プーチンの絶望「もはや頼れるのは金正恩だけ」…中国に値切られ、インドに振り回される“大国ロシア”の悲しい現実
プーチンの絶望「もはや頼れるのは金正恩だけ」…中国に値切られ、インドに振り回される“大国ロシア”の悲しい現実

ロシアのプーチン大統領は今、中国には原油を買い叩かれ、インドには都合次第で取引量を左右される立場に置かれている。さらに、兵士や砲弾を安定的に供給できる国は北朝鮮しかない。

かつて世界に影響力を誇った大国は、なぜ金正恩総書記に頼らざるを得なくなったのか。戦争の長期化が映し出した、ロシア外交と経済の厳しい現実を追う。

インドはロシアを助けていない…安ければ買う。不利なら切る

プーチン大統領はいま、世界をにらみつける大国の指導者というより、原油を買ってくれる国、部品を売ってくれる国、兵士を出してくれる国を探して頭を下げる営業担当者に近い。

その苦境が最も鮮明に出たのが、インドの動きである。インドはロシア産原油の最大級の買い手だった。2025年には日量平均約170万バレルを輸入していたが、2026年1月前半には約118万バレルまで落ちた。約30%減である。

製油会社は新しい契約を止め、日量50万~60万バレルまで減るとの見方も出た。ロシアの戦費を支えてきた原油の出口が、急に細くなった。

その後、中東からの供給が乱れると、インドは再びロシア産原油を買い増した。3月は日量225万バレル、6月は270万バレル前後に達した。

ロシアが信用を取り戻したわけではない。ホルムズ海峡の混乱で中東産原油が入りにくくなり、インドが手に入れる必要のあった油を確保しただけである。

インドはロシアを助けていない。安ければ買う。不利なら切る。必要になれば、また買う。ロシアの命綱は、インドの都合で締まったり緩んだりするのだ。

欧州という上客を失ったロシア

中国も同じだ。値引きされた原油は買う。ロシアから安く仕入れられるからである。一方で、中国の銀行は米国の二次制裁を恐れ、ロシア関連の決済を遅らせ、拒んできた。

中国は市場を貸すが、ロシアと一緒に傷つく気はない。ロシアが困れば困るほど、中国は有利な条件を取れる。

インドと中国は、ロシアの窮地につけ込んで安い原油を買う。

売り手が困っている以上、値段を決めるのは買い手だ。資源大国ロシアは、資源を持ちながら、好きな値段で売る自由を失った。

しかも、値引きは一時のサービスではない。欧州という上客を失ったロシアには、ほかへ回す余地がない。中国もインドもそれを知っている。

急いで売りたい側と、買わなくても困らない側では、交渉の強さが違う。プーチンが反西側の連帯を語る横で、両国は黙って値札を下げさせている。

北朝鮮にすがるところまで追い込まれたロシア

そして、兵士を送り、砲弾を渡し、ミサイルまで実戦に持ち込む国は北朝鮮しか残っていない。ロシア外交は、北朝鮮にすがるところまで追い込まれた。

ウクライナ侵攻の直後、ロシア経済は西側の予想より持ちこたえた。政府が軍需工場に巨額の金を流し、戦車、砲弾、ミサイルを造らせたからである。戦車を造ればGDPは増える。

砲弾工場を24時間動かせば、雇用も賃金も増える。

だが、戦車は家にも工場の機械にもならない。前線で壊れ、次の戦車を造るためにまた金が要る。鉄も電子部品も人手も消える。国民の暮らしを豊かにする資産は残らない。軍需景気は、未来の成長を燃料にして走る景気である。

その燃料が切れ始めた。2024年の成長率は4.9%だったが、2025年には約1%まで落ちた。2026年も低迷が続き、IMFの成長率見通しは1.1%である。

石油・ガス収入は急減し、財政赤字は政府の当初目標を大きく上回る。高い政策金利は企業の投資と住宅市場を押さえつける。戦争が経済の首を絞めている。

人も金も軍需に消えていく。兵器工場が高い賃金で人を集めれば、民間企業は働き手を失う。政府が軍需を優先すれば、住宅、交通、医療、設備投資に回る金が減る。数字の上では生産が増えても、国の力はどんどん痩せていっているのだ。

兵士が要る。そこで北朝鮮軍の出番となる

ロシア経済が明日にも崩壊するわけではないかもしれない。資源があり、政府は銀行と企業を強く動かせる。だから戦争も続けられる。怖いのは、突然の崩壊ではない。売り先、資金、兵士、支援国が少しずつ減り、最後に選べる手がなくなることである。

