「1日のことを全部書こうとせず、1日のなかの“5秒くらいの出来事”を200字くらいかけて書く」という、古賀及子さんの『5秒日記』。その続々重版!を記念して、俳優・小説家として活躍されている松井玲奈さんとの初対談が実現。
見たこと、聞いたことだけを書く
松井 日記を作品として発表しようって、私は思いつかなかったことでもあるんです。過去にはそういう作品もたくさんありますが、古賀さんがこの形で作品を出そうと思ったのはなにかきっかけがあったんですか。
古賀 そうですね、松井さんもブログとかをずっと書かれていて、ネットで発信され続けていますけど、私もネットになにかを載せるということが好きでずっと続けてきたんですよね。
でも、エッセイだとやっぱり書くのが大変で。日記だったら、昨日あったことを書けばいいから、めちゃくちゃ楽なんです。これならブログも毎日書けるなということに気がついたんですよね。それで、まず日記をブログで書き続けて、せっかく書いたから、ちょっと本にしてみようかなと思って自費出版したんですね。
それは毎日1500字とか2000字とかの普通の日記です。その後出版社からお声がけいただいて、それが書籍(『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』)になりました。
松井 そうだったんですね。
古賀 そうすると、松井さんもさっきおっしゃっていたけど、どうやって書くんですかというふうに聞いていただくようになって。そうしたときに、「自分って日記をどうやって書いてるんだろう」ということを改めて考えたんです。
感想を書かないとか、主語を私にしないとか。そんなことと一緒に、一日の中の5秒のできごとをたくさん集めてるなということに気づいたんですよね。それをツイッターに書いたら、かなり多くの方が賛同してくださって。
そのツイートを見て「北欧、暮らしの道具店」の編集者さんから、「日常の5秒のことだけを書く日記を書きませんか」というふうに打診いただいて、じゃあやりましょうとなったのが「5秒日記」です。私が気がついた方法を、編集さんがこれはいけると思って、すくってくださったってことですね。
松井 すごい、おもしろいです。ちなみに今お話ししていた中で、感想を書かないとおっしゃっていましたよね。それはどういうことなんですか。なにかを食べて、「おいしい」ではない?
古賀 そうそう、「おいしい」って書かないってことです。感想ってあまり種類がないなと思っていて。おいしい、楽しい、うれしい、悲しい、つらい……つまり感情を言葉にし過ぎないってことかな。
おいしくても、そのままおいしいって書くよりは、その料理が何色をしていて、どれくらいの熱さで、どんな匂いがして、どんな味がして、とかを感想という力を借りずに書いたほうが伝わるかなみたいなことを思っていて。
無理に感想を書こうとすると筆が止まるなと思ったんですよね。起こったことにいちいち自分がなにか思わなきゃいけないから。
松井 ああ、はい。思って、そこで一回完結してしまいますもんね。
古賀 うん、そうなんです。すると、その先へも行けない。だから、なにも思わずに次に行くということを続けてきました。さっさと次に行く。で、5秒のできごとを重ねる。見たこと、聞いたことだけを書くということをずっとやってきました。
松井 それを聞いたら、もう一回読みたくなりました。
古賀 やったー。
松井 でも、言われてみれば確かにそうですね。『5秒日記』の中に食べ物の話がいくつか出てきていたのですが、それがどういう見た目だったかとかは書かれていても、味のことは書かれていなかったかもと思って。私、すぐおいしいとか書いちゃうんです。ただ、そこに至るまでをすごく肉づけして書くようにしていて。
古賀 めっちゃ書いてますよね。(『ろうそくを吹き消す瞬間』の中で)中華丼についてとかすごい分量で書いてますもんね。
松井 はい。それで、ちょっと近いところはあるのかもしれないなと思いました。目で見たものをどれだけ読んでくださる人にリアルに伝えられるかみたいなところは私もすごく考えていて。伝われこの良さ、みたいな気持ちで書いているんです。
古賀 すごく腕まくりして書かれていらっしゃる。それって小説家の方の手つきなんだろうなと思いました。
松井 はい。でも自分のためだけの日記にはすぐに、おいしかった、楽しかったって書いているなって。
