自分を「普通の男性」だと誤解している「痴漢の補完勢力」たち
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痴漢大国と言われる日本。

世界的にも問題視されながらも、いまだにこの国はこの社会課題を解決できていません。
そのためか、Twitterを中心に、ネット上では度々痴漢がテーマに議論になります。私も朝日新聞社WEBRONZAにて昨年痴漢をテーマに特集を組んだことがありました。今年は、加害者更生を専門とする斉藤章佳氏による書籍『男が痴漢になる理由』が発売したこともあって、さらに痴漢の話題を目にすることが多くなったと感じています。


実態は「痴漢VS普通の男性」ではない


ところが、ネット上では、痴漢に反対する人(主に女性中心)と、冤罪やノットオールメン(全ての男性が痴漢ではない!)を主張する人(主に男性中心)が言い争って、延々と似たような議論が繰り返されているのが実態です。

なぜすれ違いが起こるのか、その最大の原因は「普通の男性」に対する認識のズレだと思います。要するに、冤罪やノットオールメンを主張する人の多くが、男性を「痴漢VS普通の男性」という形で敵・味方を分けて捉えています。

一方、痴漢に反対する人はそうではなく、「痴漢&痴漢の補完勢力VS普通の男性」と捉えていると思うのです。
では、「痴漢の補完勢力」とはどういう人々かと言えば、以下のようになるでしょう。

(1)被害を見て見ぬふりする男性
(2)「お前にも原因がある」とセカンドレイプする男性
(3)被害に遭ったことを矮小化する男性やエンタメ化する男性
(4)男性差別だとして女性専用車両に反対する男性
(5)すぐ冤罪の話をして自己保身に走る男性
(6)わざわざノットオールメンを主張する男性
(7)痴漢反対を叫ぶ女性を攻撃する男性
(8)承認を求めて痴漢に反対するメサイアコンプレックス男性


つまり、冤罪やノットオールメンを主張する人は自分のことを「普通の男性」と思っているようですが、痴漢被害者に向き合っていないという面から考えると、皆「痴漢の補完勢力」に該当するのであり、痴漢同様に非難されているのです。

パワハラ冤罪防止研修ばかりだったらどう思う?


このうち、(1)~(4)に関しては「痴漢の補完勢力」に該当するのは理解できる人が多いと思うので、(5)の冤罪と、(6)のノットオールメンと、(7)メサイアコンプレックスについて解説したいと思います。

たとえば、「政治山」というサイトのこの記事は、満員電車通勤を禁止にした会社の特集を組んでいるのですが、記者が満員電車のリスクについて「痴漢などの冤罪というケースもある」と書いています。痴漢被害のリスクは書いていないにもかかわらず、いきなり冤罪の話が出てきているのです。

もし会社が管理職に向けて「パワハラを起こさないための管理職向け研修」ではなく、「パワハラ冤罪の被害に遭わないようにするための管理職向け研修」しか実施しなかったら、「被害者を無視して自己保身ばかり考えている!」と思うのではないでしょうか? それと同じで、冤罪の話をするというのは、被害者を無視して自己保身ばかり考えていることなのです。

また、学校でイジメの問題が勃発して、どうすれば解決できるかを話し合わなければならない時に、「冤罪怖い!」とひたすらそればかり心配し、挙句の果てに「イジメられっ子たちは冤罪の僕を攻撃するから僕は被害者だ!」と言い出す人がいたらどうでしょうか? 全くイジメの被害者に向き合っていないし、イジメ解決を邪魔していると判断して当然でしょう。
彼らがイジメ加害者の補完勢力に成り下がっているのと同様に、冤罪の話をする人も痴漢の補完勢力に成り下がっているのです。


ノットオールメンはセカンドレイプ


次に、「普通の男性と痴漢は違う!」とノットオールメンをわざわざ叫ぶ男性も同様です。たとえば、学校や社内で財布が盗まれた時、盗まれた人のことを心配するよりも“前”に、「普通の人と泥棒は違う!」と言い出す人がいたらどう思うでしょうか? 「こいつ自己保身に走っているな」と思いますよね。わざわざノートオールメンを叫ぶというのは、それと同じで自己保身に走っているだけの人です。

それに対して、「男は全て痴漢なんて疑われたら弁明して当然だろう!」と反論する男性アカウントをよく見かけますが、別に女性は「男の全ては痴漢」とは言っていないと思います。確かに「男性の全て」を主語にしている女性アカウントもいますが、それはおそらく「(私の目に映る)男性の全ては痴漢の味方をしている」という主張でしょう。要するに、男は全て痴漢という認識は被害妄想から来る勘違いです。


また、女性が男性を痴漢なのかどうか疑い目を向けるのは当然です。犬に噛まれた経験があれば、「この犬も私のことを噛むのではないか」と疑いの目で見るのは当然のように、痴漢の被害に遭えば、それに属する全ての人を疑いの目で見てしまうのは至極普通のことでしょう。にもかかわらず、「ノットオールメンだ!男の俺を疑うな!受け入れろ!」というのはただのセカンドレイプです。


