【M&A成長戦略を聞く⑧】リユース業界の常識を変えた!BuySellの「隠れ資産」発掘とデータドリブン

リユース業界で異彩を放つ企業がある。BuySell Technologiesだ。

店舗への持ち込みを待つのではなく、顧客の自宅を訪問する「出張訪問買取」を主力に成長してきた。岩田匡平会長は、日本の家庭に眠る未活用の「隠れ資産」に注目する。その規模は既存の中古流通市場を大きく上回るという。さらに同社は、独自のデータ基盤「COSMOS」を活用したデータ経営を推進し、業界再編の担い手としても存在感を高めている。岩田会長にM&Aの狙い、PMI(M&A後の経営統合プロセス)の考え方、そして今後のグローバル戦略について聞いた。

「90兆円超の隠れ資産」が眠る巨大市場

―なぜ出張訪問買取というモデルに注力したのでしょうか。

日本の家庭には、1年以上使われていない不用品が大量に眠っています。これらは「隠れ資産」と呼ばれています。既存の中古流通市場は数兆円規模ですが、その背後にははるかに大きな未顕在化市場があります。店舗に持ち込まれる商品だけを見ていては、その市場にはアクセスできません。

実際には「こんなものが家にあったことを忘れていた」「価値がないと思っていた」というケースが少なくありません。そこにどうやってアクセスするかを考え続けた結果、出張訪問買取というモデルにたどり着きました。

【M&A成長戦略を聞く⑧】リユース業界の常識を変えた!BuySellの「隠れ資産」発掘とデータドリブン
出張買取で存在感を示すBuySell
出張買取で存在感を示すBuySell(同社ホームページより)

―出張訪問買取の入口として、遺品整理や生前整理を重視しています。

隠れ資産を持つ顧客の一次的なニーズは「高く売りたい」ではありません。むしろ「早く片付けたい」「捨てたい」が先にあります。そこで私たちは「捨てる前に呼んでください」と提案しています。家の片付けという課題解決の中に入り込むことで、これまで市場に出てこなかった商品と接点を持てるようになりました。

―BuySell Technologiesはシニア世代との接点が強い印象があります。

最初からシニア世代を狙ったわけではありません。家の整理や遺品整理のニーズが高かったのが、結果として60代、70代の方々だったということです。わが国では、相対的にシニア世代の方が資産を持っています。高度経済成長期を経験し、良質なブランド品や骨董品などを所有しているケースも多い。その結果、現在の顧客層が形成されました。

難しい出張訪問買取を支える技術とは

―出張訪問買取の参入障壁はどこにありますか。

店舗買取に比べると、非常に難しいビジネスです。まず広告によって問い合わせを獲得しなければなりません。

その一方で、実際に訪問する人員も必要です。問い合わせが多くても人が足りなければ対応できない。逆に人員を配置しても問い合わせがなければコストだけが発生する。広告投資と人員配置を全国規模で最適化しなければならないため、難易度は非常に高いと思います。

―その強みを支えているのがデータでしょうか。

当社には「COSMOS」という独自のデータ基盤があります。広告から査定、仕入れ、販売まで、事業活動のすべてを一気通貫で追跡できる仕組みです。リユース業界では、なぜ利益が出たのか、あるいはなぜ利益が出なかったのかが属人的な経験や勘で語られることも少なくありません。しかし当社は違います。

どの広告から問い合わせが発生したのか。どの商品が仕入れられたのか。どの販路で販売され、どれだけ利益が生まれたのか。

入口から出口までをデータで可視化しています。

―COSMOSはBuySell Technologiesにとってどのような存在ですか。

経営のOSのようなものです。私たちは「今日はなぜ良かったのか」「なぜ悪かったのか」を感覚ではなく数字で説明できる組織を目指しています。「偶然の成功」ではなく、「再現可能な成功」をつくる。そのための基盤がCOSMOSです。

だからこそ、タイムレスが持っていたオークションデータにも大きな価値がありました。COSMOSという土台の上に業界の取引データが加わることで、経営判断の精度をさらに高められるようになったのです。

M&Aにもデータを活用

―M&Aにも活用しているそうですね。

買収先をCOSMOSに載せることで、利益が生まれる構造が見えるようになります。これまでは「なぜ業績が良かったのか」「なぜ悪かったのか」が分からなかった企業でも、当社のデータ基盤の上で動かすことで原因を分析できるようになる。

どの顧客を獲得し、どこへ販売すれば収益が最大化するのか。どの業務を効率化できるのか。

そうした判断ができるようになります。当社のPMIは、単なるコスト削減ではありません。データを活用して事業そのものを科学する取り組みだと思っています。

―リユース業界でM&Aが活発化しています。

店舗買取事業者が多すぎるからだと思います。参入障壁が低いため、駅前やロードサイドに次々と店舗が出店しています。その結果、顧客の奪い合いが起きており、店舗単位の収益性は低下しています。今後はさらに再編が進むでしょうし、当社もその流れを牽引する立場の1社だと認識しています。

