すぎやまこういち所有のニンテンドーDSのドラクエのプレイ時間記録は600時間を超えており、インタビューで「ドラクエVの敵、ブオーンなどの中ボス戦闘曲は焦る感じの曲ですね」みたいに聞き手が話を振った時も、すぎやま先生は「ブオーンはすごく大きくて強いから。
かなりのゲーム好きでも有名なすぎやまこういち先生だけど、「亜麻色の髪の乙女」やザ・ピーナッツの「恋のフーガ」などのヒット曲や「ゴジラvsヘドラ」「ガッチャマン」などのアニメや特撮の曲など、本当に多岐にわたる活躍をしてきている。本書ではドラクエを中心に置きつつも、すぎやまこういちのキャリアや人間そのものにもかなりのページを与えていて面白い。
すぎやま全仕事からセレクトした176枚ものレコードジャケット図鑑はカラーで一言解説付き。本人がたっぷり語る「生い立ち」についてのインタビューは、ドラクエに出会うまでで20ページ以上!現在80歳の彼が「防空壕が近所に無かったから避難もせずに麻雀とかカードゲームをして過ごしてた」と戦争を振り返ったり、ドラゴン以外のすごいクエスト体験が満載。
堀井雄二や中村光一といったドラクエ重要人物の面々との対談や、本人が語るドラクエ音楽など、テキストの充実が素晴らしく、「ドラクエ25周年に便乗した本」みたいな薄い感じではない。「本人も納得の出来」になっているんじゃないかなと思います。
ドラクエ音楽の演奏や録音に関わっている東京都交響楽団との会話では、すぎやま曲が「ヤバイ」「キツイ」と、その演奏難易度の高さが演奏者から語られていたり、中村光一との対談では、ドラクエ3でピラミッドが登場するきっかけになった「ドラクエ2の打ち上げ旅行」の旅行先のエジプトでのエピソードなど、ゲームを起点に全方向へと様々な世界が広がっている。
ドラクエを過度に神格化しても仕方ないと僕は思ってるのだけど、「ドラクエ1の音楽とレベルアップ時の効果音などは1週間で作られた」などのエピソードを改めて読むと、やっぱり「すごい!」と思ってしまう。25年通用する音を1週間で作った彼も、それを25年間貫いて、しっかりした歴史をゲームという比較的新しい文化の中で作ったドラクエ自体も、しっかりしてるなあと。
テキストだけじゃなくてビジュアルもいい感じです。
そして最後に是非書いておきたいのが付録DVD。おなじみのドラクエ「序曲」がすぎやまこういち指揮、都響が演奏している模様が収録されているのですが、その長さ2分!たった2分の演奏を収録するためにDVDが付録でついているということに僕は驚きを隠せなかったです。贅沢だよなあ。ソフト容量の制約とまったく戦わないドラクエがここにある!
『すぎやまこういちワンダーランド』は雑誌「WiLL」12月号増刊として980円で発売中です。
(香山哲)