ある日、友人が突然「鳥とかもさ、やっぱりイケメンが好きなんだよね……」とつぶやいた。あんまり唐突だったので「何事?」とやや取り乱してしまったが、東京上野の国立科学博物館で開催していた『ダーウィン展』で、そのようなことが展示されていたのだという(現在、東京展は終了。
9月21日まで大阪市立自然史博物館で開催中)。

パネルに「鳥もイケメンが好き」と書いてあったかどうかはさておき、『ダーウィン展』というからには“性淘汰”に関する記述を見たのだろうということは予想がついた。人間だけでなく、自然界全体で“格好いい異性”“強い個体”はやはり人気があり(選り好みをするのはメスの方)、そういった選択の繰り返しで種はよりよい進化を遂げてきたというのが、たしか性淘汰だったと記憶している。

人間の世界では好みは千差万別、私などもいわゆる“イケメン”にはあまり心惹かれない嗜好性の持ち主であるが、自然界の生物にも種によって様々な好みがあるらしい。長谷川眞理子著『クジャクの雄はなぜ美しい?<増補改訂版>』(紀伊国屋書店刊)に興味深い記述が載っていたので、その中からいくつかの“選り好み”例をご紹介します。

(1)尾が長いほど魅力的
コクホウジャクという鳥のオスは、繁殖期になると尾羽の一部を50センチほどに伸ばして飛び回る(メスは7センチほどしかない)。そこで、アンデルソンという研究者が、何羽かのオスの尾を短く切り、その切り取った分を別のオスにくっつけてみる実験を行った。結果、尾を長くしてもらったオスの繁殖回数はぐんと上がり、コクホウジャクは尾が長いほど交尾相手としてよく選ばれるということが示された。

(2)プレゼントが重要
ツマグロガガンボモドキは体長2センチほどの小さな捕食性の昆虫。メスはめったに自分で狩りをせず、オスからの貢ぎ物でまかなっている(それを食べている間にオスが交尾する)。メスはこれをちゃんと査定して、受け取ったり拒否したりするのだが、当然大きなプレゼントを用意できるオスはそれなりに力があるオスである。オスの間でも戦術が進化し、他のオスから強奪したり、メスのふりをして近寄り、相手がだまされて餌をプレゼントしたところで奪って逃げたり、まったく食べられないものを蜘蛛の巣などでぐるぐるにギフトラッピングをほどこし、メスがそれを調べている間に少しでも交尾しようとするズルいオスもいるようだ。


(3)立派な家が希望
アオアズマヤドリのオスは、求愛にあたって構築物(あずまやと呼ぶ)をつくり、木の実や花びら、カタツムリの殻、キノコでそれを飾り付け、メスがここにやってきて交尾をする。オスが配偶者として選ばれるためには、あずまやに立派な飾りがたくさんついていることが大事であり、特に人気の装飾はカタツムリの殻と青い羽だという。

人間で言うと、(1)は見た目&雰囲気重視、(2)はプレゼント重視、(3)センス重視といったところだろうか。当然、自然界ではどれも、力が強いオスがメスに選ばれて「種を残す」ための選り好みなわけだが。
『クジャクの雄はなぜ美しい?<増補改訂版>』には他にも様々な例が載っており、読みやすくキャッチーなので、学生時代以来、ひさしぶりに生命の進化の神秘に触れてみたい、という人は是非読んでみては?
(磯谷佳江/studio woofoo)

『ダーウィン展』HP
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