〈松井玲奈×古賀及子〉「引き続き布教していきます!」共演者も次々と「5秒日記」を開始…何でもない“5秒”を書くことで見えてきたこと
〈松井玲奈×古賀及子〉「引き続き布教していきます!」共演者も次々と「5秒日記」を開始…何でもない“5秒”を書くことで見えてきたこと

「1日のことを全部書こうとせず、1日のなかの“5秒くらいの出来事”を200字くらいかけて書く」という、古賀及子さんの日記エッセイ『5秒日記』。その続々重版!を記念して、俳優・小説家として活躍されている松井玲奈さんとの初対談が実現。

『5秒日記』の中で印象的なエピソードや、日記を書くということについての考えなどについて語っていただいた。(全3回のうちの3回目)

本当の意味で生き生きとした、本当に生きてる松井さんがいる

古賀 今回松井さんのエッセイを拝読して、すごく単純ですけど松井さんのことが知れたという感じがします。

やっぱり、テレビにお出になったりとか、ステージで歌われている姿しかイメージが持てないじゃないですか。その姿だけを見て、すてきと思ってるだけだったのが、本を読んで実際に生きてる人だということがめちゃくちゃ伝わってきて、びりびりきました。

何ていうのかな、「生き生きとする」って言うじゃないですか。本当の意味で生き生きとした、本当に生きてる松井さんがいる。そのことを本の中で伝えようとなさってるじゃないですか。

松井 しています。伝わりましたか。

古賀 伝わりました! ちゃんと生きてるし、一人の人間ですよということが。華やかな表現の活動をなさってる方って、なかなかそれが伝わらないですもんね。きれいな様子だけを見せるお仕事ですから。生きてるところがなかなか伝わらない。

なにかそういう切実さが伝わってきて。

松井 うれしいです、そう言っていただいて。本当によく読み解いていただいて、恐縮です。

古賀 いやいや、とんでもないです。本当に切実な筆致が語っているんだと思います。

意外なパイナップル、共感のキウイ

──先ほどの、お正月に餅を食べる話は共感されたというエピソードでしたが、これは私にはなかった考えだな、意外だな、と感じられたエピソードはありましたか。

松井 なんでしょう……あ、パイナップル。

古賀 パイナップルを買い慣れる回かな。町じゅうの人がパイナップルに慣れたという回があったんですけど。

6/29(日)
朝、丸のまま買ってきたパイナップルを切った。すこし熟れすぎたか、実よりも芯が柔らかくて甘いくらいだった。
この家では、缶詰でないパイナップルをたまに食べる。
近所のスーパーがいつかの夏、それは熱心に売ったのがきっかけだった。

安く仕入れるルートがあったのか、産地でとんでもない豊作だったのか、ひとつ100円という謎の激安価格だった。それまで私はパイナップルをさばいたことがなく、それにしてもあんまり安いものだから、買わざるを得ない。調べてみれば切るのもそれほど難しくはなかった。その年は喜んで何度も買った。
翌夏も同じスーパーにパイナップルは並ぶも、さすがにすこし高くなって、その次の年にさらに高くなって、そのまた次の年からは、たまに店頭に置くものの、以前のように熱心には売らなくなった。
この街では、あの歴史的な大安売りの年にパイナップルを買う習慣をつけた家が多いのではないか。こうしてたまに臆さず買えるから、いい経験だった。
                               『5秒日記』P.203より

松井 そう。そんなことがあるのかと思って読みながらびっくりしたんです。私、パイナップルさばいたことないですし、缶詰で食べるものだって思っていたので。そんな、一つのお店が売り出しただけで人の生活って変わるんだなって。

古賀 そう、変わる。

町じゅうの人々の生活が。

松井 それにびっくりしました。あと、これは共感したところなのですが、キウイを半分に切ってスプーンで食べるときに、真ん中が固くてうまく食べられないみたいなエピソードがあったと思うんです。ふだんからキウイは真ん中で切ってスプーンですくって食べていますか。

