全国各地で関連商品の完売が続くなど社会現象を巻き起こし、流行語大賞でトップ10入りも果たした「妖怪ウォッチ」
女児を中心に世代や性別を超えた幅広い支持を受け、海外進出も果たした「アイカツ!」

児童向けアニメを代表する両作品でシリーズ構成を務めている脚本家・加藤陽一さんのロングインタビュー。
最終回では、「もんげー」「穏やかじゃない!」などの「引っかかる」フレーズの秘密や、現在公開中の「劇場版アイカツ!」と「映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!」についても語ってもらいました。

「ズームイン!!朝!」から学んだモノづくり「妖怪ウォッチ」「アイカツ!」脚本家・加藤陽一に聞く1
展開が突飛でも、感情の流れでは嘘をつかない「妖怪ウォッチ」「アイカツ!」脚本家・加藤陽一に聞く2


──「アイカツ!」の霧矢あおいの口癖「穏やかじゃない!」や、「妖怪ウォッチ」でコマさんがよく言う「もんげー」のような引っかかりのあるセリフは、どのようにして生まれてくるものなのでしょうか?
加藤 自分で考えながら書くことが多いです。「もんげー」の場合は、田舎者のコマさんが都会に出てきたら、驚くことがいっぱいあるだろうから、そこで必ず言う決めセリフがあったら面白いなと思って。何か良い言葉はないか探しました。
──まずは、先に必要性があったということですね。

加藤 はい。それで、キャラクターのビジュアルにマッチし、語感が面白くて、子どもが引っかかりそうな言葉。それで選んだのが「もんげー」だったのことで、会議で提案させて頂きました。あれは自分でも上手くはまったなと思います。「アイカツ!」だと、「穏やかじゃない」のほかにも、(冴草きいの)「オケオケオッケー」とか、(音城セイラの)「あなたがドなら私はレ」とか、いろいろありますね。
──風沢そらの「くるくるきゃわわ」や、姫里マリアの「ぱんぱかぱーん」も引っかかるセリフです。

加藤 それは、どちらもそのキャラの歌の歌詞から取ったセリフですね。あと、今シリーズ構成をやっている「デュエル・マスターズVS」でも、主人公がカードを引く時の「ドロドロドロドロドロドロドロー!」とか一連の熱血感を出すためのセリフを作って、けっこう気に入っています。
──これも分かりやすくて、引っかかりのある言葉です。そういった引っかかりのある言葉を作品の中に組み込むことは、かなり意識的に行っているわけですね。
加藤 セリフを工夫することで、引っかかりを作れるなら、やらない手はないですよね。「アイカツ!」の「おしゃもじをマイクに持ち替えて」や「芸能人はカードが命」もそうですね。
どの作品でも必ずなんらかの形でやろうとは思っています。やっぱりうまくハマるセリフには必ずひっかかってもらえますから。
──では、両作品の劇場版について、あらためて聞かせてください。先ほど、テレビアニメでは、初めてパッと見た人も面白いことを意識していると仰っていましたが、それは劇場映画でも意識されていまか?
加藤 両作品ともそうですね。「劇場版アイカツ!」の場合は、2年間と少しを経てきた流れに続いている話なので、それまでの話を理解してもらえていたら、より面白く観られます。でも、映画を最初にご覧頂いても分かるシナリオになっています。
いきなり出てくる固有名詞や分からない情報はひとつもないはずです。そこには気を遣いました。パズルみたいに「この要素はどこで説明しようかな?」と考えて、なるべくさりげなく分かるようにしたつもりです。「妖怪ウォッチ」も同じで、オープニングの歌(「ゲラゲラポーのうた」)が替え歌になっていて、これまでのあらすじが分かるようになっています。ホリデーシーズンの映画なので、子どもの付き添いで来て、初めて「妖怪ウォッチ」を観る親御さんも絶対にいらっしゃると思うんですね。そういう人も、「妖怪ウォッチ」は、ウィスパーとの出会いから始まった話なんだということが何となく分かってくれたら良いかなと。

