こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。今回は大人気漫画を通じて、日本が置かれている状況を解説します。



 諌山創氏の『進撃の巨人』は、人をむさぼり食う巨人とそれに立ち向かう人類の戦いを描いた大ヒット漫画で、テレビアニメ、実写映画などメディアミックス展開が行われています。以前、僕はこの作品に対する見解をコラムに寄せたことがあります(「週プレNEWS」2013年10月27日掲載)。当時は、人類が高い壁に囲まれた地域の中で生活しているという作中設定が、現在の中国を反映していると分析したのですが、今回は、同時に日本の現状も描かれている、という点に触れてみたいと思います。

 作中設定によると、人類が住む壁に囲まれた地域の総面積は、日本の総面積にほぼ匹敵します。この話は以前より中国のネット掲示板で話題になっていますが、つまり『進撃の巨人』の舞台は日本をモデルにしている可能性があります。2013年には、諌山氏の公式ブログがハングル語で荒らされるという事態が発生しましたが、これは登場キャラの「ミカサ」の名前が旧日本軍の戦艦から取られていたこと、「ピクシス司令」のモデルが明治期の日本軍人・秋山好古であることが原因だったようです。


 また、『進撃の巨人』の登場人物の大半は西洋系のイメージで描かれていますが、ヒロイン格のミカサは黒髪の東洋系の人物として描かれています。作中では東洋人は減少しているという設定ですが、その名前といい、僕はミカサには、今後少子化による人口減少が予想される日本人のイメージが投影されていると思います。

 諌山氏は、Twitter上で日本の朝鮮統治を支持するような発言を行ったこともあり、こうしたところから推測するに、愛国・保守的な人物なのかもしれません。おそらく、日本という国を重ねて描いているのでしょう。

■作中で暗示される日本と中国の現状

 本作からは日本のみならず、中国の“におい”も感じ取ることができます。

 巨人から人類を守る壁は三層存在するのですが、最も外側にある地域は「シガンシナ区」と名付けられています。
「シナ」、すなわち「支那」は現代では差別語とされる中国を表す言葉であり、それが最も外にあるという点においても、中国と日本の位置関係を表しているかのようです。

 また、人類を統治する政府は、「巨人から人類を守る」という大義を振りかざして腐敗政治を行っているのですが、これは外国を仮装敵国として独裁政治を行う中国政府を連想させます。作中では「壁の外の世界は美しい」と記された書籍が禁書扱いされ、所持したり人に広めようとする人物は捕らえられてしまうのですが、これは中国政府による思想弾圧のようです。

 そして、人類を取り囲み襲撃する巨人たちは、日本を取り囲む中国、アメリカ、ロシア、といった大国をイメージしているのかもしれません。日本はこれらの国々と比べると国土、軍事力ともにあまりに脆弱です。しかし、日清戦争や日露戦争時、当時の日本人は努力の末、自国より国土や人口がはるかに勝る相手に打ち勝ちました。
日本人は巨大な敵にも果敢に立ち向かう勇気と力を持っており、本作においても、こうしたかつての戦前の日本を重ねているところもあるのかもしれません。

 以上のことから『進撃の巨人』が人気作品となった要因は、現在の社会事情が作品の至るところに反映され、その要素が作品の世界観に迫真性をもたらしたからだと、僕は推測しています。 

●そん・こうぶん
中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。