【M&A成長戦略を聞く④】なぜ百貨店が金融事業を拡張するのか?  高島屋が目指す「小売×金融×まちづくり」ビジョン

百貨店業界が大きな転換期を迎えている。人口減少や消費行動の変化に直面する中、各社は「小売業」からの脱皮を模索してきた。

その中で金融事業を新たな成長軸として位置づけているのが高島屋<8233>だ。

クレジットカードや保険から始まった同社の金融事業は、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)、ネオバンク、ファンド事業などへと拡張。2031年までに金融事業で100億円規模の収益を目指すという。

なぜ、百貨店である同社が金融事業を強化するのか。そして金融は小売ビジネスとどのような相乗効果を生むのか。高島屋の金融戦略とM&Aの狙いについて本多修経営企画部金融事業戦略室長に聞いた。

収益源の多様化が金融事業強化の出発点

─金融事業を強化する議論は、いつ頃から社内で始まったのでしょうか。

およそ10年前からです。百貨店事業を取り巻く環境が変化する中で、収益源を多様化する必要があるという問題意識がありました。

ディフェンス(守り)の観点で言えば、百貨店単体の収益構造に依存しすぎない事業基盤をつくることが重要だと考えたのです。

─当初から金融事業を構想していたのですか。

高島屋は以前からクレジットカードや保険などの金融サービスを展開していました。例えば2020年には外部企業と提携し、店頭で金融相談を行う「ファイナンシャルカウンター」も開始しています。

【M&A成長戦略を聞く④】なぜ百貨店が金融事業を拡張するのか?  高島屋が目指す「小売×金融×まちづくり」ビジョン
高島屋の金融事業の先駆けとなった「ファイナンシャルカウンター」
金融商品を総合的に案内する「ファイナンシャルカウンター」(高島屋提供)

当初はBtoC(消費者向け取引)中心の発想でした。つまり、来店客やカード会員向けのサービスです。しかし現在はBtoB(企業間取引)やファクタリングなどにも広がり、顧客軸と事業軸の両面で拡張してきました。

百貨店の顧客接点が金融ビジネスの強み

─百貨店が金融事業を行う強みはどこにありますか。

一番の強みは顧客接点です。高島屋には全国の百貨店店舗や外商部門があり、多くのお客様との関係性があります。こうした接点を起点に金融サービスを提供できることが大きい。

デジタルプラットフォーマーのように全国一律で規模拡大を狙うビジネスとは違い、私たちは店舗のある地域や顧客との関係性をベースに金融ソリューションを提供していきます。

─外商顧客との相性も良さそうですね。

そうですね。外商顧客には富裕層の方も多く、資産運用など金融に関する相談ニーズがあります。

従来は商品販売が中心でしたが、金融サービスを提供することで「生活全体を支えるパートナー」に近づけると考えています。

【M&A成長戦略を聞く④】なぜ百貨店が金融事業を拡張するのか?  高島屋が目指す「小売×金融×まちづくり」ビジョン
店舗や外商を起点に金融サービスを提供できるのが強み(日本橋高島屋 S.C.、高島屋提供)
店舗や外商を起点に金融サービスを提供できるのが強み(日本橋高島屋 S.C.、高島屋提供)

金融機能は「内製化」より提携を重視

─金融分野では規制も多く、参入は容易ではありません。内製化と提携のどちらを選択したのでしょうか。

さまざまな議論がありましたが、小売業がコアである百貨店として、リスクとリターンのバランスを考えると提携型が合理的だという結論になりました。

金融機能をすべて自社で抱えるのではなく、パートナーと組みながら必要な機能を獲得していく形です。

─将来的に内製化する可能性はありますか。

一部では出てくると思います。ただし提携先に丸投げするわけではなく、必要なノウハウは自社のチームに蓄積していく方針です。

外商×IFAで富裕層向けサービスを拡張

─金融事業の中でIFA事業にも取り組んでいます。

ファイナンシャルカウンターを運営する中で、NISAなど資産形成ニーズが高まっていることが分かりました。

外商顧客の資産運用ニーズにも応えるため、IFAを通じたサービス拡充を進めています。

─実際に取り組んでみてどうでしたか。

非常に難易度の高い取り組みです。

ただ、新たに取り組むことで初めて見えてくる金融ニーズもあります。すべての顧客に適合するわけではありませんが、高い親和性を持つお客様が一定数いることは確かです。

─ネオバンクなどデジタル金融にも取り組んでいます。

若年層や普段百貨店を利用しない顧客へのアプローチとして始めました。百貨店の店舗売上だけに依存するのではなく、顧客起点で接点を広げるという戦略の一環です。

【M&A成長戦略を聞く④】なぜ百貨店が金融事業を拡張するのか?  高島屋が目指す「小売×金融×まちづくり」ビジョン
若年層などの来店頻度が低い顧客に向けた金融サービスを提供するスマホアプリ(高島屋提供)
若年層などの来店頻度が低い顧客に向けた金融サービスを提供するスマホアプリ(高島屋提供)

オンラインサービスと対面サービスは競合するものではなく、顧客ニーズに応じて選んでもらう形にしています。

M&Aは「足りないピース」を埋める手段

─投資事業として「百年のれんプロジェクト」にも取り組んでいます。

外部のPE(プライベートエクイティ)ファンドと議論する中で、高島屋らしい投資テーマは何かを考えました。

その結果、伝統文化や取引先企業の支援といったテーマが浮かび上がり、こうした企業に、高島屋のノウハウを活かした営業面での支援に加えて、財務面でもサポートする「百年のれんプロジェクト」という形になりました。

これは単なるリターン(収益)目当ての投資ではなく、取引先との関係を強化し、BtoB領域を広げる取り組みでもあります。

─今後の金融事業の目標を教えてください。

2031年までに金融事業で100億円規模の収益を目指しています。

クレジットカード事業が中心で、70億円程度を見込んでいます。IFA事業やファンド事業も組み合わせて成長させていく計画です。

現時点では60億円程度が見えてきており、達成度としては約60%という感覚です。


─金融事業でのM&Aについての考え方は。

基本的な考え方は「足りないピースを埋める」ことです。金融機能をすべて自社で持つ必要はありませんが、この事業を強化するために必要な機能や人材はM&Aや提携で補っていきます。

金融事業は単独のビジネスではなく、「百貨店」「商業開発」「まちづくり」と結びついた戦略領域です。今後もこの3つの領域をつなぐハブ(軸)として、金融機能を拡張していきたいと考えています。

文・写真:糸永正行編集委員

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