古賀 でもそれは人に見せない、自分だけのものですからね。
松井 そうなんです、人に見せないものなので。でも毎日日記を書くことって文章を書く筋トレだなとあらためて今日思いました。
給仕は社会活動だという言葉がすごく刺さった
松井 私、雑誌のコラムにも書いたのですが、お正月の話がすごい好きで。「正月が四日目ぐらいになって、食卓に餅を出すべきか否か」みたいな。
1/4(土)
いつまで朝食に餅を食べるか、試されるフェーズに入った。
三が日は迷うことなく餅でいい。そこを抜けた先、どこまで餅を走らせるか。
もし私がひとりの暮らしだったらそこは好きにする。いつだってなんだって、好きなもの、またはその時々の事情に合わせたものを食べる。しかし家族の給仕長を務める身となると話は変わってくる。
給仕は社会活動だ。
自分で食べることと、誰かに食べさせることはまるで違う。「誰か」という存在がいかに「社会」であるかを、家で食事を手配することで常々感じる。うちの人たちは食への熱い希望のないまま出せば食べる人たちだから、私の采配もいっそう重要になってくる。
今日は……餅! と決めた。焼く。
『5秒日記』P.140より
古賀 そうだ、書いてくださいましたよね。
松井「給仕は社会活動だ」と書かれていて、すごく刺さったんです。確かにそうだなって。両親がごはんを作ってくれていたときもそうですし、今、人と暮らすようになってからも。
古賀 ああ、そうですよね。
松井 社会の中で人になにかをしてあげている、役に立っているみたいな気持ちが、ある意味給仕をしているときの気持ちにちょっとつながるところがあって。でも一方で、最後に「餅を焼く」と決めるところにも、わかるってなりました。
そういうときがあるんです、私も。家族のことは知らんがなと思って餅を焼いちゃうようなとき。そこにすごくしびれて、いい日記だなと思いました。印象深かったです。
古賀 よかった。ありがとうございます。
松井 本当に大好きな日記です。でも、この感覚がまず不思議なんです。人の日記を読んで、この日記が大好きだなと思うという感覚が。まず、人の日記って、一般的には隠されているものというか、秘められているものじゃないですか。なので、日記に対してこの感覚が抱けるというのが、まずうれしいなって。
古賀 やった。でも、そうかも。日記って、そもそも公開しない方が多いんですよね。公開しない日記は見てはいけないし、その前提からすると、日記に対してのぞき見るような感覚がわいてしまう。好きだとはちょっと思いづらいですよね。
でも確かに私の日記は、腕まくりをしてねじり鉢巻きで、「どうぞ読んでください!」と駅前で配るぐらいの押しつけて行くスタイルですね。
松井「本日採れたて、旬の日記です!」という。
古賀 そうです、そうです。自分でぐいぐいおすすめしちゃうから、そう思ってもらえるんでしょうね。堂々と好きだと言ってもらえる。それが松井さんにも届いたのは本当にうれしいです。
松井 本当にすごいなと思います。5秒の切り取り方がすてきだなって思う場面がいっぱいあって。私もこういうふうに日記を形にしてみたいなってシンプルに思いました。
古賀 やったー。よかったです。松井さんの日記も編集者の方々は手ぐすねを引いて待っていると思います。
構成=ホーム社文芸図書編集部/撮影=山本さちこ
松井さんスタイリング=乾千恵/ヘア&メイク=菅井彩佳
5秒日記
古賀 及子
書いているうちに“5秒"が面白いと思うようになった。一日のあらましをまとめるのではなく、ある5秒にぎゅっと注目する。200字かけてみっちり書く。
(中略)
娘がまだ小学生だった頃、通っていた作文教室に提出する日記を書きあぐねていたときにこの方法を伝えたら、娘は、なるほどと、それからまだ小さかった手できゅっとにぎった鉛筆をノートに走らせ(娘は文字を書くのが、誰かに追いかけられるかのようにいつも速い)、靴下をはいた状態で玄関に立ち、サンダルと靴、どちらを履こうか悩んだことを書いた。いきなり瞬間の逡巡をとらえたから驚いた。
それで、SNSに「5秒のことを200字で」と共有して反響をいただいたのが2021年のことだ。いよいよ私も腕まくりして、あらためて5秒を見つめて書くようになった。

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