──両作品とも、「この映画ではこれがやりたかった」とか、「テレビではできなかったけれど、劇場版だからやることができた」ということはありますか?
加藤 「アイカツ!」は、1話から始まった(星宮)いちごの話の集大成。どこかでちゃんとやらなきゃと思っていた、憧れの先輩・神崎美月との話は、劇場版にふさわしいと思いました。その話を実際に書いていく中、いちごの「素敵な明日を迎えられるようなステージにしたい」セリフが出てきたんですけど、考えてみたら、それは「アイカツ!」という作品そのものがそうだなと思って。シーズン1のころから、「どう考えたら前向きに生きられるか?」とか、「物事を良いと捉えるのも悪いと捉えるのも自分次第だよ」とか、ちょっとでも前向きになるきっかけになったら良いなと思って作っている作品なので。「素敵な明日を迎えられるようなステージにしたい」ということ自体がイコール「アイカツ!」だなと思いました。そういう意味でも集大成感があるのかなと感じています。

──いちごちゃん自身も、言葉にしたのは初めてで、たぶんそれまで無意識だったのでしょうが、ずっとその思いを持ってアイカツしてきたのだろうなと思いました。
加藤 そうですね。あとはやっぱり、ステージの上で、アイドルにしかできない方法で、自分の思いを相手に伝えるというということはやりたかったんですよね。
──「アイカツ!」では舞台挨拶にも参加されていましたね。上映時間的に大人のファンが多かったと思いますが。
加藤 子ども向けの完成披露試写会でのリアクションと、大人のリアクションは当然違っていて。大人は細かなところでも笑ってくれるんですよね。番組の最初の頃から好きでいてくれた方々が来て下さっているんだなと感じました。『アイカツ!』のアニメは2012年の10月から始まったのですが、女の子たちの間で確実に人気が出たと感じられるまでに数ヶ月かかったんです。放送開始直後は「うまく流行るかな」と思っていた時期もあったんですが、その時、ふと目にしたのが「アイカツおじさん」という言葉でした。「アイカツお姉さん」を含めた大人のお客さんは、その時期から、筐体(アーケードゲーム)にもアニメにも反応してくださって。ある意味、「アイカツ!」は、気持ち的にもプロジェクト的にも、大人のお客さんに支えられた時期があったんです。なので、その時から、そういうファンの方々には感謝の気持ちがあって。皆さんと舞台挨拶で初めて直接会えて、一緒に劇場版を観ることができたのは本当に嬉しかったし、感謝の気持ちでいっぱいでした。

娯楽大作を作ろうと思った「映画 妖怪ウォッチ」


──「映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!」に関しても、劇場版ならではのことはありますか?
加藤 テレビの「妖怪ウォッチ」は、毎回1話に3本くらい入っていて、しかも笑いに特化した作品。それに対して映画は、いつもの作り方とはまったく違っていて。親子で楽しめるエンターテインメント大作、王道の冒険物を作ろうという風にやってきました。だから、笑えて、ワクワクして、ドキドキして、感動して泣ける。本当に娯楽大作という形に特化しています。
──劇場版は「妖怪ウォッチが消えてしまう」というところから展開します。妖怪ウォッチを使って、妖怪を友達として呼べることの特別感や意味がより深まる物語だなと思いました。
加藤 日野さんが考えたストーリーとかアイデアを、いつものようにキャッチボールしながら、娯楽大作に仕上げていった形ですね。
──「アイカツ!」ではテレビシリーズから何度も泣かされてきたのですが、「妖怪ウォッチ」で涙腺が緩んだのは初めての経験で(笑)。やはりテレビシリーズとは違う新しい感覚がありました。
加藤 それは嬉しいですね(笑)。あと僕としては、こういう娯楽大作を日野さんと一緒に作る楽しさが単純にあって。「ああ、こういう考え方をするんだな」みたいな新たな発見もあった作品です。
──「妖怪ウォッチ」の笑いには悪ノリ感みたいなものをすごく感じて。きっと、シナリオ会議は本当に楽しいだろうなと思います。
加藤 テレビシリーズの当初からの方針として、「コントを作ろう」というのがあるんですよ。
──そこでも、放送作家としての経験が生かされてそうですね。
加藤 そうですね。日野さん自身にもすごくコント観があるんですよね。本当に幅広いクリエイターだなと思います。バランス感覚もすごくあるし、面白いし。
──「妖怪ウォッチ」の面白さの中には、パロディの要素も大きいと思います。最初から、パロディは入れて行こうという方針だったのですか?
加藤 元々の日野さんのアイデアの中にもありましたし、コント番組に、パロディネタってよくあるじゃないですか。
──定番ネタですね。
加藤 ええ。どう楽しんでもらうかを考えていく中、パロディは一つの大事な要素だと思っています。
──両作品とも子供向けの作品ですが、「子ども向けのアニメを作っている」という意識は、どの程度あるものでしょうか?
加藤 もちろん、メインのお客さんが子どもであることはずっと意識しています。「妖怪ウォッチ」の場合は、作品自体のコンセプトとして、「小学生あるあるを拾っていく」というのがあるので、自然と作品が小学生の子どもたちの方に向いていく部分もあります。「アイカツ!」の場合は、女の子たちが憧れられるかどうかが大事だと思っています。でも、ドラマの内容として、例えば「友だちとケンカして仲直りしました」みたいな話とか、「友だちの悪口は言っちゃいけないよね」みたいな(子供っぽい)話を積極的に作るわけではありません。子ども向けに優しくするというよりは、ドラマとしてしっかり描いて、伝え方は分かりやすくするという形ですね。劇場版の美月の感情なども、そうなんですけど。
──きっと、大人になってから観直した時、さらに理解できるってところもありますよね。
加藤 はい。もちろん、子どもにも伝わると思ってやってはいるんですけど、けっこう難しいお話をやっている部分もあります。だからといって、「難しいから、この話はやめよう」とはならないんですよね。「劇場版アイカツ!」は、ある種、出口の物語なので。
──出口ですか?
加藤 入口は、お弁当屋さんの娘がアイドルになろうと思ったこと。その先へずっと進んで来たら、ここまで来たという物語で、もはや少し話が難しいからといって、「じゃあ、この話は取り下げよう」みたいなことにはなりません。やるべきことをやっているというか、「キャラクターが動いていったらこうなるね」ということを、しっかり、なるべく分かりやすく、外連味も交えながら描くという意識ですね。

