理されなかった。
これをきっかけに提訴した一審で、東京地裁は2025年10月24日に請求を全面的に退ける判決を言い渡したため、原告側が控訴していた。
訴訟では、現行の年齢制限が、憲法15条が保障する「成年者による普通選挙」や、44条が禁じる「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入」による差別などに違反するかどうかが主な争点となっている。

控訴審の最大の争点「被選挙権は誰に保障されているのか」

原告代理人の戸田善恭(よしたか)弁護士は、口頭弁論期日後の記者会見で、控訴審の最大のポイントは、「憲法が保障する被選挙権が、誰に保障されているのかを問い直すこと」であると語った。
「被選挙権が誰に保障されているかは法律が定めることではない、あくまで憲法によって決まるのだということを、改めて強調していこうと考えており、その点が控訴審での一番のポイントになる」
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戸田善恭(よしたか)弁護士(22日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

憲法は選挙権に関しては15条1項と3項に明文の規定を置いているが、被選挙権については明文がない。しかし、判例(最高裁昭和43年(1968年)12月8日判決)は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあることなどを理由として、憲法15条1項で保障される基本的人権であると明確に判示している。
そして、原告側は、被選挙権は憲法によって国民に保障されているものであり、公職選挙法の年齢要件はその憲法上の権利を制約するものだと主張している。

一審判決「社会経験の多少は年齢と比例関係にある」

一審判決(東京地裁令和7年(2025年)10月24日判決)は、被選挙権を「憲法上保障される重要な権利」と認めつつも、それが本件の原告らに具体的に保障されているかについては明確に判断せず、誰が権利主体になるかも含めて法律で定めることができる「立法裁量の問題」であるとの立場を示し、原告らの請求を棄却した。
被選挙権は選挙権とは異なり、①憲法に明記された主権者の権能である公務員の選定罷免権の一内容とはいえないこと、②資格が与えられる者の範囲について明示的な規定がないこと、③当選後には一定期間の公的職務への従事が想定されることなどから、「憲法上の保障について選挙権と被選挙権とを同一視することはできない」とした。
そして、年齢制限の合理性については、「地方議員及び都道府県知事は、その職責や権限からすれば、相当の知識や豊富な経験が要求されるのであり、その資格として、社会経験に基づく思慮と分別に着目することは不合理とはいえない」と指摘。さらに「一般的には、社会経験の多少は年齢と比例関係にあるといえる」として、被選挙権年齢を選挙権年齢よりも高く設定することには合理性があると結論付けた。
原告側が主張した「治者と被治者の自同性」や「普通選挙制度」といった憲法上の原則についても、「選挙権年齢と被選挙権年齢との一致を原則とするものであるということはできない」などとして退けている。
戸田弁護士は今回の口頭弁論期日において、一審判決について「控訴人らにこの権利があるのかという問いに正面から答えていない」と批判。本件は複雑な政策判断を必要とせず、個人の基本的人権が直接的に制約されている事案であり、裁判所は憲法適合性を厳格に審査すべきだと主張した。

当事者ら「裁判所は『立法裁量』に逃げるな」

今回の口頭弁論期日では、原告6人全員が意見陳述に立ち、一審判決への違和感や、年齢によって政治参加の機会を奪われている現状への思いを訴えた。
長崎の被爆地で育った中村涼香(すずか)さんは、国会議員に「若者に何が分かるんだ」と言われた経験に触れ、「自分がこの社会の“対等な構成員”として扱われていないことを、はっきりと感じました」と陳述。
裁判の争点は単なる年齢の問題ではなく、「若者を、主権者として本当に扱うのか。『国民』とは誰なのか。そのことが問われている」と訴えた。
「そもそも想定すらされていない存在」“立候補NG”の20代若者6人による違憲訴訟…一審判決「年齢=社会経験」に控訴審で“異議”申し立て

中村涼香さん(22日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

久保遼(はるか)さんは、2023年の統一地方選で、自身の立候補届が不受理となった結果、選挙区が無投票になった経験を語った。
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久保遼さん(22日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

