2014年1月期の月9ドラマ「失恋ショコラティエ」(CX 月曜9時〜)。
3月に入りまして、物語はいよいよ佳境です。

そこでここでは、本日(3月3日)放送の8話を前に、今までの恋のゆくえをおさらいしてみましょう。

このドラマは、嵐の松本潤演じる主人公・爽太が、10年以上、ひとりの女性・サエコ(石原さとみ)を思い続ける一途な恋の物語です。と言うと、汚れなきピュアな物語を想像しますが、それがちょっと違うところがおもしろさです。

はっきり言って、主人公・爽太は倫理に反した男です。

まず、サエコは夫のある身です。それでも、爽太は諦めることができません。


それに関しては、好きなのだから仕方ない。最初に好きになった時はサエコも結婚していなかったのだし、サエコに好きになってもらうために、サエコの好きなチョコレートを作る仕事につき、その技術を磨いて、一流のショコラティエになっていくので、倫理に反した恋も生きる原動力にしているという意味では、ありです。

こうやって、僧侶のように、仕事一筋に生きているのなら、なんて清らかなの!ステキ!とうっとりするところですが、爽太にはサエコのほかに、フィジカル面のパートナーえれな(水原希子)がいるのでありました。

サエコへの悶々とした思いを、美人モデルのえれなで補完しているのです。
それってどうよ?ですよね。
辛い辛いと嘆かれても、非モテからみたら、ふざけんな、であります。


しかもです。
長年の恋を諦めて、えれなとつきあおうとした途端、サエコに気のあるそぶりをされた爽太は、ちゃんと失恋する。けじめをつける。という舌の根も乾かないうちに、サエコへの思いが再点火してしまう、というところまでが7話です。

原作漫画は現在7巻まで発売中で、そこでは
爽太とサエコとえれなの関係性が小動(こゆるぎーー爽太の苗字)どころか大動(おおゆるぎ)しています。

その後、まだまだ物語は続いていて。
先が気になって気になって、連載中の月刊Flowers(小学館)まで購入してしまいました。
が、が、こちらもまだ爽太、サエコ、えれなたちの思いは揺れています。

というか、この物語、登場人物がほとんど不安定な片思いに苦しんでいます。
タイトルは「失恋ショコラティエ」ですが、
主人公は失恋していません。
本来なら、失恋して、全部壊してゼロになって、新たにはじめることが大切なのに、それをしないで、ずっと片思いモラトリアムを続けているのです。

というわけで、ここで、主な登場人物の状況を、まとめていきましょう。


主人公・爽太(松本潤)
高校の頃から、サエコに憧れて11年。
サエコの好きなチョコレートを作る仕事に就く。
サエコを振り向かせようと、いろいろな手を使いつつ、えれなとも仲良くしている。

サエコ(石原さとみ)
爽太の思い人。高校時代から、学校の人気者と次々つきあってきたツワモノ。
爽太をナンバー2のようにして、つきあっていたこともある。

爽太がショコラティエ修行を終えてパリから帰国後、編集者と結婚。
夫との仲がいまひとつで、爽太とチョコに癒してもらっている。
際立った美人ではないが、男の人にすかれる術を熟知している。


えれな(水原希子)
爽太と意気投合し、フィジカルな関係を結ぶ。
ミュージシャンに恋していたが、相手が妻子のある身だったため、諦める。
サエコを諦めようと決意した爽太と、改めてつきあおうとするが・・・。

人気美人モデルだが、性格がサバサバし過ぎていて、モテないらしい。

薫子(水川あさみ)
爽太のチョコレートショップの従業員。
爽太のことが好きだが、口に出せず、爽太の恋愛騒動を横目で見ては、何かと苛立っている。
自分からは行動しないとかたくなに思っているため、サエコの男性視線を意識した言動が気に障ってならない。

爽太と結婚した夢の中で「もう安心だ」とつぶやくエピソードがあるが、「安心」という言葉を使うところに作家の、女性心理の細かさを感じる。


関谷(加藤シゲアキ)
爽太のライバル店RICDORの店員。店長の六道(佐藤隆太)に焚き付けられて、薫子と連絡をとり食事やメールなどしているが、あまりマメでない。

演じている加藤シゲアキは、ジャニーズはじめての小説も書けるアイドル。この哲学的なドラマにはピッタリの思索的な雰囲気があります。

オリヴィエ(溝端淳平)
爽太の留学先の一流店の御曹司。日本に来て、爽太の店で働いている。
物語の中で最も良識的な人物。
人の気持ちもよく理解し、薫子の思いを唯一知っている。
爽太の妹のまつりとつきあっている。唯一の
両思いだが、まつりにはちょっと問題があって。

まつり(有村架純)
爽太の妹。
友達の彼氏とずるずるつきあっていたが、オリヴィエに告白され、つきあいはじめる。

余談ですが、有村架純って、「あまちゃん」のゴーストシンガーや「SPEC」の愛人役のせいか、日影の女イメージがあるんですよね。

六道(佐藤隆太)
爽太のライバル・ショコラティエ。ゲイで、爽太のことを気に入っているが、爽太は関谷に興味があると勘違いしている。


以上が、「失恋ショコラティエ」の片思い選手権の出場者たちです。
目下、オリヴィエとまつりが一抜けた状態ではありますが、まつりがどこか不幸体質な印象なので、まだまだ予断を許しません。

でも、片思いこそが、連続ドラマや漫画には大切な要素です。どうなるの?と次回に引っ張れますから。

ほぼ、全員、片思いという物語は、ドラマや映画化もされた「ハチミツとクローバー」が代表的でありますし、月9の元祖「東京ラブストーリー」もそれに近いものがありました。

古典的片思い作品というと、ロシアの作家チェーホフの戯曲「かもめ」を思い出します。
演劇界では大変有名な作品ですが、生田斗真や藤原竜也主演で上演されているので、ご存知の方も多いと思います。
これ、ちょっと「失恋ショコラティエ」に通じるものがあるんです。

主人公のトレープレフは作家志望のナイーブな青年。恋人ニーナを売れっ子作家トリゴーリン(トレープレフの母の恋人でもある)に奪われてしまいます。

悲しい別れを経た後、トレープレフは創作に打ち込み、世間に認められてきますが、ニーナのことを忘れられません。

一方、ニーナは、トリゴーリンに捨てられて、ボロボロ状態になってしまいます。
ある時、ふたりは再会して・・・。

愛する人との別れの経験と、忘れられない思いを創作の原動力にするトレープレフは爽太と重なり、失敗もするが、恋や人生を自由に選びとって生きていく強いニーナはサエコと重なります。

薫子に似ている人物もいます。
トレープレフを密かに思い続けているマーシャです。

彼女は、いつも黒い服を着ています。それは報われない人生の喪に服している意味なのです。

勝手に、自分の人生を喪中にしてしまう考え方が、なにも行動しないで、他人の批判ばかりしている薫子に重なるのでありました。

この「かもめ」。失恋作家の悲劇を描いているようで、冒頭には「喜劇」と記されているのです。
「失恋ショコラティエ」も、爽太とサエコの
前回のレビューで引用した「カレーも好きだよ」というようなやりとりなどを考えると、
けっこう喜劇的でもあります。

失恋してない「片思いショコラティエ」の未来は、悲劇となるか喜劇となるか。
ドラマ版は、原作にないオリジナル部分もあるそうなので、最終回まで見逃せません。
ドラマの8話は、原作でも、爽太、サエコ、えれな、薫子の思いがかなり大動(おおゆるぎ)してしまう部分なので、ワクワクします。
(木俣冬)

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