「15分ほどの面接で、20年近い経験が“不合格”になった」——。東京都のスクールカウンセラーとして20年近く子どもたちに向き合ってきたAさんは、たった1度の公募面接で職を失った。

都のスクールカウンセラー約250人が2023年度末に雇い止めとなり、うちAさんを含む10人が「違法だ」として都と都教育委員会を提訴している。だが不採用の理由を記した文書を都が開示せず、裁判所も提出を命じなかった。
8月7日午後、原告と弁護団が都内で会見し、「雇い止めの理由がブラックボックス化している」と訴えた。

「たった1度の面接」で消えた20年

以前は、希望すれば1年ごとの任用が更新され、試験も面接もなかった。ところが2020年、都はスクールカウンセラーを「会計年度任用職員」——1年度ごとに任用される非常勤の地方公務員で、同年施行の改正地方公務員法で整備された仕組み——へ切り替え、「4回更新・5年上限」の運用を設けた(組合側の説明)。
5年目を迎えると、続けたい人は改めて公募面接を受ける必要があり、2023年度末は約1000人が公募に応じた。原告の中には約20年勤めた人もいれば、10年、5年と経験を重ねた人もいたが、2023年度末には原告を含む都のスクールカウンセラー約250人が不合格となり、一斉に職を追われた。
20年近く勤務していた原告のAさんも2023年12月、公募面接に臨み、15分ほどの面接の結果不合格になったという。
「面接を生業としている人間としては、あの面接は圧迫面接だったと思います。そもそも、15分ほどの1度の面接で、不合格を与えられるような人間を20年近くスクールカウンセラーとして雇用していたのだとすれば、それは問題なのではないでしょうか」(Aさん)
その後、Aさんは翌年に再挑戦して合格したといい「たった1年でなぜ合格したのか。私自身が大きく変わったわけではない」と語った。

「翌年も働けるはずだと考えるのが当然」

組合と都・都教委は雇い止めの撤回を求めて団体交渉を重ねたが解決せず、2024年10月に提訴に至った。原告側は、雇い止めは違法無効だとして、労働契約上の地位確認、雇い止め後の賃金、慰謝料の3点を求めている。
争点の一つが「能力実証主義」だ。
地方公務員法15条では、職員の任用について「受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行わなければならない」と定めている。
原告側の浅野ひとみ弁護士は、公募面接が「スクールカウンセラーの資質を測る内容ではなかった」と主張し、これまでの勤務評定を一切考慮しない都の運用を「能力実証主義に反する」と指摘した。
笹山尚人(ささやま・なおと)弁護士も「一般企業であれば、10年、20年と働いた実績があれば、翌年も働けるはずだと考えるのが当然だ」と、民間との落差を挙げる。
だが「公務員には、翌年度の任用を当然に期待できる権利は法律上存在しない」というのが都の主張だ。

4つの文書、すべて「棄却」

不採用が公正だったかを確かめるには、選考の中身を示す資料が必要となる。
原告側は2025年10月、面接の質問マニュアル、合否の判定基準、各人の評定票、前年度までの業績評価書という4つの文書について文書提出命令を申し立てた。
しかし東京地裁は2026年5月28日、申し立てをすべて却下した。
業績評価書は「本件選考で考慮されておらず、証拠調べの必要性がない」と判断。残る3つは「公務員の職務上の秘密(公務秘密文書)」に当たり、開示されれば今後の公務員の採用選考業務に著しい支障が出るとした。
笹山弁護士は「公務員試験の過去問や予備校のマニュアルなどの形で、公務員の採用選考に使われる書類等はすでに世間に出回っている。いまさら、ノウハウが漏れるという問題ではない」と反論。
業績評価書についても「これが出てこなければ、原告たちの実績が正しく評価されたのかも分からない」と強調した。

原告側は6月5日、文章の提出を求め、東京高裁に即時抗告している。
会見には、支援団体「勝たせる会」の呼びかけ人を務めるジャーナリストの竹信三恵子氏も同席。
竹信氏は、人事評価の透明化が近年進み、多くの自治体が評価結果を本人に開示していると説明。「開示が世の中の流れになっている。それを出さないのは、非常に不当だ」と述べた。
会見の終盤、Aさんは「同じ思いをする心理職が、もう出ないでほしい」とコメント。会見に出席した別のスクールカウンセラーのBさんも「こんなに身分が不安定な中で、保護者や生徒を支えていくのは、スクールカウンセラーにとってらいことだ」として、「今後のカウンセラー、心理職のためになんとか都を是正して、事実を明らかにしていきたい」と述べた。


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