先日のAKB48のドキュメンタリー映画のレビューで、「観終わったあと……自分もAKBのメンバーになりたい! と思ってしまった」なんてことを書いたけれども、そう言った以上、このマンガをとりあげないわけにはいくまい。それは、現在「週刊少年マガジン」にて連載中の「AKB49~恋愛禁止条例~」(宮島礼吏・元麻布ファクトリー著。
昨年12月に単行本第1巻が刊行)である。

物語は、男子高校生の浦山実が、女装してAKB48の第12期オーディションを受けたところ、ひょんなことから合格してしまい、研究生“浦川みのり”としてAKB入りするところから始まる。とはいえ、実がオーディションを受けたのは、AKBのファンだったとか、女装が好きだからとかそういう理由からではない。じつは彼はひそかに思いを抱くクラスメイト・吉永寛子が、AKBのオーディションを受けると知って、その夢を後押しするため一緒に受験したのだった。

男子高校生が、女ばかりの集団に潜り込んだのなら、よからぬことの一つや二つしそうだけれども、そういうことは一切なく、実はただひたすらに、寛子を助けるべく行動する。が、それが結果的に“みのり”自身のAKBのなかでの地位を上げる(AKB劇場での研究生公演でいきなりセンターに抜擢される)ことになってしまう。


この作品のなかには当然、AKBの正規メンバーも登場する。似顔絵として見るとそんなに似てはいないと思うのだが、キャラクターの描写にはかなりリアリティがある。たとえば、高橋みなみが、みのりの歌が上手くなりたいという懇願を受けて、カラオケボックスで手取り足取り個人レッスンをつける場面だとか、前田敦子が高熱をおしてステージに立つという、スポ根もかくやというエピソードなどは、いかにも彼女たち“らしい”。このことからは、同作にはかなりの取材がなされていることがうかがえる。

いきなり話は変わるのだが、最近の野球マンガでは、実在のプロ野球選手を登場させることがきわめてむずかしくなっているという。たとえば、広島カープを題材にした石田敦子「球場ラヴァーズ」(「ヤングキング」連載)は、執筆にあたり広島球団から許可はもらっているものの、権利上の理由から実際の球団や選手をそのまま描くことはできないという(単行本第1巻「あとがきにかえて」参照)。
そのためこの作品では、選手ではなく球場にやって来る人たちを中心にして物語が展開されている。

私の子供のときを振り返っても、「リトル巨人くん」「ミラクルジャイアンツ童夢くん」「かっとばせ!キヨハラくん」など、実在のプロ野球選手が登場するマンガは少なくなかったが、上記のような事情を考えると、いまやこの手の作品を大手出版社から出すのはどうも難しいようだ(もちろん、いまでも水島新司の「あぶさん」「ドカベン スーパースターズ編」には実在の選手が登場するものの、これは例外中の例外とみるべきだろう)。

米沢嘉博『戦後野球マンガ史』によると、野球マンガのなかに実在の選手が登場するようになったのは昭和30年代、長嶋茂雄がジャイアンツに入団する前後のことらしい。少年誌は長嶋人気にあやかろうと次々とタイトルに「巨人」「ジャイアンツ」と入れ込んだ作品を企画、球団側も子供の人気獲得策として積極的にこれに応じてゆく。その流れのなかで、昭和40年代に入ると梶原一騎・川崎のぼるによる「巨人の星」が登場、現実の野球界の動きをビビッドに取り入れることで従来の野球マンガ以上のリアリティを獲得した同作は、掲載誌の『週刊少年マガジン』を100万部雑誌に伸し上げる推進力にもなった。

それから40年あまり経って、マンガに実在のプロ野球選手が登場することはかなわなくなった。
それと入れ替わるように、実在のアイドルグループのなかへ架空の主人公が飛び込むという作品が少年誌に登場したのは興味深い。

思えば、AKBのような束モノアイドルに見られる「チームの結束」や「メンバー間での激しい競争」は、かつて野球マンガでさかんに描かれたテーマではなかったか。さらにいえば、実在の球団や選手を描くことを許可しなくなったプロ野球に対し、AKBはゴシップ誌を含めあらゆる媒体から取材や企画を受け付けるという、かなり寛大なメディア戦略によってファン層を拡大してきた。『マガジン』での「AKB49」の連載もその一環であることは言うまでもない。

そう考えていくと、「マガジン」におけるかつての「巨人の星」の位置づけと、現在の「AKB49」の位置づけは、野球とアイドルというジャンルこそ違えきわめて似ているのではないか、という気すらしてくる。「巨人の星」の主人公・星飛雄馬は物語の冒頭で、入団会見にのぞむ長嶋茂雄に向かって、父親である星一徹仕込みの“魔送球”を投げ込み挑発してみせたが、「AKB49」において“魔送球”に相当するのは、AKBのグラビアで盛り上がる同じクラスの男子生徒たちを尻目に、浦山実(どーでもいいがこの名前からは、どうしても長嶋のライバルだった元阪神タイガースのエース・村山実を思い出してしまう)が言い放つ「なんだよコレ ブスばっかじゃん」というセリフではなかろうか……などと、ふと考えたりしてしまった。
ま、考えすぎでしょうが。

さて、「AKB49」の最初のページでは、AKBが20XX年に全世界での総売上が11億枚を超えるなど、ビートルズを超える存在になったことが予告される。そして世界のスターダムへと彼女たちが伸し上がるまでには、伝説の49人目、“神に推された”メンバーの存在があったというのだが……果たしてそこにいたるまでどんなことがあったのか。その詳細はこれから徐々にあきらかにされていくのだろう。今後の展開が楽しみである。(近藤正高)