俳優の岩下志麻が5月30日、東京・Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下で行われた「映画監督 篠田正浩 レトロスペクティブ」トークイベントに出席した。昨年3月に夫である篠田正浩監督が亡くなって以来、公の場に登場するのは初めて。
映画監督・篠田正浩が94年の生涯の中で、残した作品を未来へとつなぐ「映画監督 篠田正浩レトロスペクティブ プロジェクト」。その幕開けを飾る「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下篇」では、初期傑作から「表現社」設立後の代表作を含む全6作品を上映中だ。
この日は『はなれ瞽女おりん』(1977)が上映された。盲目の旅芸人・おりんと、警察や憲兵隊に追われる男・平太郎との愛を美しい自然の中に描く本作で、岩下は第1回日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞に輝いている。「洗面所から廊下を歩いたり、外を散歩したり、全部目をつぶって練習しました。暗闇恐怖症だったので、暗闇に慣れるところから始めました」と当時の役作りを振り返った。
また、当時は俳優業に「自信喪失していた」そうで、「篠田が『女優を辞めてはいけない、女優をしている時が一番輝いている』と励ましてくれた。それで何とか立ち直って前を向いていた」と感謝していた。
篠田監督との出会いは、岩下のデビュー作でもある『乾いた湖』(1960)。「あれは運命の出会いだと思います。出会っていなければ、今の私はいないですから」としみじみ語る。
以来、結婚や「表現者」設立などを経ながら、22本の篠田作品に出演し「私たちの結婚生活は、映画を追っかけた魔物退治の生活だったとつくづく思いました」と、戦友でもある篠田監督との“映画人生”に思いを馳せた。
昨年3月に篠田監督が亡くなると「喪失感が大きくて、気力が全然なくなった。死ぬことばかりを考えていた」とも。現在は、ふたりの映画人生にまつわる書籍の執筆で「少しずつ元気が出てきて、かなり前向きな気持ちになっている」そうで、日々の出来事を「毎日仏壇に報告している」と話していた。
最後に岩下は「篠田は類いまれなる才能の持ち主」「映画監督として、映画史に残るような素晴らしい映画を何本も作ってくださった」とその功績を称え、「優しいし、思いやりはあるし、素晴らしい人間と58年間も一緒に暮らせて本当に幸せだったと思っております」と夫への変わらぬ思いを語ると、会場は大きな拍手に包まれていた。
取材・文:内田涼
<イベント情報>
『映画監督 篠田正浩 レトロスペクティブ Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下篇』
5月29日(金)~6月11日(木) 東京・Bunkamuraル・シネマ
■上映作品
『乾いた湖』
『乾いた花 4Kデジタルリマスター版』
『暗殺』
『あかね雲』
『心中天網島』
『はなれ瞽女おりん』
公式サイト:
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/26_shinoda.html

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