「ニンニクヤサイ」「アブラカラメ」などの「呪文」、大盛り野菜に普通のラーメンの倍以上の量がある太麺。主に関東地方で暖簾分けしているラーメン店「二郎」である。
そんな二郎が好きなジロリアンの一人、お笑いコンビ「しずる」の村上純氏によるトークライブ『ラーメン二郎ナイト 〜世界に愛を叫びますか?それとも、ニンニク入れますか?〜』が11月28日、阿佐ヶ谷ロフトAにて開催された。11月30日発売のムック『TRY認定 第12回ラーメン大賞 2011-12』で村上氏が二郎を紹介しており、その連動ライブでもある。
ライブはおよそ3時間。ラーメン、しかも二郎だけでそんなに語ることがあるの? あるんですよー3時間じゃ足りないくらい。
客層は女性ファンとジロリアンらしき客で半々。まずはあまり二郎を知らない非ジロリアンゲストとしてお笑いコンビ・ライスの関町氏、同じく天狗の横山氏が登場。
乾杯の音頭は「ニンニク入れますかーーー!」。
ニンニクは二郎にある無料のトッピングのひとつ。希望すれば刻んだ生ニンニクの他、野菜やタレ、背脂も増してもらうことができる。トッピングの確認を「コール」と言い、この時、店舗ごとに違いはあるが「ニンニク入れますか?」と聞かれるのだ。
例えば、「ニンニクヤサイ」と答えればニンニクと野菜、「アブラカラメ」と答えれば背脂とタレを増してもらえる(カラメは塩辛い方の"辛め")。
村上「他、何が乗ってると思います?」
ゲスト「チャーシュー?」
村上「バーカ! 二郎では豚って言うんだよ!」
ひぃ、ジロリアン怖い。実際は「チャーシュー」って言っても怒られないけど、二郎の豚ってぶ厚くてゴツゴツしてる。見てもらえばチャーシューとはなんか違うな、って分かると思う。ちなみに豚を増したい時はコール時ではなく、最初に「豚」の食券を買う。さらにその倍の「豚W」がある店もある。
村上氏と二郎の出会いは高1の頃、旧赤羽二郎(現フジマル)。最初は美味しくて感動したけど、いくら食べても減らない。遂に嫌悪感すら抱き、食べ終える頃には「マジでやだ」。でも次の朝起きると、二郎のことを考えている自分がいたという……。俺も初めて食べた時、やっぱり量が多すぎてわけ分かんなかった。
二郎は本来「直系」という暖簾分け店を指すが、二郎と似たスタイルのラーメンを出す「インスパイア系」も存在する。37ある直系店のうち、村上氏が行ったのは20店ほど。ホーム(ジロリアンがそれぞれメインに通う店舗)のフジマルは直系ではなく、最近、直系を知らずして二郎と向き合ってると言えるのか考えるようになり、直系の全制覇を目指し始めたという。俺も現在14店舗、全制覇を意識し始めたのもこの1年だから、二郎道を歩む仲間みたいで嬉しい。
アイドルの鈴木凛さんも「二郎に並ぶ時はディズニーランドよりワクワクする!」と登場。時には開店前から並ぶ、通称"シャッター"をするほどのジロリアンだ。体型維持のため「二郎を食べたらその日はもう食べない」「前後数食は抜いたり減らしたりして身体を作る」という二郎スタイルはアイドルならでは。
凛さんのデビューは仙川店。ここでまたホームの話題になり、客席に「みなさんのホームは?」と問いかけられると競りのように挙手し始めるジロリアン達。俺も張り切って手を上げ「野猿!」とホームをアピールしておいた。(「のざる」ではなく「やえん」。
後半になると、一際突き抜けた二郎スタイルの持ち主、ハラキリオブジョイトイ氏が登場。巨体に色メガネと、名前も見た目も凄いベーシストだ。アニメ「ふたりはプリキュア」のTシャツを着いたので個人的にとても親近感が湧いたが、Tシャツは最後まで誰にも突っ込まれなかった。
お酒を飲んで、うみゃい(・∀・)とかわいい声で叫ぶハラキリ氏。ブログでの定番らしく、二郎を食べる時も言う。でも食後は「ゲフゥーごちそーさん」。なんだこのギャップ。
