事故か事件か?ラジオの料理コーナーで“毒舌芸人”が食中毒に…中高生が「模擬裁判」に挑戦 導き出した判決は
仙台弁護士会および東北弁護士会連合会は7月25日、中学生・高校生を対象とした法教育イベント「ジュニア・ロー・スクール in 仙台」を仙台弁護士会館で開いた。
イベントの目玉は弁護士の有志で作る実行委員会(委員長=都築直哉弁護士)が企画した模擬裁判で、架空の食中毒傷害事件を取り上げた。

弁護士が「最終的な有罪・無罪の判断は五分五分くらいになるはず」と予想していた難事件だが、審理が進むにつれて意外な展開に。中高生が本気で導き出した「判決」とその論拠とは……?(ライター・佐々木佳)

検証を繰り返し、判決に行き着く過程を体感

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開廷し起訴状を読み上げる検察官役の生徒(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)※写真の一部を加工しています

当日は宮城県内外から中高生62人(オンライン含む)が参加。このうち一部の生徒は裁判官や検察官、弁護人役を演じた。
法服に身を包んだ裁判官役が開廷を宣言し、検察官役による起訴状の読み上げ、提出した証拠の説明、そして実行委員である本物の弁護士が演じる被告人・証人双方への尋問が行われた。
今回の事件は、仙台の架空のラジオ局で起きた「食中毒傷害事件」。実行委員のメンバーである弁護士らが業務の合間を縫って打合せを重ね、3か月かけて作り上げた架空の事件である。
事件の背景や証拠を一つ一つ検証していくと、中高生向けとは言え、構図は決してシンプルではなさそうだ。シナリオ作りを主導し、当日は被告人役を演じた村上匠弁護士によると、「参加者の判断が有罪と無罪で五分五分くらいになるイメージで考えた」とのこと。
生徒たちはチューターの弁護士にアドバイスを受けながら、尋問のやり取りや証拠資料を繰り返し検討し、最終的に「被告人を罪に問えるのか」を多数決で判断する。判決は2択だが、参加者一人ひとりが最終判断にどのようにたどり着くのか、そして判断がどのように分かれるかも焦点となる。
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検察官役の生徒(右側)の尋問を受ける証人役の弁護士(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)※写真の一部を加工しています

食中毒は故意による?熱演光る法廷劇

読み上げられた起訴状によると、事件の概要はこうだ。
ラジオの生放送の料理コーナーに毎週出演している料理研究家の「飛土井味晴(ひどい・あじはる)」は、食用のニラと見た目が似ており毒性のあるスイセンを料理に混入し、地元のお笑い芸人で番組パーソナリティの「長町たけし」に加療3日間を要する急性食中毒の傷害を負わせた、という。
検察側は、被告人を「有罪」とする証拠を6点提出。ニラとスイセンの間違えやすさ、食中毒についての基礎知識のほか、被告人が仙台近郊のスイセンの名所をスマートフォンで検索していた履歴、ニラを道の駅で購入する直前に近くのスイセンの名所を訪れていること、そこではスイセンが何者かに刈り取られる被害が同時期に起きていたことなどを論拠として、被害者の食中毒は被告人の「故意」であり、傷害罪に問えるとした。

一方の弁護側は、道の駅のレシートなどを証拠として提出し、被告人は確かに「ニラ」を購入していたこと、道の駅で過去にニラとスイセンを誤って販売したことがあったことなどを主張。「故意ではない」ので傷害には当たらず、無罪とした。
被告人と被害者(証人)を演じるのは、実行委員の弁護士である。どこまでが演技で、どこからが素なのか分からなくなるほど巧みな演技を魅せる一方、中高生たちも負けてはいない。
次々と証拠を突きつけて被告人を問い詰める検察官役を弁護人役が「異議あり!」と大きな声で制し、裁判官役も「異議を認めます。質問を変えてください」と冷静に述べるなど、互いの熱演ぶりが光っていた。
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証言台で弁護人役の生徒(左側中央)の尋問を受ける被告人役の弁護士(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)※写真の一部を加工しています

細部へのこだわりはローカルな「小ネタ」にも

インパクトの強い被告人の氏名や、ラジオでは普段被告人の料理をこき下ろして笑いを取っていたという被害者の“毒舌芸人”ぶりをはじめとして、事件やキャラクターの設定には実行委員らのユーモアもふんだんに盛り込まれている。
たとえば、起訴状に署名した検事は「花野英子(かの・えいこ)」で、宮城県出身の“イケメン”ピン芸人の名前にそっくり。被害者で証人「長町たけし」についても、仙台市内の「長町」駅から地下鉄で2つ先に「富沢」という駅があり、フルネームで置き換えると(漢字は異なるが)仙台出身の人気お笑いコンビの一人と重なる。
地元色に富んだユーモアはこれだけにとどまらない。実況見分調書に記された司法警察員や番組ディレクター、聴取を受けた道の駅の代表者の氏名は、県内で放送されているラジオのリスナーであれば「元ネタ」がすぐ分かるものばかり。
実行委員にとって、参加者がこうしたユーモアに反応してくれるのかも密かな「争点」だったようだが、そもそもショート動画世代の中高生が地元のラジオ番組を熟知しているかと言うと疑わしいようで、大きな反応は得られていなかった。とにかく、実行委員は細部にわたって事件の作り込みを重ね、当日を迎えたのであった。

