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今夜拡大版「ファミリーヒストリー」坂本龍一の父は文学史に残る伝説のスーパー編集者だった

2018年4月23日 09時45分 ライター情報:近藤正高
著名人の家族の歴史を毎回、徹底取材によりあきらかにするNHK総合の番組「ファミリーヒストリー」。今夜7時半から放送される73分拡大版では、国際的に活躍するミュージシャンの坂本龍一が登場する。
田邊園子『伝説の編集者 坂本一亀とその時代』は、息子・坂本龍一の依頼を受けて元部下の手で書かれた評伝。坂本一亀は生前、田邊の原稿を読んでチェックを入れたあと、出版は自分の死後にするよう頼んだという。カバーに使われた若き日の彼の写真が、坂本龍一そっくりで驚く

坂本龍一の家族といえば、彼の父親・坂本一亀(かずき)は、戦後文学史に残る数々の作家、作品を世に送り出した名編集者として知られる。きっと今回の番組でも大きくとりあげられることだろう。折しも放送のタイミングで、一亀のかつての部下・田邊園子による評伝『伝説の編集者 坂本一亀とその時代』(作品社、2003年)が、両者の古巣である河出書房新社より文庫化された。当記事では同書などを参照しながら、坂本一亀その人の業績を振り返ってみたい。

三島由紀夫『仮面の告白』起稿の日付をめぐる謎


坂本一亀は1921年、福岡県甘木町(現・朝倉市)に生まれた。旧制中学卒業後、上京して日本大学の国文科に進むも、太平洋戦争中の1943年に学徒出陣で戦地・満州(現在の中国東北部)に赴く。敗戦時は少尉で、九州などを管轄区域とする陸軍・西部軍の通信隊にいたという。

終戦後、郷里に復員してもしばらく小説ばかり読んでいた坂本は、久しぶりに外出して立ち寄った書店で文芸雑誌「近代文学」の創刊号を手に取る。そこには埴谷雄高(はにやゆたか)の『死霊』など、それまで読んできたどの小説ともまったく異なる小説が掲載されていた。この出会いが、その後の彼の進路を決める。

1947年1月、彼は河出書房(河出書房新社の前身)の元社員の紹介を得て同社に入社した。新人ながら同年7月には社の伝統的企画である「書き下ろし長編小説」シリーズの復活を提案し、実現させている。翌48年6月にはシリーズ第1作として椎名麟三『永遠なる序章』が刊行された。

それから2カ月後の8月、坂本は、「書き下ろし長編小説」の2作目を、当時新進作家だった三島由紀夫に依頼するため、彼の勤務先の大蔵省(現・財務省)の仮庁舎へ赴く。東大法学部から高等文官試験を1回でパスして大蔵官僚となった三島だが、書き下ろしの依頼に即座にOKすると、「俺は今度の長編に賭ける」とその翌月には大蔵省をやめてしまった。

こうして次の年、1949年7月に刊行されたのが『仮面の告白』である。24歳の三島は同作により作家としての地位を確立した。当初、この年2月に予定されていた脱稿は4月までずれ込む。三島が全340枚の原稿を坂本に手渡したのは、神田の喫茶店「ランボオ」でだった。

ライター情報

近藤正高

ライター。1976年生まれ。エキレビ!では歴史・科学からドラマ・アイドルまで手広く執筆。著書に『タモリと戦後ニッポン』(講談社現代新書)など。愛知県在住。

URL:Culture Vulture

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