人が車両によじ登って感電するという事故が東海道新幹線で発生。この場合は意図的な自殺行為の可能性も伝えられていますが、車両に登って意図せず感電する事故もしばしば起きています。

なぜ架線で危険な鉄道車両の屋根に登ってしまうのでしょうか。

鬼ごっこで登った例も

 2014年11月15日の午前6時頃、新横浜駅で出発を待っていた東海道新幹線「ひかり」493号へ男が登り、交流2万5000Vの電気が流れている架線で感電。およそ1時間にわたって東海道新幹線の運転が見合わされ、登った男性は全身にヤケドを負いました。NHKの報道によると、登った男性は警察官に「死にたかった」と話していたそうです。

 この場合は自殺の可能性が考えられますが、線路上空に張られ、電気が流れている架線によって感電する事故は、断続的に幾度となく発生しています。以下に近年の事例をいくつか記載します。

 1998年7月9日の午前2時過ぎ、JR日豊本線の幸崎駅(大分県佐賀関町(当時))で遊び仲間の男女6人のうち4人が、停まっていた車両に登り感電。助けようとした1人も感電し5人が重傷を負うという事故が発生。6人は高校生を含む未成年で、「友達が燃えている」という110番通報がありました。日豊本線の架線には交流2万Vの電気が流れています。

 2002年3月9日の午前1時前、JR日豊本線の中津駅(大分県中津市)で18歳のアルバイト男性が十数人の知人と列車を待っていたところ、男性は知人に制止されながらも停まっていた車両の屋根に登り、立ち上がろうとして感電、死亡したという事故が起きています。日豊本線の架線には交流2万Vの電気が流れています。

 2008年8月1日の午後10時前、JR常磐線の高萩駅(茨城県高萩市)周辺で鬼ごっこをしていた少年3人が線路へ進入。停まっていた車両の屋根に登り1人が感電、重傷を負うという事故がありました。常磐線の架線には交流2万Vの電気が流れています。

 不注意で釣り竿が架線に接触して感電するといった事故もしばしば発生していますが、このように鉄道車両の屋根に登って感電というのは明らかな危険行為です。どうしてこのようなことをしてしまうのでしょうか。

「電車」と言うのがダメ?

 なぜ鉄道車両の屋根に登るのか、鉄道ファンたちに意見を聞いてみました。

「インドやバングラディシュで、列車の屋根や側面、前面にまでも人が鈴なりになっている写真が『おもしろ画像』的にネットで紹介されてますよね。こういうのを見て、そうした行為に対する危機意識が鈍っているのかもしれません」(30代男性)

「そういう『おもしろ画像』は多くの場合、架線のない非電化区間ですよね。だから屋根に立っても感電しないけれども、架線のある電化区間はそうはいかない」(40代男性)

「一般人は鉄道車両をなんでも『電車』って言うじゃないですか。電気をエネルギーにして走る車両が『電車』なのに、ディーゼルエンジンで走るディーゼルカーも『電車』。これが良くないんですよ。これではなぜ『電車』なのかを意識しない。

つまり、電気が流れていて近寄ると危険である架線の存在を意識しない。頭にない。『電車』と『ディーゼルカー』の使い分けをきちんとするようになれば、架線の存在を日頃から意識するようになって危機意識も高まるのではないでしょうか」(20代男性)

 地下鉄などには架線ではなく、レールの隣に設置した送電用レールで電気を供給する「第三軌条方式」というのもありますので、架線がないから感電しないとは限りませんが、鉄道の架線は身近にある、一歩間違えれば大変危険なものです。そこには高圧の電気が流れていること、触らなくとも近寄っただけで感電する可能性があることなど、その場の雰囲気で調子に乗ったとしても夢にも思わないよう、日頃から正しく認識しておくことが重要なのは確かでしょう。

 ちなみに感電とは無関係に、鉄道ファンの世界で「『ディーゼルカー』を『電車』って言うな!」はよく聞かれる言葉です。