芸能ニュースを超えた社会的事件扱いで、スポーツ新聞が連日検証を重ねる「SMAP解散」報道。
結成当時は名もなき少年だった彼らが、それぞれドラマやバラエティ番組においてピンで主役を張れるスーパーアイドルへと成長した。
実績を積み、年齢を重ね、地位と名声を得て自我が芽生え、気が付けばメンバー全員アラフォー男性だ。当然、芸能人として、さらに1人の男として各々やりたいことが変わってくるだろう。
その過程で周囲を巻き込み、何らかのズレが生じたところで責めることはできない。いつの時代もグループはチームワークである。それぞれの役割があり、絶妙のバランスで成り立っている。野球だって全員4番バッターを並べたところで勝てるわけじゃない……と90年代に長嶋監督が教えてくれた。


今思えばチーム編成が無茶苦茶だった巨人


今思えば、90年代中盤から後半の巨人チーム編成は無茶苦茶だった。
市場に出た大物選手には片っ端からアタック。FAで獲得した落合博満を4番に据え日本一に輝いた94年のオフには、ライバルチームのヤクルトから広沢克己とジャック・ハウエルを獲得。加えて前年メジャーで打率.333、15本塁打を記録したシェーン・マックというバリバリの現役大リーガーを年俸4億円で連れてきた。
今で言えば、ヤクルトからバレンティンと畠山和洋を獲得し、その上MLBオールスタークラスの外野手を来日させるような荒技だ。さらに96年オフには、清原和博(西武)や石井 浩郎(近鉄)といったパ・リーグを代表する強打者も巨人へ。ついでに台湾で打率.375を記録した「台湾球界のイチロー」ことルイスも獲得。
翌年のドラフトでは、慶応大のプリンス高橋由伸が逆指名入団。ファンですらドン引きしちゃう貪欲補強。

この時期、4番コレクターと揶揄されたミスターだが、その一方でしっかり生え抜きスラッガー松井秀喜の「4番1000日計画」を継続させていたことも驚きだ。

異彩を放っていた男・川相昌弘


そんな「全員主役の超攻撃的野球」の中、貴重な打線の繋ぎ役として異彩を放っていた男が川相昌弘である。
64年9月生まれ、82年ドラフト4位で岡山南高から巨人入団。ヤクルト、近鉄、巨人の3球団が競合して巨人が当たりクジを引き当てたわけだが、川相少年はその瞬間「何だ、よりによって巨人かよ」と思ったという。当時は原辰徳、中畑清、篠塚利夫らが全員20代の全盛期バリバリで投手から内野手に転向したばかりの自分が入り込む余地なんかない。
ったくついてねぇなと。

18歳なのに顔が老けてるからあだ名は「ジイ」。年俸240万円からプロ生活をスタートさせた若手時代はなかなか出番に恵まれなかったが、7年目の89年に藤田元司監督が戻ってくるとショートレギュラーを奪い、ゴールデングラブ賞を獲得。
90年には当時のプロ野球新記録シーズン58犠打を記録。翌91年にも自己記録を更新する66犠打に3年連続のゴールデングラブ賞と誰もが認める主軸選手として定着した。

巨人を成立させていたのは川相だった


1塁手、3塁手、外野手は毎年のように強打の選手が移籍市場に出る。
だが、遊撃手はそうもいかない。補強に燃える男・長嶋茂雄が監督就任しても、ショートストップだけは不動だった。
94年には打率3割に到達して初のベストナインとゴールデングラブ賞のダブル受賞。お立ち台では「パパ、頑張ったよ~!」と自身の子どもの名前とともに絶叫し、世の中のサラリーマンから拍手を浴びた。どんな大物転職組が来ても腐らず己の仕事を全うして人生送りバント。95年にはなんと47犠打を決め失敗0。
時に主役を食う存在感を発揮する脇役の鏡。ガンバレ川相。
炎天下の多摩川で汗と泥にまみれた無名の叩き上げ選手が、混乱期と言っても過言ではない96年から98年までの巨人選手会長を務めた事実は興味深い。今思えば、原が引退したあの時代の巨人を巨人として成立させていたのは落合でも清原でもなく、川相だった。

98年には平野謙のプロ野球記録を抜く通算452犠打を達成するも、翌年アマ球界ナンバーワンショート二岡智宏が入団したこともあり出番は徐々に減少。ピンチバンター職人として存在感を発揮しながら、03年には現役時代ともに戦った原監督のもと世界記録の通算512犠打を達成した。

その年に現役引退してコーチ就任を一度決意しながら、原監督辞任により撤回。巨人一筋21年のベテランが新天地の中日ドラゴンズへ。送りバントで己の野球人生を切り開いた男は06年限りでそのキャリアを終えた。

2016年夏、51歳になった川相昌弘はリオ五輪やSMAPの喧噪とは無縁の炎天下のジャイアンツ球場で巨人3軍監督として若い選手たちを鍛える日々。ちなみに20数年前、東京ドームのお立ち台でその名前を絶叫した息子・拓也は25歳の青年に成長し、巨人の育成選手として父の背中を追っている。
(死亡遊戯)


(参考資料)
「バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語」(赤坂英一著/講談社)