W杯一色だった日本のスポーツ報道の陰で、ウィンブルドンが静かに開幕した。大坂なおみが2回戦へ進み、望月慎太郎も勝ち上がっている。

そのコートを眺めていて気づいたことはないだろうか——

全員、白いウェアを着ている。全仏オープンはカラフル、全米・全豪も然り。なのにウィンブルドンだけは、コートに立つ選手が例外なく白に統一されている。

この奇妙なルールには、ビクトリア朝時代まで遡る理由がある。

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発端は1880年代。当時のテニスは上流階級の社交スポーツであり、「汗をかくことは見苦しい」というビクトリア朝的な礼節が支配していた。歴史的な背景として、白いウェアは汗染みが目立ちにくいと考えられていたことなどが理由とされている。さらに、白い衣服を清潔に保つには費用と手間がかかることから、白を着こなすこと自体が「上流」の証であったという解釈も広く知られている。1884年、初の女子シングルスでモード・ワトソンが白いロングドレスでプレーし優勝したことが、この慣習の象徴的な起点とされる。

ルールは時代とともに厳格化された。1963年に「主に白」が正式規定となり、1995年には「ほぼ完全に白」へ強化。2014年からはヘッドバンドやリストバンドなどのアクセサリーも対象に。

現在は「オフホワイトやクリーム色は不可、白のみ」で、カラーのトリムは1センチ幅まで、という細かさだ。このルールに歯向かった選手もいる。1985年大会でアン・ホワイトが白い全身タイツ風のウェアでコートに現れ、翌日には主催者から着用を禁止された。ルールの抜け穴を突いた奇策だったが、大会側はすぐさま封じた。

一方で、時代とともに見直しも進む。2023年大会からは、女性選手が白以外の色のアンダーショーツを着用することが認められた。生理中の選手への心理的な負担を軽減するためで、これは長年選手や関係者が求めてきた変更だった。

伝統を守ることと、現代のアスリートの多様なニーズに応えること。他の三大大会が選手のファッションを自由化するなか、ウィンブルドンだけが「白」を死守している。主催者のオール・イングランド・クラブは、ドレスコードはファッションのためではなく、選手やプレーそのものに注目を集めることを目的としていると説明している。130年越しの白いルールは今も静かに、しかし確実に揺れ動いている。

文:SPORTS BULL(スポーツブル)編集部

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