メサコン男子が女性バッシングに変わる時


最後に、メサイアコンプレックスの問題です。先日、痴漢問題について書かれたとあるブログを教えていただきました。「フェミニストが怖くて痴漢の問題について意見を述べられない」という意見を書いた学生のブログだそうです。

ノットオールメンの問題に関しては前項で既に述べましたが、私はこのブログに対して、「女性のために声を上げた」という表記をしていることにも強い違和感を覚えました。
ここから、「女性のために反対してあげている」という「隠れた上から目線」意識が垣間見られます。いわゆるメサイアコンプレックス(自分が救世主メシアになることで承認を得ようとすること)です。

ところが、「他人のためにしてあげる」という意識の人は、自分が想定する承認や利益が得られないと、手のひらを返します。たとえば、普段の飲みミニケーションで上司が「ワシが出すから気にするな!」と奢ったのに、部下が気に食わないことをしてしまうと、「可愛がってやっているのに!」と怒り出すことがあります。勝手に奢ることに対する見返りを期待したのは自分自身にもかかわらず。

残念ながらこのブログの彼も、ネットで「そうだよね!」という期待した承認を女性から得られなかったため、矛先を女性に向けてしまいました。
そうして、痴漢の補完勢力に成り下がってしまったわけです。本人はそれを女性の側に原因があると思っているのかもしれませんが、上記のように実は自分の中に問題があることです。


あなたは誰のために戦っているのか?


私もフェミニストを名乗りながらも、一部の意見の異なるフェミニストの方々から批判を受けることがあります。もちろん真っ当な批判は受け止める一方で、罵詈雑言や僻みや粘着されることもたくさんあります。それでも一切自分の性差別反対の主張をやめません。

というのも、私は私が理想とするジェンダー平等の社会を実現することを目標としているのであって、別に女性からの承認を得るためにしているわけではないからです。見知りもしない女性アカウントからちょっと批判を受けただけで痴漢反対の主張を取り下げてしまうようでは、所詮女性の承認が欲しかっただけではないかと疑ってしまいます。


確かに私も100%女性のためではないと言えば嘘になります。でも、そういう要素があったとしても、あくまで半径5メートル以内にいる身近な女性や、リアルやネットで自分のビジョンに共感してくれている女性のためであって、決してネット上で悪口を言う見知らぬノイジーマイノリティーの女性のためではありません。どれだけネットで後者に批判されようが、私にとって大切なのは前者なので、前者にとって必要なことは訴え続けます。

一方で、ブログの彼は「見知らぬネット上の女性から酷い扱いを受けたから、身近な女性のためになるはずの痴漢反対の意見を述べない」という選択をしてしまっています。ネットのちょっとの非難を恐れて身近な女性すらも守れない、そんな人間で良いのでしょうか? 是非自分にとって大切な人は誰か考えなおして欲しいものです。

痴漢の補完勢力にならないようにしよう


以上、冤罪、ノットオールメン、メサイアコンプレックスと3点について詳しく説明してきましたが、「被害者に向き合わず、痴漢の加害者に利する行動ばかりしている」という点において、(1)~(8)のすべてが「痴漢の補完勢力」と言えるわけです。

確かに全ての男性が痴漢の補完勢力ではないのですが、ネット上で女性に絡んでいる人の大半は(1)~(8)なのが現実です。男性はまずその現実をしっかりと受け止めるべきであり、絶対に痴漢の補完勢力にならないことが大切だと思います。

大切なことは「男として」痴漢問題にどう向き合うかではなく、「人として」どう向き合うかです。男という性別フィルターに縛られていては、その答えは見えないと思います。どうか自分の性別フィルターをメタ認知して、それを取ったありのままの社会を見つめて、一人の人間として痴漢に反対をして行きましょう。

LINEを使った通知システムを痴漢対策に応用したい


さて、痴漢の補完勢力に邪魔されがちな痴漢に関する議論ですが、解決しなければならないのは痴漢をいかに撲滅するかです。そんな折、面白いニュースが入ってきました。

大日本印刷、東京メトロ、LINEが、東京メトロ銀座線の最後尾車両内で、席に座りたい妊婦と席をゆずりたい周囲の乗客をつなぐサービス「&HAND(アンドハンド)」の実証実験を実施すると発表したのです。

実験範囲があまりに狭いために、正直なところ効果は疑問ですが、アイデア自体はとても素晴らしいものです。私も席に座ってiPadで新聞を読んでいると、過集中のために周りに気が付かないので、このようなサービスがあれば是非使ってみたいと思います。

そして、このシステムは、痴漢の対策にも応用できると思うのです。痴漢の被害に遭った人がLINEで周りにいる人に知らせることができれば、周りにいる人々が一斉にキョロキョロし出します。それだけで、痴漢は犯行に及びにくくなるわけです。是非3社は、痴漢の対策にも機能を広げて欲しいと思います。賛同してくださる方は是非、それをSNS等でシェアして頂けると幸いです。
(勝部元気)