欧州市場を失った痛手もやはり大きい。侵攻前のロシアは、パイプラインで欧州へ大量の石油とガスを送り、安定した外貨を得ていた。

EUのガス輸入に占めるロシア産の比率は、2021年の45%から2025年には12%まで落ちた。原油も27%から3%未満へ減った。

近くて高く買う欧州を失い、遠い中国やインドへ、輸送費をかけ、値引きして売る。買い手が減れば、売り手は強気に出られない。

原油収入が減れば、困るのは軍だけではない。年金、地方財政、道路、学校、病院に回す金まで削られる。政府は増税と借金で穴を埋める。前線から遠い国民も、物価、高金利、税負担という形で戦争の請求書を払う。

それでも前線には砲弾が要る。兵士が要る。そこで北朝鮮軍の出番となる。

金正恩は当然、善意で助けているのではない

北朝鮮は2024年、1万1000人を超える兵士をロシアへ派遣した。クルスク州には約1万4000人が投入され、6000人以上が死亡したと報じられた。

さらにロシアが3万人規模の追加派兵を求めたとの情報も出た。

武器の量も大きい。北朝鮮からロシアへ送られた武器と砲弾は約2万8000個のコンテナに達し、152ミリ砲弾に換算すれば1200万発を超える。

北朝鮮製の弾道ミサイルもウクライナへの攻撃に使われた。ロシア軍の不足を埋めているのは、北朝鮮の兵士と武器である。

金正恩は当然、善意でロシアを助けているのではない。

食料、燃料、外貨、軍事技術、外交上の後ろ盾を受け取る。北朝鮮軍は現代戦の経験を積む。自国製ミサイルがどこまで飛び、何発が迎撃され、どこが壊れたかという実戦データも手に入る。

プーチンは今日の戦線を守るために、明日の東アジアを危険にしている。無論、日本の安全保障上の脅威となる。

しかも、砲弾が足りないロシアに供給国を選ぶ余裕はない。金正恩は足元を見られる側ではなく、見る側になった。支援が長引くほど、ロシアが払う代価は重くなる。両国の関係は、その場しのぎの武器取引でもないようだ。

2024年には包括的戦略パートナーシップ条約を結び、2027~2031年の軍事協力計画へ進んでいる。北朝鮮は非常用の弾薬庫から、ロシアの戦争を支える正式な軍事協力国へ変わった。

ロシアのために動いている国は1つもない

プーチンの外交はどうなのだろう。国際刑事裁判所が逮捕状を出して以降、プーチンは主要な国際会議への対面出席を避けてきた。かつては、誰と会うかを選ぶ側だった。いまは、どの国なら安全に入れるかを考え、相手の顔色を読む側である。

2024年6月には24年ぶりに北朝鮮を訪れた。平壌の価値が上がったのではない。ほかの扉が閉じてしまっているのだ。

インドは必要な時だけ原油を買う。中国は安く買い、制裁の危険は負わない。北朝鮮は兵士と砲弾を出す代わりに、ロシアから技術と金を取る。3カ国のうち、ロシアのために動いている国は1つもない。誰もがロシアの弱みを利用し、自国の利益を積み上げている。

一番得をしているのは金正恩である。長く制裁を受け、孤立してきた北朝鮮が、核大国ロシアから必要とされる。兵士と武器を差し出し、金、食料、燃料、技術、外交上の後ろ盾を受け取る。立場を上げたのは北朝鮮であり、選択肢を失ったのはロシアである。

プーチンの自由は、戦争が長引くほど狭くなる

ロシアは今も大国だ。核兵器、資源、軍需産業、広い領土を持つ。だが、その大国が、自分で始めた戦争を続けるために、最も足りない物を北朝鮮から補っている。

力を持つことと、その力を自由に使えることは違う。プーチンの自由は、戦争が長引くほど狭まる。

プーチンは戦争によってロシアの勢力圏を取り戻そうとした。だが現実には、欧州の大市場を失い、インドの判断に原油収入を揺さぶられ、中国に値切られ、北朝鮮の兵士と砲弾を必要とする国になった。

いまプーチンの隣で、口先ではなく血と武器を差し出しているのは金正恩である。新しい友を得たのではない。ほかに頼れる相手が消えたと見るのが妥当だろう。

力を持つことと、その力を自由に使えることは別物である。戦争が長引くほど、プーチンが選べる手は一つずつ消えていく。隣で血を差し出す金正恩だけが、静かに立場を上げている。

文/小倉健一

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