日常生活において、ついつい他人の悪口を言ってしまうということがあると思います。
会社で上司の悪口を言ったり、直接相手に言ったり、最近では、Twitterなどネット上に書く人も少なくありません。

では、悪口というのは、法的にはどこからがアウトなのでしょうか。簡単に、名誉毀損罪と侮辱罪について説明しながら解説していきたいと思います。
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■「悪口」といってもいろいろな類型がある
一口に「悪口」といっても、単なる不平・不満の場合から、事実無根の中傷もあり、また、何かに対する批評ということもあります。
悪口というのは当然法律用語ではなく、どのようなことが言われているのかを分析しないと、その実態は分からないということになります。では、どのような観点で、このような類型を分析をすればよいのでしょうか。

■名誉毀損になるのはこんな時
しばしば、悪口を言われたり、批判をされたりすると、「名誉毀損だ!」と息巻く方がいますが、名誉毀損とはそもそもどのようなものでしょうか。


名誉毀損罪というのは、公然と事実を摘示して、人の社会的評価の低下を招くことをいいます。ただ、実際にはそれだけで判断されるのではなく、社会的評価の低下があるとしても、その違法性がなくなる事由があるのかどうか、という点を検討することが重要になります。
以下の事項を「全て」満たす場合には、違法性がないとして名誉毀損とはなりません(これを違法性阻却事由といいます)。
(1)公共の利害に関する事実に係ること

(2)もっぱら公益を図る目的であること

(3)摘示された事実が真実であること
名誉毀損では、「公然と事実を摘示」することが重要な要素となっています。これは、インターネット上に書けば当然に満たすことになりますが、たとえば複数人のLINEグループ内であっても、また、複数人がいる前で話をしても、満たす可能性があります。
ところで、たとえば単なる意見・論評、感想のような場合は、事実の摘示がないケースがあります。
その場合は、名誉毀損罪となることはなく、侮辱罪が成立し得ることになります。

 ■例えばの話で考えてみる
公然と行っていない場合、たとえば2人しかいないところで面と向かって悪口等を言われた場合は、名誉毀損も侮辱もその要件を満たさないので、成立することはありません。
他方で、陰口などを言われた場合でも、それがネットに書かれている場合や、複数人の間で言われていたような場合には、名誉毀損や侮辱が成立する余地があります。どちらが成立するのかは、そこで言われた内容によります。
※ちなみに、ネットに書かれているのであれば証拠があるのでよいですが、そうでない場合は証拠がなかなかないでしょうから、立証上、これを立件することは困難だろうといえます。
たとえば、「AさんはBさんのお尻を触っていた」というのは、お尻を触っていたという事実が摘示されているので、名誉毀損罪になり得ます。
他方、「Aさんはいやらしい」というのは、事実が摘示されていないので侮辱罪になり得ます。
次に、本当にAさんがBさんのお尻を触っていたとすれば、それは強制わいせつ罪などになり得るものなので、それを指摘することは公共性があるといえますし、そのようなことをやめさせることが公益にも適うといえるので、公益目的もあるとされる可能性があるでしょう。
問題は、本当に触っていたのかどうかという点です。この点が本当であれば、違法性阻却事由があることになるため、成立しないことになります。
細かく言い出すとさらに色々なことを検討する必要がありますし、民事での検討はより複雑になってくることもあります。
しかし、Twitterなどで侮辱的な発言をしている方は相当多いように見えます。
発言には責任を伴うということを意識する必要があるのではないかと思います。

*この記事は2015年4月に掲載されたものを再編集しています。
*著者:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)
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