5/5(月・祝)
昨晩荷物が届き、開けてみると箱入りのゴールデンキウイだった。病気の親戚にお見舞いを送ったところ、そのお礼にと、わざわざ手配してくれた。おおおと家族一同盛り上がった。
しっかり一晩冷やし、今朝、満を持して食べる。……おいしい。
ゴールデンキウイのおいしさは、果物としての絶対的なおいしさはもちろんだけど、緑色の、普通のキウイよりおいしいという相対的な部分にあるのではないかと私などは穿(うが)ってしまう。
普通のキウイはまず、皮がちくちくしている。上手に熟させてから食べないと実が固く、半分に切ってスプーンですくって食べようとすると固い芯にはばまれてうまくすくえない。

すっぱくて、いがいがする。
それに比べたゴールデンキウイの人体への優しさはどうだ。持てばつるんとしてすべすべし、実を掘るスプーンもそれはそれはスムーズに動く、甘い。
隣で息子もうめえうめえと食べていた。
そうして感心するのは、それでもなお、自分はゴールデンキウイではなくただのキウイが好きだと、キウイこそを好物とする人がちゃんといることだ。断固としてキウイ好きを標榜(ひょうぼう)する友人の力強い表情を思い出した。
人間の可能性だと思う。
                              『5秒日記』P.185より

古賀 はい。

松井 ですよね。私もそっちのタイプだったんです。でもほかに出会ったことがなくて。

古賀 えっ、本当ですか。

みんな、丁寧にむいて輪切り?

松井 そうなんです。輪切りにして出てくるんですよ。だから、この描写が出てきたときに、わっ、一緒だ、うれしいと思って。

古賀 私、今日お伺いするまで、全員そうやって食べてると思ってました。何でだろう。

松井 私もそう思っていたんです。でも、家でキウイを半分に割って食べたときに周りから、「なに、それ」みたいな、「何で皮むかないの」って言われて初めて、自分が違うんだってことに気づいたんです。

古賀 知らなかった。私は今初めて気づきました。そうなんだ。わっ、おもしろい。

松井 でも、半分に切ってすくったほうが早いじゃないですか。

楽ですし。

古賀 ですね。あとちょっと楽しくないですか。きわのきわを、ルルルルルルルってね。

松井 そうなんです。私子どもの頃から果物が大好きで、よくキウイを食べていたんです。でも、母が忙しいからむいてられないと。で、多分半分に割って、キウイの皮自体を器にした状態でそれ行けと言って食べさせていたんだなというのを思い出しながら、きっと、古賀さんにもなにか理由があるんだなと思って。

古賀 そうですね。きっと実家がそうだったんだと思います。いやあ、でも、初めて知れた。よかったです、今日は。仲間ですね。

松井 はい。仲間でうれしかったです。キウイを食べるときにいつも思い出したりして。

古賀 私もこれからは松井さんのことを思い出すと思います。これからの人生で思い出すアンカーが埋まりました、今。

松井 うれしいです。

心当たりがある回がみんな違うのがおもしろい

古賀 でも、そうそう。「5秒を200字」で一冊作ると、細かいトピックがいっぱい入るから、読んでくださった方とお話しすると、ここは私もそうなんです、みたいなのがいっぱい聞けるんです。皆さんそれぞれ全然違う。キウイのことをお話しくださった方は初めてですし、心当たりがある回がみんな違うんですよ。それがおもしろいです。

松井 でも、それって、それぞれ生きている場所も時間も違うけど、重なる5秒があるってことなんですよね。それがすごくおもしろいですよね。

古賀 そういうことなんです。ロマンがありますよね。ちょっと奇跡みたい。なにかやっぱり、たわいもないことがすごく大事だなって思うんですよね。人とのバイブスを上げるのも、ものすごく印象的なことだと当たり前だから、たわいのないことで盛り上がりたいですよね。キウイぐらいのことで、私もです、仲間ですね、みたいな感じのことってやっぱりいい。青春ですよね。