「政治家に相応しいかどうかを判断するためにあるのが選挙です。私は年齢だけを理由に立候補できず、その結果として選挙自体が行われませんでした。これは、有権者が候補者を判断し、選ぶ機会が制度によって失われたということです」と、制度の矛盾を指摘した。
記者会見では、「立法裁量に任されてしまうと、僕たちはその権利を得るための権利すらない状態。少数者の権利を守るという裁判所の役割はどこに行ってしまったのか」と、一審判決への不満を述べた。
環境問題に取り組んできた中村涼夏(すずか)さんは、「若者の声を届けることができたとしても、それを実際の政策に反映させることがいかに難しいかを、身をもって感じてきた」と語る。
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中村涼夏さん(22日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

2040年に向けたエネルギー政策が既に決定されたことに触れ、「政治に参加できなかった時間の重みを感じています」と述べ、失われた時間も考慮した司法判断を求めた。
吉住海斗さんは、両親から、身体的・精神的な虐待を受けて育ち児童養護施設での生活を経て、22歳のときに施設の環境改善のための会社を立ち上げた。
24歳で立候補を決意したきっかけは、施設での暮らしから10年が経ち、当時の感覚が鈍くなり、「このままでは、自分の声は、届ける前に消えてしまう」と思ったからであるという。
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吉住海斗さん(22日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

「ファーストキャリアとして政治家を選ぶ道が、年齢だけを理由に、初めから閉ざされ、届く前に消えてしまう声がある」と訴えた。また、裁判官に対し「社会のルールを変えることが、たやすいとは思っていません。それでも、どこかの時代で、誰かが変えなければなりません。その『誰か』に、どうか、なってください」と呼びかけた。
Chico.さんは、環境問題、外交問題、選択的夫婦別姓や同性婚の法整備、若者の貧困や孤立・生きづらさの問題を挙げ、「すべて、私たちの『今日』の問題であり、私たちは、今すぐ声を上げる権利が必要です」と訴える。
「そもそも想定すらされていない存在」“立候補NG”の20代若者6人による違憲訴訟…一審判決「年齢=社会経験」に控訴審で“異議”申し立て

Chico.さん(22日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

立候補届を提出しようとした際の法務局の職員の対応に、「『そもそも想定すらされていない存在』なのだと突きつけられた気持ちでした」と振り返った。そして、「この国の民主主義の土台である『国民として未来を語る権利』を、この国は年齢という記号だけでその権利を剥奪している。これを『重大な権利侵害』と呼ばずして、一体何と呼ぶのか」と問いかけた。
能條(のうじょう)桃子さんは、かつて女性に参政権がなく、選挙粛正運動の中で「家庭内における女性の内助」が説かれた歴史と、現代の若者が置かれている立場を重ね合わせた。
「そもそも想定すらされていない存在」“立候補NG”の20代若者6人による違憲訴訟…一審判決「年齢=社会経験」に控訴審で“異議”申し立て

能條桃子さん(22日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

「『若者にもっと政治に関心を持ってほしい』と言いながら、同時に立候補年齢引き下げができない言い訳を重ねる政治家の話に苦い気持ちを抱きます」と述べた。そして、被選挙権年齢に関する議論は、若者の権利の回復と同時に、国民主権の問題であることを強調し、「東京高裁では、『立法府の裁量』と逃げずに、裁判所で、憲法の理念に照らした議論がなされ、立法府への後押しとなることを願っています」と締めくくった。

全国知事会も引き下げ提言

控訴審では、新たな動きとして、全国知事会が2026年4月に公表した「地方自治・民主主義の確立に向けた研究会報告書」が注目される。
この報告書は、被選挙権年齢のあり方について検討し、「被選挙権年齢が選挙権年齢と違うことには合理性がないのではないか」という研究会での意見を紹介。その上で、「被選挙権年齢の引き下げは、(中略)若者の政治参加を促進し、その世代の候補者を国や地方の代表者として選択する可能性を広げる」として、国会での早急な議論を提言している。
原告側は、この報告書を「現職知事ら自身が、選挙権を有する18歳以上の者が、公選職に必要な社会経験を欠くとは捉えていないことを示している」と指摘。年齢と社会経験が比例するという一審判決の前提が、根拠のないものであることを裏付けるものだと主張している。
能條さんは記者会見で、このような報告書が作成される背景について「知事会の問題意識として、このままでは地方政治の担い手が不足するという切迫感があり、議論が進んでる面があるのだと思われる」との見解を示した。
原告側は、次回期日までに憲法学者からの意見書を提出し、主張を補充する予定である。


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