通うペースは「行けるだけ」、食べる量も壮絶で、ただでさえ多い二郎のさらに2~3倍はあろうかという写真をバンバン繰り出してくる。凄まじいポテンシャルだが、「みんな食べるといいよ」と優しく語りかける姿に、ひたすら二郎が好きで大切にしたい……という二郎観を感じた。
続いて経営学者でジロリアン、『ラーメン二郎にまなぶ経営学』の著者、牧田幸裕教授が登場。その一文を読む村上氏。
<二郎の豚に対峙すると豚からこんな声が聞こえてくる。「チャーシューって2次元の薄いモノだと思っていなかったかい? そんな常識にとらわれるなって。ラーメンは融通無碍。こんなチャーシューがあってもいいだろう? 腹一杯食べてくれよ。自分の胃に自信があるから、『豚W』を選んだんだろ。食べきれるかな? さあ、今から勝負だ!」(中略)僕の頭はおかしいのだろうか。
村上「おかしいよ!!」
うん、おかしい。でもこれ、二郎の成功の秘訣が具体的に分析さてるし、二郎についてかなり詳しく書いてあって面白い(各店舗の駅からの距離をグラフで解説してたりする)。ジロリアンは必読だと思う。二郎の人気の理由を授業スタイルで説明する教授、講義でも学生の頭を柔らかくするため二郎の話をするという。低くて心地よい教授の声も相まって、会場が真剣なムードになってきたところでジューシーズのケンちゃんこと赤羽健一氏も乱入。
「ずっと待ってたんだけど!」と沢山しゃべりたそうだったけどライブは終盤。
ここで村上氏、「野猿の野口店主から差し入れをいただきました」と、袋入り極太生麺をドン!
客席からは「オーション!」とはやし立てる声。オーションとは、二郎で使われている小麦粉(強力粉)の銘柄。客が小麦粉の銘柄を叫ぶトークライブが他にあるだろうか。
そして急遽ステージに呼ばれる野口氏。自分のことではないのになぜか誇らしい。力いっぱい拍手していると、目の前を通った時に目が合い「おっ」と微笑んでくれた。覚えてくれているようだ。
野猿にはよく行くが、コールとごちそうさま以外で店主と口を聞くことはない。客と店員は二郎で語るからだ。とはいえ直々にあれこれお話してもらえるとなるとテンションが上がる! こんな気持ちにさせる二郎は、ジロリアンにとっては食べ物以上の存在なんだよ。
「人を殺すごはんを出す店長です!」と村上氏。「西の横綱」と言われ、二郎の中でも盛りが凄い野猿。
野菜は、野口氏の後にご両親が開業した二郎新小金井街道店の盛りが多くそれに影響を受けたとのこと。ちなみに、普通のラーメン屋を営んでいたご両親が引退し、その店舗で野口氏が野猿二郎を開業したというのは八王子では有名な言い伝え。
「明日には味変わってる」「結局何でもいいんだよ」そんな事を言い出す野口氏だが、いい加減に作っているのではない。親父さん(山田総帥のほう)の「美味しければいい。食べてる人と作ってる人が幸せだったらそれでいい」という言葉を忘れないからこそ何でもいいと言えるのだ。
あれ、今日はお笑い芸人が「二郎の話をするから笑ってくれ」って話じゃなかったのか。なんでこんなに心打たれて泣きそうになるんだ……。
人を幸せにしたいという気持ちが丼を溢れさせる。そんな二郎に向きあい、受け止めるジロリアンの心も優しさで溢れる。村上氏は今夜、笑われることでそれを伝えたかったのではないだろうか。
「帰るまでが二郎です。今日のライブを観て、二郎を食べなくても、興味持ってもらえたらいいなって思います。二郎が好きな人と、これから二郎を好きになった人は、またここに集まってそれぞれの二郎を語りましょう」
会場は温かい拍手に包まれ、芸人から経営学者、二郎好きと二郎を知らなかった客が調和し、一杯の二郎のようになった。
以上レポっす。
(芹沢たすく)