松井 大きなテーマで話し合うよりかは、本当に小さなことの一致の積み重ねで、その人のことをよく知ることができたみたいな感じになりますよね。

古賀 本当にそうですよね。他者の理解。だって、松井さんなんて私からしたら、すごく遠い世界の憧れの人で。でも、そういう人とキウイで一つになれたって、尊すぎますよ。よかった、書いて。

松井 私も読んで、すごく古賀さんのことを近くに感じるというか、いろいろなものを見せていただいているなと思って。自分が経験していない誰かの日常をのぞき見て、そこに共感することがある。

さっきも言いましたが、いろいろな人の5秒が重なるところがあるから、今読んだ人たちにもフィットするし、きっとこれから10年後に読んでも、その10年後の人たちにもわかるってなってもらえる、色あせない作品なんだなってすごく思いました。

古賀 書いてよかったです。ありがとうございます。でも、日記って確かにそういう側面ありますね。あのときの暮らしでもあるし、あのときと変わらない暮らしでもあって、それって心強いですよね。確かに、そうやって10年後の人にも読んでもらえたりしたら一番いいな。

松井 きっと共感する方たちがたくさんいるなと思います。長い間読んでいきたい本だなと。本棚にずっと置いておきたい。

古賀 ああ、うれしい。でも本当に、こうやってあちこちでたくさんご推薦していただいたおかげで間口が広がったのは本当にうれしいことで。読者層としては同年代ぐらいの方が多かったんですが、おかげさまで10代、20代の方にも読んでいただけるようになったのでありがたいです。

そういう方ってきっと感覚が遠いのかなって思っていたんですよね。高校生の娘のおかげでなんとなく伝わってはくるんですけれど、分かりきれない世代差はどうしてもありますよね。

でも、若い方が松井さんきっかけで読んでくださったときに、これだけトピックがあるから、ある程度共感してもらえる話があるというのがわかって、本当に心強かったです。

うまくなろうという気概がなくても、おもしろいものが書ける

松井 あと、書くことが流行ってるじゃないですけど、自分の中身を文字に書き起こすだったり日記をつけるということが流行ってきているからこそ、どう日記を書いたらいいかわからないみたいな人が多いのかなって。日記の書き方、始め方みたいなYouTubeがすごく回っていたりするんですよ。

書きたいことはあるけれど、それをどう文字に起こしたらいいのかわからないという人たちにもおすすめだなと。すごくわかりやすく、かつ楽しく、日記ってこんなに楽しく書けるし読めるんだとわかる一冊になっているのではないかなと思います。

古賀 わあ、ありがたいです。この方法で書けば絶対ユニークなことが書けると思うんです。みんなと同じにはならない。それは実感してほしいんですよね。

やっぱり、日記がつまんなくなっちゃうのって、みんなと同じだなという、その無力感とかうまくいかなさだと思うんです。この方法だと、ある程度みんな、誰ともかぶらないものになるんじゃないかと思うんですよね。

それを実感すると、すごい楽しくなっていくと思う。ものすごくうまくなくても、うまくなろうという気概がなくても、おもしろいものが書けるんじゃないかな。

松井 その人だけの視点ですもんね、本当に。

古賀 そうなんです。絶対に違うから。それはみんなわかるはず。自分の何でもない日のユニークさって実感しづらいですもんね。ああ、一日寝て過ごしちゃったなとかちょっと寂しくなったりするときもあるけど、そういう日にも絶対ある。

