「鉱物」が流行っているらしい。何しろ、鉱物(宝石)を主役にしたマンガが人気を博しているというのだから。
あと、自分で鉱物を育成する人までいるとのこと。すごい熱量だ!

しかし、こうした現状が筆者の耳には届いてなかった。個々の趣味が細分化された現代だからこそ、こういう現象はありがちである。

でも、そんなに魅力的ならば、あとちょっとだけ間口を広げてもいいのでは? その役割を担うべく、昨年12月に出版されたのは『擬人化鉱物図鑑』だ。
イケメンキャラで『擬人化鉱物図鑑』「銀」は壮年の執事、「カルパチア石」は宇宙で活躍するヒーローに
『擬人化鉱物図鑑』/イカロス出版

読んで字の如しだが、この図鑑では鉱物をその特徴に合わせ美麗なイケメンキャラに擬人化し、イラストで紹介しているという。しかし、なぜそんなことを……?

同書のリリースでは、こんな問題提起が掲げられている。

「鉱物ってどういうものなの? どんな鉱物があるの? といった素朴な疑問を解くにも、本格的な図鑑ばかりで、『なかなか硬派なジャンルだな……』と二の足を踏んでしまいがち」

本格仕様な資料ばかりを前に「硬派だ……」と、入門者が後ずさり。そんな残念をさせないための手法が、イケメンへの擬人化だった。いやはや、振り切ってるな!

「銀」は壮年の執事に、「プラチナ」は細マッチョの科学者に


ところで、どんな鉱物がどんなイケメンへと擬人化されているのだろうか? その一例として取り上げたいのは、「銀」である。

●銀
いわゆる“枯れ専”女子にアピールするかのような「銀」の容姿。髪の色はロマンスグレーで、品の良い髭を蓄えたナイスミドルがそこには描かれていた。
さらに彼は、右手に銅製のポット、左手にトレイに乗ったカップを携えつつ、こちらを見つめ微笑んでいる。「銀」は“執事キャラ”なのだ。

『いぶし銀』の言葉通り、あまり若くせず、魅力的な壮年の男性に」(同書解説より)

もちろん擬人化された各鉱物には、それぞれの特徴に沿った性格が用意されている。
「銀は延性が高く、古来より食器や装飾物に加工されてきた。また、『いぶし銀』などの言葉があるように、そのシックな輝きも魅力。これらから、渋い有能執事キャラに。落ち着きと知性を感じさせる性格がよく合う」(同書解説より)

一分の隙もない、完全なる擬人化だ。鉱物の持つ特徴が、見事にそのまま容姿と性格に変換されていた!

では、もう一つご確認いただこう。
「銀」以外に、こんな擬人化もあるのだ。

●プラチナ
白衣をまとい、勝ち気な笑顔でこちらを見つめるメガネを掛けた科学者がそこには描かれている。彼が「プラチナ」である。
「化学的に安定していることから、白衣をまとった科学者のキャラクターに」
「金属の肉体という特徴とのバランスを考えて、服装はシンプルにする」(同書解説より)

また、ワイシャツの袖をまくった腕は太く、筋肉質なイケメンだと察することができる。
かなり重い鉱物なので肉体美のあるマッチョに。大胆に肉体を金属で表現してもおもしろい」(同書解説より)

彼(プラチナ)の性格面は、以下のような設定になっている。

「化学的にとても安定しており、その重さも他の金属鉱物に比べて高いところから、落ち着いた性格の細マッチョの科学者に」(同書解説より)

“遥か彼方の宇宙から来たスーパーヒーロー”に擬人化された鉱物


「銀」や「プラチナ」は、マニアではない筆者のような門外漢にもお馴染みの鉱物だ。擬人化されても、それなりに腑に落ちてしまう。
では、あまり馴染みのない鉱物の擬人化を見せられたならばどう感じるだろう? ここで受ける印象が大事になってくる。即ち、それは“広い間口”になり得るかどうかの境目なのだから。

では、馴染み薄い鉱物の擬人化の一例として、以下をご覧いただこう。

●カルパチア石
1955年に発見された珍しい炭化水素鉱物で、ウクライナのカルパチア山脈で見つかったことからその名がついた。琥珀などと共に有機鉱物に分類され、多環芳香族炭化水素のコロネン(亀の甲のようにベンゼン環が六個つながった平面的な環状構造をなす物質)で構成されている。

色は黄色で、蛍光の量子収率を持ち、紫外線を照射すると青白い強く美しい光を放つことでも知られる。また、カルパチア石は土星の衛生のひとつ「タイタン」の表面にもその存在が観測された。

この鉱物を擬人化すると、マントをなびかせたスーパーヒーローのような容姿になる。
「ヒーローの証であるマントは、青く、大きくたなびかせて、ダイナミックに表現」(同書解説より)
もちろん、ヒーローだけに肉体は逞しい。ヒーロースーツから浮き出る腹筋は、見事に割れている。
「スリムなフォルムながらも、肉体は筋骨隆々に。
青く光る鉱物に合わせて、スーツの模様をも青く発光したように描く」(同書解説より)
ちなみに彼、地球人ではない。だって、「カルパチア石」は土星の衛星でも観測されているのだから。
「容姿は、爽やかさと逞しさを兼ね備えた“男前”な印象に。ポイントは宇宙人という設定なので、ほんの少し耳を尖らせること」(同書解説より)

遥か彼方の宇宙から来たこのスーパーヒーローのキャラ設定は、以下だ。
「紫外線を当てると自然界の色とは思えない鮮やかな蛍光ブルーに。また、土星の衛星であるタイタンにも存在する、他の鉱石とは一線を画す存在。ここから、宇宙を股にかけて活躍するミステリアスなスーパーヒーローに

“イケメン”を通過し、「鉱物」の真髄と対面する


「眼福」なる言葉があるが、多くの人(男女どちらも)にとって“イケメン”は眼福だろう。やはり、容姿端麗には惹き付けられるものがある。

イケメンに擬人化してもらえるとキャッチーになる。“人となり”を通じて特徴を知り、鈍感ながらようやく鉱物へと意識が向く。そこから実物を目にし、擬人化というクッションなしにようやく真髄と対面する。
このシステムが、いわゆる「間口を広げる」という構図だ。

入り口はなんであれ何かのきっかけでハマってしまえば、いつの間にか誰もが認める愛好家に成長。そんなケースは、どのジャンルにも存在するだろう。
ローリング・ストーンズの咀嚼(カヴァー)によってオリジナルへ遡り、いつしかマディ・ウォーターズやロバート・ジョンソンのリスナーにもなっている。そんな向学心に相通じていると筆者は感じた。
(寺西ジャジューカ)