―M&Aでは何を重視していますか。

バリュエーション(企業評価)と、自分たちの「肌感覚」が適用できる範囲です。リユース業界だから何でも買うわけではありません。中古車市場や中古ピアノ市場などは非常に活況ですが、私たちの「肌感覚」とは違う。

当社のオペレーションや技術、経験が活かせる領域かどうかを重視しています。

BuySellの主なM&A案件と買収後の成長率

【M&A成長戦略を聞く⑧】リユース業界の常識を変えた!BuySellの「隠れ資産」発掘とデータドリブン
BuySellの主なM&A案件と成長率
(同社ホームページより)

転機となった二つのM&A

―福ちゃん買収はどのような意味を持ちましたか。

出張訪問買取は参入障壁が高く、本格的に全国展開しているプレイヤーは限られています。その中で福ちゃんは数少ない直接競合でした。この市場における主導権をより強固なものにできた点が、当初想定していた最大のシナジーでした。

さらに統合後に分かったのが、福ちゃんが持つ骨董品・美術品分野の高い専門性です。当社にはなかった査定や販売のノウハウを有しており、結果として事業領域の拡張にもつながりました。骨董・美術品分野という新たな強みも手に入れた案件だったと言えます。

―タイムレス買収はどのような位置付けでしょうか。

最大の目的は販路でも規模拡大でもありません。私たちが欲しかったのはデータです。タイムレスはオークション事業を展開していました。オークションというのは、リユース業界のプロ同士が集まり、日々商品の売買を行う市場です。

そこには「何が」「いつ」「いくらで」「誰に評価されたのか」という取引情報がリアルタイムで蓄積されています。

言い換えれば、業界全体の需給や価格形成が最も鮮明に表れる場所です。当社は創業以来、データを軸に経営してきました。広告投資の最適化も、査定も、販売先の選定も、すべてデータをもとに意思決定しています。

しかし、いくら自社で商品を仕入れていても、市場全体で今何が起きているのかまでは見えません。その点、オークションには業界中の商品とバイヤーが集まります。そこで得られる取引データは、自社データだけでは把握できない市場の動きを映し出す「生データ」でした。

―単なる販路獲得ではなかったのですね。

そうです。もちろんオークション機能そのものにも価値はあります。ただ、それ以上に重要だったのは価格形成のメカニズムを直接把握できることでした。

例えば、どの商品カテゴリーの需要が伸びているのか、どの地域のバイヤーが積極的に買っているのか、海外需要がどこで強まっているのか。そうした変化をいち早く捉えることができるようになります。これは仕入れ価格の精度向上にもつながりますし、販売チャネルの最適化にもつながります。

データ経営を掲げる当社にとって、タイムレスが持つオークションデータは単なる情報ではなく、経営判断そのものを高度化する戦略資産だったのです。

買収で事業の「入口」と「出口」を固めた

―振り返ると、両社の買収はどのような意味を持ちましたか。

福ちゃんが出張訪問買取市場の競争構造を変えたM&Aだとすれば、タイムレスはデータ基盤を強化したM&Aだったと思います。福ちゃんが「入口」の競争優位を高めた案件だとすれば、タイムレスは「出口」と市場分析の精度を高めた案件と言えるでしょう。

どちらが欠けても今のBuySellはありません。振り返れば、この二つのM&Aが当社の成長戦略における最も重要な転換点だったと思います。

―PMIでは何を重視していますか。

感情論は持ち込みません。収益最大化に合理的なものは残しますし、そうでなければ変えます。ただし、自社にない強みは積極的に取り込みます。福ちゃんの骨董・美術品ノウハウはその典型例です。特殊な専門性については当社にとっても価値があります。

―買収後の収益改善に自信がある理由は。

当社のデータ基盤に載せることで、利益が出る理由、出ない理由を可視化できるからです。従来は属人的な経験則で運営されていた部分も少なくありませんでした。

当社は数字を分析し、成果の要因を解明することで再現性を高めています。「なぜ成功したのか」を科学できることが最大の強みだと思います。

BuySell TechnologiesのPMIフレームワーク

【M&A成長戦略を聞く⑧】リユース業界の常識を変えた!BuySellの「隠れ資産」発掘とデータドリブン
BuySell TechnologiesのPMIフレームワーク
(同社ホームページより)

次の成長テーマは「販路」

―今後の成長戦略について教えてください。

一丁目一番地は販路です。私たちは日本中から価値ある商品を掘り起こしています。しかし重要なのは、その商品を最も高く評価してくれる買い手に届けることです。

日本で1万円の商品が、海外では1万5000円で売れるかもしれない。その可能性を常に追求したい。特に米国や中国は市場規模が圧倒的です。販路を広げることで商品の価値を最大化できると考えています。

日本はリユース業界において資源国家だと思っています。国内には価値ある中古品が数多く眠っています。その資源を掘り起こし、世界中の需要と結び付ける。

当社はその役割を担いたいと考えています。単独でグローバルプラットフォームを築くというより、M&Aや提携も活用しながら、世界規模の販路網を構築していくことになるでしょう。

文・写真:糸永正行編集委員

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