松井 特別な5秒が。

古賀 あるんですよね。なにかある。なきゃいけないわけじゃないんですけどね。あ、あった! ってことがわかると、ちょっと気も楽になるような気がしますよね。

松井 確かに、どんなに体調が悪くて寝込んでいても、家のどこか遠くから猫がえずく音がすると瞬時に体が動くんです。「ン、ン」みたいに聞こえてくると、はっ! みたいな、そういうことを日記に書いているときがあるんです。それを読み返すとやっぱりおもしろい。ただただ寝ているだけの日にも、とんでもない5秒があるなと思いました。

古賀 ね、そういうことですよ。そういう時間を書けばいい。

松井 実際にこの本を今同じ舞台に一緒に出演している方たちにすすめて、何人かが日記を書き始めているんです。その輪がどんどん広がっていっていて、すごくうれしいんです、私。

古賀 わあ、うれしい。そうですよね。みんなが書くようになると、結構世界の解像度が上がるなと思うので、すごく平和的なことなんじゃないかなと思うんですよね。世界が目に入るというのは。

だから、先輩風を吹かすわけじゃないですけど、みなさんが書かれるというのはすごく興奮しますね。特に演者さんとかだと独特の体験をなさってる方々だし、職業の方法論というか、一般人にはわからないような技術を使って物事をなさってる方々だから、すごくおもしろいんだろうな。

松井 それこそ舞台の上で見た景色の5秒を。以前、本番終わりにその役として日記を書いてみたらいいんじゃないというのを言っていただいたことがあったのですが、すごくおもしろいと思って。それからは印象的なことがあった日に、それこそ一瞬の出来事をわーって書くようになりました。

それによってより作品の解像度が広がったり、その日しか起きないことがあるんだなと気づけたんです。今まで目が合わなかったところでこの人と目がバチッて合ったとか、あっ、いろんなことが起きてる、忘れないようにしなきゃみたいなことに気がつけるので、すごくおもしろいですね。

古賀 すごい。それは本当のその世界にいる人にしか見えないものですもんね。

松井 その瞬間にしかないもので、終わったら忘れていってしまうことなのでちゃんと記録をつけていこうと思って。

古賀 うわあ、貴い。うわあ。

松井 でも、そう思えたのもこの本との出会いというきっかけがあるからなので。本当に出会えてよかったなと思える一冊です。

古賀 いやいや、ありがたい。本当にあちこちでご紹介いただいて応援していただきました。もう本当に心強い。本当にうれしいです。

松井 引き続き布教していきます!

古賀 ありがとうございます。松井さんがどうやって書かれてるのとか、思わぬ方法とかが知れたから、お話を聞けてうれしかったです。前の作品も拝読します。

松井 私も勉強になりました。ありがとうございました。 

構成=ホーム社文芸図書編集部/撮影=山本さちこ

松井さんスタイリング=乾千恵/ヘア&メイク=菅井彩佳

5秒日記

古賀 及子
〈松井玲奈×古賀及子〉「引き続き布教していきます!」共演者も次々と「5秒日記」を開始…何でもない“5秒”を書くことで見えてきたこと
5秒日記
2026/1/261870円(税込)256ページISBN: 978-4834254129習慣で、というよりも、好きで毎日、日記を書く。
書いているうちに“5秒"が面白いと思うようになった。一日のあらましをまとめるのではなく、ある5秒にぎゅっと注目する。200字かけてみっちり書く。
(中略)
娘がまだ小学生だった頃、通っていた作文教室に提出する日記を書きあぐねていたときにこの方法を伝えたら、娘は、なるほどと、それからまだ小さかった手できゅっとにぎった鉛筆をノートに走らせ(娘は文字を書くのが、誰かに追いかけられるかのようにいつも速い)、靴下をはいた状態で玄関に立ち、サンダルと靴、どちらを履こうか悩んだことを書いた。いきなり瞬間の逡巡をとらえたから驚いた。
それで、SNSに「5秒のことを200字で」と共有して反響をいただいたのが2021年のことだ。いよいよ私も腕まくりして、あらためて5秒を見つめて書くようになった。
編集部おすすめ