これからも「ふと観てみたら面白い」作品作りを


──「アイカツ!」も大人気ですし、「妖怪ウォッチ」はまさにムーブメントになっています。加藤さんが子供の頃に考えた「自分で流行を作ってみたい」という夢を実現した感覚はありますか?
加藤 それを「自分で叶えた」という感覚はありません。すべてが共同作業の中で、周りの人から刺激をもらったりしながらやっていることなので。代表的には「妖怪ウォッチ」は日野さん、「アイカツ!」は木村隆一監督と一緒だから作れた。でも、昔思っていた「多くの人に楽しんでもらうためにはどうすればいいか考えて物を作って、それで成果を出す」ということは、できているのかなと思っています。そういうことができたらいいなと昔思っていたことをやってみたら、やっぱり楽しかったという感じですね。
──公開中の2本の映画は、どういった形で楽しんでもらいたいと願っていますか?
加藤 やっぱり両作品とも家族で楽しんで欲しいですね。お子さんはもちろん、親御さんにも楽しんで欲しいんです。親御さんは、「作品を観て楽しむ子どもを見て楽しむ」という楽しみ方もあるのかなと。例えば、「アイカツ!」の歌を歌ったり、「妖怪ウォッチ」のエンディングで踊ったりしている姿が見られた可愛いと思うので。本当に両方ともファミリーの目線で楽しんでもらえる作品であって欲しいです。だから、今回観てくださった方はもちろんとてもありがたいし、こういう風に映画として広がっていくことで、今まで見たことのない人に観ていただける機会が増えるのもありがたい。「妖怪ウォッチ」も「アイカツ!」ももっと広がっていくといいなと思います。
──「アイカツ!」を友達に薦めると、「100話超えを今から観るのは無理」とか言われることもあるのですが、いきなり「劇場版」を観せてハマらせるという手もあるなと思っています(笑)。「アイカツ!」の魅力が凝縮されているので。
加藤 嬉しいですね(笑)。「アイカツ!」も集大成とは言っていますけど、仰るとおり、新たな入り口にもなっていますし。「妖怪ウォッチ」も映画を楽しんでもらったら、テレビやゲームも楽しんで欲しい。あ、どっちの作品も「ゲームも」というところが大事です(笑)。
──分かりました(笑)。では、最後に加藤さんが今後やってみたいこと、夢、目標などを教えてください。
加藤 そうですね。ある種、少し特殊なスキルというか、「子供を中心に、老若男女、幅広い方々に楽しんで頂ける作品作り」というのをもっとやっていきたいという気持ちはあります。「ふと観てみたら面白い」というライトな入り口で観てもらえる作品を作ることが自分に向いていると思うんですよ。だから、今楽しくやらせてもらっていることを、もうちょっと続けて行けたら良いですね。
(丸本大輔)