尋問は思わぬ集中砲火に

白熱した法廷劇は幕間となり、今度は参加者全員から被告人、証人双方に聞きたいことを「尋問」する時間が設けられた。
「絶対の正解というものはありませんが、正解にたどり着くための論拠は組み立てられます。ここまで明らかになったことにはどのような情報が足りていないのか、そしてどのような情報が必要なのかを一人ひとりの視点で考え、自分なりの明確な意見を持てるようになってほしいです」と、実行委員長の都築直哉弁護士は強調する。
参加者はグループに分かれ、弁護士のアドバイスも受けながら証拠資料や手元のメモを真剣に検討した後、手を挙げて尋問を始めた。
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被告人に追加の尋問を行う中学生(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)※写真の一部を加工しています

「証人は被告人以外から恨みを買うようなことはありませんでしたか」
「被告人は料理を悪く言われて、嫌な気持ちにならなかったのですか」
「なぜ被告人は、ニラとスイセンを同時に検索したのですか」
被告人以外が証人にスイセンを食べさせた可能性を検証したり、被告人の犯行動機の手がかりをつかもうとしたりと、生徒たちは都築弁護士の狙い通り、多角的な問いを次々と立てていく。
だが、尋問が繰り返されるうち、明らかに気になる「傾向」も見られるようになった。
「被告人に質問です」
「被告人に聞きたいんですけど……」
「なぜ被告人は……」
尋問は休憩を挟んで1時間以上に及んだが、気が付くと、問いの矛先は被告人にばかり集中するようになっていた。特に、犯行との関連を疑わせるスマートフォンの閲覧履歴や、供述調書と尋問での発言の矛盾に関する内容が多い。参加した62人の大半が1問以上を尋ねたものの、終わってみれば、証人に問いを向けたのは片手で足りるほどだった。
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高校生からも集中砲火を浴びてうつむく(?)被告人役(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)※写真の一部を加工しています

懸命に導き出した自分の論拠。運命の「判決」は……?

模擬裁判もいよいよ終盤。参加者はこれまでの全ての情報を懸命に整理しながら、自分の「論拠」をワークシートにまとめていく。参加者同士のやり取りも一層真剣なものとなり、チューターからのアドバイスも熱を帯びているのが伝わってくる。

次に、グループの代表者が自分の判断とその論拠、グループで交わされた意見を発表し、被告人役、証人役がそれぞれホワイトボードに書き出していく。
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有罪・無罪とする論拠を発表する中学生(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)※写真の一部を加工しています

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被告人を「無罪」と判断する論拠は2項目(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)

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「有罪」の論拠は明らかに「数的有利」だった(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)

発表が行われるたびに、被告人を「有罪」と判断する論拠がホワイトボードを次々に埋めていく。「前の人とほとんど同じなんですけど」と、意見を重ねる生徒もいるほどだった。
それでも少数ながら、「無罪」の論拠を述べる代表者も。また、「グループでは有罪と主張する人が多く、私もそうだと思いますが、意見は分かれました」という発表も印象的だった。
被告人への尋問が多かったことから推察すると、当初立てていた論拠を「本当にそうかな」「もしかすると……」と疑い、修正した参加者も少なくなかったようだ。
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判決の言い渡しを前に神妙な面持ちの被告人役(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)※写真の一部を加工しています

模擬法廷は再開され、迎えた運命の時。
参加者全員の判断と論拠を集計した結果、有罪47人、無罪15人となった。被告人には検察側の求刑通り、拘禁刑6か月、執行猶予3年の有罪判決が言い渡され、終始白熱した裁判は幕を下ろした。
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判決後、被告人・証人役が“プロの弁護士”として講評を行う(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)※写真の一部を加工しています

自由な議論で意見を持てた経験を活かして

被告人役は「主張が認められへんかったのは残念やったと思います」とキャラクターに沿って“京言葉”で悔しがった後、プロの視点で講評を行った。
「プロであれば、これは事件なのか、それとも事故なのかというところから検討する必要があります。スイセンは混入したものではないかもしれない、被告人は本当にうっかり間違えたのかもしれない、といった点を考えてから、『犯人性』というものを考えていくという順番です」と解説。

その上で、「皆さんが有罪と判断した論拠は、どれもうまい所を突くものばかりでした」と参加者の奮闘を称えた。
証人役は「被告人はいかにも怪しかったですよね。明らかにこいつ、やってるでしょ」と参加者に笑いかけ、表情を引き締めてからプロの視点を説明した。
「被害者は被告人と無関係な料理でスイセンを食べてしまった可能性はないのかなど、尋問されるかなと思っていたポイントは他にもたくさんありました。皆さんの論拠はどれも素晴らしいものでしたが、自分だったら……無罪と判断するかなと思います。
皆さんは今回、スマートフォンの閲覧履歴に注目されていましたね。実際の事件でも、こうした閲覧履歴や日頃の言動などから『いかにも怪しい』とされ、『被告人の弁解は不合理』とされながら、有罪判決までには至らなかった事件もあるのが現状です」と、持ち時間いっぱいに若い参加者らに裁判の意義を語った。
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参加者の代表に修了証を手渡す都築弁護士(右)(7月25日 仙台弁護士会館/佐々木佳)

実行委員長の都築弁護士は「皆さんは今日、楽しく自由に議論できたのではないでしょうか。この経験を持ち帰って、日常生活にも活かしてください。相手の意見を聞き、自分の意見を持てる人になってくださいね」と参加者に呼びかけ、イベントを締めくくった。
■佐々木佳
1990年宮城県仙台市出身、在住。フリーのライター、インタビュアー。
金沢大学地域創造学類卒業、東北大学公共政策大学院修了後、「岩手日報」記者、社会福祉法人の広報職などを経て独立。東北地方をはじめとする地方圏の社会、経済、カルチャーなどを取材。地域経済を支える企業などの情報発信も手掛ける。主な執筆媒体は『仙台経済界』『ウラロジ仙台』など。


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