朝、近所のコンビニで『ゲッサン』を買って、あだち充の最新作『MIX』を読む。
今年の5月から始まった、毎月12日の恒例行事です。

最新12月号に掲載された第7話は、主人公である立花投馬が、妹の音美のため、黙々と、苦手なあることに取り組みます。野球の試合もありますが、立花家を中心としたエピソードがメインなので、今回も、世界観を共有する『タッチ』のキャラクターは、登場しませんでした。
まあ、そんな気はしていたんですよね。
先週発売された、『ダ・ヴィンチ』12月号のあだち充特集で、「今のところ、先のことは何も考えてないんだけどね」という、あだち充本人のコメントを読んでいたので。

41ページものボリュームのあだち充大特集。
メインは「あだち充独占2万字インタビュー」です。
しっかり者の母親と、「だらしない、ただの酔っ払い」だった父親の姿を見ながら育った幼少期。
三歳年上の兄・勉の影響で伝説のマンガ雑誌『COM』の常連投稿者となり、マンガ漬けだった高校時代。
19歳でマンガ家デビューしたものの、「自分にはどうしても描きたいものがある……みたいな人ではなかった」ため、編集者に求められるまま、原作付の熱血スポ根や少女マンガを描いていた、約9年間の雌伏の時代。
これら、ブレイク前のエピソードも興味深くはあるけれど、あだち充ファンとして心躍るのは、初オリジナル長編連載『ナイン』から、最新作『MIX』までの作品に関する発言の数々。インタビュアーが、時系列に沿って、マンガ家生活42年のあだち充から、各作品執筆時のエピソードや思いを丹念に引き出しています。

「努力してますとか頑張ってますとか、大声でアピールするのは野暮だなあとずっと思っていたんですよ。
(中略)だから、『ナイン』の登場人物たちも、僕は熱血だと思ってる。ぜんぜん、そうは見えないけど(笑)」(『ナイン』)

「単にかわいい妹を描きたかったんですよ。妹がいない自分の妄想です(笑)。で、スポーツ抜きでどれだけもたせられるかなぁ、というところではじめたんですけどね……持ちました!」(『みゆき』)

「あだち充の芸が一番出てる作品です」(『スローステップ』)


基本的には、自然体で飄々とした受け答えなのですが、時折、作品に対する強い自信や、ポリシーを感じさせる言葉も。

「マンガの登場人物が亡くなったのは、初めてだったんです。マンガの中とはいえ、人が死ぬといろいろ考えますよね」(『タッチ』)

「野球の試合も、これが今までで一番ちゃんと描いてるんじゃないかな? 野球の部分も結構よくできてるなって、自分でも思う」(『H2』)

「『タッチ』から十何年もたってるし、僕自身も成長というか人生を経てきているわけでね。似たようなエピソードを持ってきても、前と同じようには描かないだろうと自分を信じてやってみました」(『クロスゲーム』)


また、2004年に亡くなった兄・勉への複雑な思いと、影響の大きさも垣間見えます。

「兄貴がガンになって、なかなかマンガがシリアスなほうにいけなかったんですね。(中略)現実に死に向き合ってる人間が身近にいると、マンガでもそれをやるのは辛くて」(『KATSU!』)

「まあ、こんなひねくれたかたちでしか描けませんけどね。本当に大きいですから、兄貴の存在は」(『QあんどA』)


最新作の『MIX』については、「今描いてるマンガの話はあまりしたくないなぁ」などとつぶやきつつ、「ヘンに裏切ったりするのはイヤだし、読者の想像を刺激する部分は刺激させてあげようという感じですかね」と、我々あだち充ファンの期待と妄想を膨らませる言葉が。でも、最初に引用したコメントのとおり、著者本人も、先の物語は見えてないそう。『タッチ』のキャラクターが、早々に登場することはないのかな、というのが僕の印象です。


『MIX』に関する最大のスクープは、タイトルに込められた意味の真相でしょう。
僕は、2つの家族が混じり合っている立花家の状態を表しているのだと確信していたのですが、全然違いました。
正解は、インタビューを読んでのお楽しみということで。

ここでは、特に印象的なコメントの数々を引用しましたが、それでも、ほんの一部だけ。
なんせ、2万字インタビューですから。
全文を読むことで、ブレイクから20年以上も、少年マンガのメインストリームで、コンスタントにヒットを飛ばし続けている、秘訣も分かります。
野球と同じく、「素振り」って大切なんだな~。

その他、ヤクルトスワローズファンで知られるあだち充と、元スワローズの選手&監督だった古田敦也の対談も掲載。『H2』で主人公の国見比呂とバッテリーを組む野田敦のモデルが、古田であるという噂の真相や、『タッチ』の上杉達也の投球フォームのモデルも判明します。
また、キャイ~ンの天野ひろゆき、360°モンキーズの杉浦双亮と山内崇ら、5人の野球マニアが選んだ「あだち作品ベストナイン」も、なかなかポイントを突いた選出。最終的にベストナインには入ってないものの、候補の一人として『ラフ』の緒方剛の名前が出てくるあたり、あだち充ファンとしても好感がもてますね。
DHに須美工の大熊が選ばれているのに、新田明男が選外であることには、ちょっと納得いかないのですが……。


マンガ研究者の斎藤宣彦が、コマ割りや、独特のナレーションといった表現技法について解説した「あだち充スタイル徹底分析」など、さらにマニアックな企画もあり、あだち充ファンのサブテキストとして、長く重宝しそうな一冊です。
でも、『MIX』も完結した後、10年後くらいには、2度目のあだち充特集が読みたいなあ。
(丸本大輔)
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