国の最新自動運転ロードマップ、ロボタクシーにどのような影響を与えるか?

デジタル庁が取りまとめ、7月に公表した「モビリティ・ロードマップ2026」は、自動運転政策の転換点となった。これまで主流だった実証実験中心の政策から、「事業化」を明確に打ち出し、ロボタクシーや自動運転バス、自動運転トラックの社会実装を加速させる方向性を鮮明にした。

「実証」から「事業化」へ

一方で、自動運転技術については「レベル5(完全自動運転)はいつ実現するのか」が注目されている。しかし、今回のロードマップが目指しているのは「レベル5」そのものではなく、「レベル4(無人自動運転)」の適用範囲をいかに広げ、事業として成立させるか」という現実的なアプローチだ。

ロードマップによると、2025年度には全国60カ所以上で自動運転の実証が行われ、レベル4に相当する「特定自動運行」の許可も延べ12件まで増えた。ただ、多くは短期間・限定区域での運行にとどまり、本格的な事業化には至っていないと政府自ら認めている。

そこで2026年度以降は、①自動運転サービスの導入・運営に向けてAI(人工知能)や通信、保守、保険、配車システムなどを一体的に提供する「交通商社」の整備、②先行事業化地域への集中支援、③AI技術への対応、④物流分野への展開を柱に据え、事業化への転換を図る。

2027年度にはタクシー配車アプリ大手のGOやソフトバンクとトヨタ自動車が設立したMaaS(サービスとしての移動)企業のMONET Technologiesが自動運転タクシーのサービス開始を予定しており、日本のロボタクシーが「実証実験」から「商用サービス」へ移行する最初の節目となりそうだ。交通商社モデルによる事業運営や先行事業化地域での展開が本格化し、自動運転が実験段階から収益事業へ移るきっかけとなるだろう。

ロボタクシーの普及を後押し

運転手不足や高齢化、路線バスの廃止といった地域交通の課題が深刻化する中、自動運転は「技術開発」ではなく「移動手段の維持」という社会課題の解決策として注目されるようになった。ロボタクシーも、地方の交通空白地を支える公共交通の一つとして期待されている。

最新のロードマップでは、その位置付けがさらに一段階進んだ。ロボタクシーを含む自動運転ビジネスについて、AI・データ活用を含む新たなモビリティ産業の中核サービスと見込んでいる。

政府が描く自動運転車の姿は、この10年間で「未来の自動車技術」から「地域交通を支えるインフラ」へ、さらに「AI時代の成長産業」へと進化した。

「完璧なレベル5」よりも「すぐに使えるレベル4」

技術面で詳細に議論されているのは、①ルールベース型、②モジュール型AI、③End-to-End(E2E)型AIという3種類の自動運転アプローチだ。ルールベース型は高精度3次元地図などを活用し、安全性の検証が容易な一方、新しい地域へ展開するたびに地図整備やソフトウエア調整が必要となる。

一方、E2E型はAIが認識から運転制御までを一括して担う。

高精度地図への依存度が低く、柔軟に走行エリアを広げられるため、政府は「将来の自動運転の中核となる可能性がある」と評価している。

モジュール型AIはその中間で、自動運転システムの各機能(モジュール)は分けたまま、その一部にAIを組み込む方式だ。「認識」「予測」「経路判断」「制御」の機能ごとに、自動化できるものから順に手を付けていく。

ロードマップでは、まずは技術的に容易なルールベース型やモジュール型AIで自動運転市場を形成して商用サービスを早期に立ち上げ、その後E2Eへ発展させるという二段構えの戦略を採用している。

ロボタクシーの追い風になる理由

今回のロードマップは、ロボタクシーにとって追い風となる。「ODD(運行設計領域)」を前提とした政策設計だからだ。ODD対応エリアであればレベル4での無人運転を認めていく方針で、事業者は営業区域を同エリア内に限定すれば早期にロボタクシーを導入できる。

国は高精度地図やインフラ整備を活用できる限定エリアでルールベース型やモジュール型AIによるロボタクシーの事業化を進める一方、将来はE2E型によって自動運転適用範囲を広げていく構想を描いている。いわば「現行技術で自動運転が可能なエリアから自動運転を認める」先取り政策だ。

ロボタクシー事業者にとって重要なのは「将来技術であるレベル5の実現を待つ」のではなく、「現時点で実用可能なレベル4のエリア内でのロボタクシー導入」となる。

スマートフォンを例にとれば、一部の山間部や離島などの僻地で利用できないなど、通信可能エリアは全国土をカバーしているわけではない。それでも、ほとんどの利用者の日常生活圏を基地局がカバーしているため、「どこでも使える」と感じている。

それと同じように、自動運転もレベル4のODDが日常生活圏をカバーできさえすれば、レベル5の実現を待たなくてもロボタクシーが「どこでも使える」移動サービスとして定着する公算が高い。

M&Aも活発化する

一方、より自律性の高いE2E型AIの開発促進は、企業間提携やM&Aを促す。ロードマップでは、トヨタ自動車と米Waymo、日産自動車と英Wayve Technologiesの提携、ティアフォーやチューリングなど国内スタートアップの取り組みを紹介し、自動車メーカーとAI企業の連携が加速していると指摘した。

E2E時代には、自動車メーカー単独で競争するよりも、AIや半導体、クラウド、シミュレーションなど異なる技術を持つ企業との連携が不可欠になる。政府がE2Eを政策として後押しすることで、今後は資本提携やM&Aなどの再編につながりそうだ。

政府は2030年時点でロボタクシーや自動運転バス、自動運転トラックなどの自動運転サービス車両1万台の導入を目標として掲げている。これに伴い、タクシーのビジネスモデルも大きく変わる。

タクシー会社は交通商社の担い手になるのか、既存の有人タクシーで生き残るのか、それとも事業譲渡や廃業で撤退するのかの重大な選択を迫られることになるだろう。タクシー事業者にとっても、今後の経営計画を立てるうえで重要な判断材料となりそうだ。

国の最新自動運転ロードマップ、ロボタクシーにどのような影響を与えるか?
(M&A Online作成)
(M&A Online作成)

車両価格の引き下げが課題

政府は、自動運転サービスの普及には技術だけでなく採算性の確立が不可欠とみている。ロードマップでは、自動運転タクシーの車両価格を成熟期で1台1750万円と、有人タクシー(340万円前後)の約5倍になるとの試算を示した。これでは、多くのタクシー事業者が導入に二の足を踏むだろう。

一方、海外プレーヤーの参考価格は430万円。これは中国百度(Baidu)の自動運転車「RT6」をベースにした試算で、ロードマップ作成当時の為替レート1元=21円で1台当たり20万4600元を換算したものだ。

両者の価格差は、ベース車両とLiDAR(光学レーダー)センサーの違いによる。

1750万円の試算は、光学部品を回転させて周囲をスキャンするスピニングLiDARの活用を想定した事業者へのヒアリングに基づく。一方、百度のRT6は江鈴汽車集団(JMC)の車両をベースに、機械的な回転を用いずスキャンする安価なソリッドステートLiDARを採用した。

前世代のRT5はスピニングLiDARを搭載し、製造コストが約48万元(1000万円超)に達していたことからも、センサーの低価格化が自動運転車両のコスト低減に重要なことがうかがえる。もちろん、国内メーカーによる量産化や技術革新による大幅なコスト削減も視野に入っている。車両価格はロボタクシーの普及を左右する重要な要素だけに、今後の動向に注目だ。

都市部でのモジュール型AIロボタクシー普及が先行

ただ、自動運転の普及を左右するのは車両価格だけではない。技術方式によって、適した事業エリアも異なる。経済産業省モビリティDX室によると、モジュール型AIは走行ルートが一定で、高精度3次元地図の作成と更新費用を賄えるだけの需要が見込める地域において、レベル4を実現する有力なアプローチとなる。タクシーであれば、東京中心部など大都市圏での展開が想定され、2020年代にもレベル4の実装を見込む。

これに対してE2E型AIは、あらかじめ走行ルートを固定しなくても走行できることから、特定の路線ではなく「面」での展開に適した方式とされる。高精度3次元地図への依存度も低いため、人口密度の低い地域で運行する地方のタクシーなど幅広い用途への展開が期待できるだろう。ただし、「安全性の論証などを踏まえ、2020年代は有人運転のレベル2にとどまる」(モビリティDX室)との見通しだ。



当面、都市部ではモジュール型AI、地方など広範囲の展開ではE2E型AIというように、地域や用途に応じて異なる方式の使い分けが想定される。将来は、AIの高度化によって、特定のルートや高精度3次元地図への依存度を下げられるE2E型へ、自動運転技術の軸足が移っていくことになりそうだ。

文:糸永正行編集委員

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